ユーザーイノベーション:最も獲得が難しいニーズに関する情報を活用せよ
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社外との協業の中でも、ユーザーを対象としたものは製品/サービスの開発に大きく役立つ可能性がある。本稿ではユーザーイノベーションの定義や特徴、活用する際の注意点について説明する。(連載一覧はこちら)
ユーザーイノベーションの定義
「イノベーションの源として、ユーザーを生産者と同程度もしくはより重要なものとしてとらえる考え方」をユーザーイノベーションと呼ぶ。1970年代後期にvon Hippelにより研究が開始された。コーポレートベンチャリング(第6回参照)がベンチャー・スタートアップ企業との協業であったのと同じく、ユーザーイノベーションはユーザーを対象としたオープンイノベーション活動と言える。
*von Hippel, Eric [1988], The Sources of Innovation, Oxford University Press. (榊原清則訳 『イノベーションの源泉』 ダイヤモンド社, 1991年)。
1976年の報告において、von Hippelは過去数十年間にわたる4種類の科学機器のイノベーションを調査している。結果として約80%が生産者である科学機器メーカーではなく、日々製品を利用するユーザーである科学者によって開発されたことが明らかになっている。今日のさまざまな分野におけるイノベーションの中には、使う側によって開発されているものが多い。よってユーザーをうまく活用すれば、イノベーションの創出に役立てられる。
*von Hippel, Eric [1976], "The dominant role of users in the scientific instrument innovation process," Research Policy, 5(3), 212-239.
従来の企業によるイノベーションの場合、具体的な利益につながる商業化へのインセンティブによってイノベーションが拡散する。一方でユーザーイノベーションの拡散メカニズムには以下の3つがある。
●ユーザーが自身のイノベーションを無償で公開する
●ユーザーが自身のイノベーションを商業化する
●企業がユーザーイノベーションを取り込み商業化する
とはいえ多数のユーザーが類似のニーズを元に類似のイノベーションの創出に取り組む傾向があるため、企業によるイノベーションと比べて無駄が多い。
ユーザーイノベーションの特徴
ユーザーイノベーションはイノベーションの創出に必要な「情報の粘着性」(特定の情報を別の場所へ伝えるためにかかるコストを表現する言葉)の問題を解決できる。ニーズを認識しているユーザーが企業にその情報を正確に伝えることは難しい。それに対しては、例えばユーザーがイノベーションの試作品を見せることで問題が解決できる。ソリューションに関する情報や開発能力が足らない試作品であっても、ニーズに関する情報と比べてこれらは獲得しやすいため、イノベーションの障害とならない。
また、生産者である企業にとってユーザーと顧客が同一でない場合がある。消費財メーカーではユーザーはしばしば顧客そのものである。一方で多くのBtoB企業の場合、最終的なユーザーと顧客は異なっている。ユーザーが持つ情報は粘着性の問題のために、仲介者である顧客に対しても正確に伝わらない。そのため企業は、直接の顧客に加えてエンドユーザーにも注目する必要がある。
HarhoffはEU・イスラエル・米国・日本の発明者/企業を対象とした調査を通じて、ユーザーイノベーションについての分析を行っている。本報告では、イノベーションの創出において生産者である企業とユーザーもしくは顧客が公式または非公式に協業した場合、生み出される特許の価値の向上や商業化の促進を通じてイノベーションの創出が加速されることを明らかにしている。
*Harhoff, Dietmar and Krim R. Lakhani (eds) [2016], Revolutionizing Innovation Users, Communities, and Open Innovation, MIT Press.
ユーザーは投資を伴わずに既存の知識や能力を用いてイノベーションに取り組むため、コスト面で企業よりも有利である。同書籍の中でLuethjeはユーザーイノベーションが企業によるイノベーションと比べて以下の強みを持つと報告している。
●機会の同定とニーズの理解
・自身が把握しているためニーズ情報へのアクセスが容易である
・ニーズを明らかにするために日々の活動を通してさまざまな検証を行える
●ソリューションの開発
・よりオープンかつ柔軟に複数の知識を組み合わせられる
・規制・安全基準・権利などを考慮する必要がない
・サンクコストの影響が少ない
・他人が見出したソリューション情報へのアクセスが容易である
●ソリューションの検証と改善
・日々の活動を通してソリューションを検証できる
・試作したものを自身で検証できる
・素早く安価に試行錯誤を行える
・他人が行った試験結果をより深く理解できる
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