儲からない、不潔とネガティブなニュースで敬遠が発生
そもそも並べすぎという声も
ただ、おいしく聞こえるハイテク系の話に罠がありがちなのが、昨今の中国IT事情である。
まずは中国の投資話にありがちな「話と違って儲からない」。シェアマッサージチェアを設置する側は他のシェアサービスと比較して「置いておけば儲かる。だから設置する」と考え、所有する空間にそれを導入するわけだが、個人がテナントを借りて設置すればその分だけ家賃と電気代がかかる。実際、なかなか黒字のラインに到達しないようだ。他のシェアサービスと比べてリピーターが少ないのも原因だ。リピーターが少ないのはそもそも気持ちがよくないというのもあるし、ネガティブなニュースが流れるのも原因だ。
そんなニュースの一例を挙げよう。今年6月のことだが、中国・広州市の高速鉄道、「広州南」駅に設置されたシェアマッサージチェアに大量の虫が湧いていたことが話題になった。これを受けて広州南駅は消毒作業を実施して清潔さをアピールしたが、イメージは悪い。また、5月には同じ広州市で女性がシェアマッサージチェアを利用後、体中がかゆくなったので医者に見せたらじんましんだったというニュースも。食事を食べながら機器を利用したり、機器に足を乗せて利用する人もいたりと、なにかと汚いというイメージがつきまとう。
鉄道駅にもシェアマッサージチェアは展開されているが、それを並べ過ぎて問題になった。つまり製品単体が普通のベンチに比べて巨大で、同じスペースで座れる人は1人しかいない上に、空港のゲート前のような鉄道の待合室において、座って休みたいという人々が多くいるのに巨大な有料の椅子が占拠しているといった問題が発生したわけだ。しかも前述したように、疲れて無料で座ろうものなら、機器が音声で警告するので、これまた厄介。またマッサージ中は足が固定されがちだが、乗車時間に動けず列車を乗り過ごしたという話も。
ほかにも医療業界から誰もがマッサージチェアでリラックスできるわけでなく、人によっては身体に害を与えるといった指摘も出ている。儲かるとばかりに過剰投入しすぎた上に、メンテナンスをしっかりしてないので問題が出るという、シェアエコノミーにありがちな轍を踏んだわけだ。逆に言えば、日本のマッサージチェアは機器を大量投入しすぎず、利用者が清潔を意識して利用し、高頻度で清掃をすれば公共空間と共存し続けられそうだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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