中国ネット文化最初期から存在した掲示板サイトが消滅
2ちゃんねると同じく、名作スレなどが多数誕生した
中国で現存していた最も古いSNS「天涯社区」が終了した。あらかじめ結論を一言で書くと、「資金不足が原因で終了」した。「中国のSNSが終了」となると、「言論の自由が封鎖された」と思うかもしれないが、必ずしもそうではない。
天涯社区の盛衰については、回顧の記事が中国で多数登場したこともあり、どんなサイトでどれくらい盛り上がってそして終わっていったのかをまとめ、読者には日本の古参サイトに思いを馳せていただければと思う。
まず、天涯社区は何かと言えば、真面目な話題が中心の2ちゃんねるのような掲示板だ。この天涯社区は1999年にスタートしたが、中国のインターネット普及は日本よりもずっと遅かったため、最初期からあるサービスと見なしていい。
なにせ人口が14億人もいる中国で、ネット人口が1億人を突破したのは2005年、Windows XPが最新OSだった頃の話だ。2003年、中国のネットユーザーが8000万人弱の時代に、天涯社区のDAU(一日平均アクティブユーザー数)は2000万人。つまりネットユーザーの4人に1人が見に行くほどのサイトだった。
もちろん、天涯社区以外にもいくつか掲示板サービスはあったのだが、その中でも天涯社区は経済、歴史、社会、国際など、真面目な話題が自然と集まった。また、2ちゃんねる発の「電車男」のように、天涯社区からの名作コンテンツやネットの有名人も生まれた。名作が多数誕生したことから、今も天涯社区から勝手に拾い上げられた私的殿堂入り作品集が、ECサイトの淘宝網(TAOBAO)で売られている。こうしたことから00年代は中国内外のメディアから「中国で最も有名な価値ある掲示板サービス」と評価され、全盛期には登録ユーザー数は1億3000万人超え、将来を期待され資金調達も受けた。
しかし2010年以降、天涯社区は徐々に衰退していく。中国版Twitterと当初呼ばれた微博(Weibo)に始まり、微信(WeChat)やショートムービーのTikTok、ゲームの話題などに特化した新しいSNSの登場でユーザーが分散してしまい、さらにスマートフォンの普及で一層その傾向は加速した。スマートフォンの普及でインターネット利用者は億単位で増えていく一方で、天涯社区のアプリの利用者は減少していき、2016年にはMAU(月平均アクティブユーザー数)には300万人弱に。2020年には100万人を下回り、2021年には60万人となった。
収入を得られるわけでもないのに書いたからこその独自文化
でも、最近のネットユーザーはショートなコンテンツを好む
最近のSNSでは各個人に最適化されたタイムラインで、無数のクリエイターが創作した人気の文章や動画をササッと見られる。そして中国のいくつかのSNSプラットフォームでは、コンテンツ制作者に対して、見られた回数に応じた報酬が払われるようになった。コンテンツに価値がついたのだ。
SNSの商業化の結果、天涯社区を回顧する記事では「娯楽目的や気持ちや知識の共有目的がなくなった」「故郷にいるかのような人間味のある風景がなくなった」「魂が震えるような喜びを見つけることが難しくなった」などと書かれている。天涯社区が輝いていた頃は、まだコンテンツの商業化という発想がなかったため、「純粋にただ伝えたい、書いたものを見せたい」という動機で無償で文章を書いたのだ。そこで注目された文章の質は極めて高いものだったという。
文章の質こそが天涯社区のアイデンティティーだったのに、昨今のSNSにより、冗長の文章が読めなくなり、長い文章に耐えられる人が年々少なくなっているのもまた致命的だ。
天涯社区はWeiboのような独自サービスから、メタバースまで模索したが受け入れられなかった。それは良質な文章サイトからの転身をよしと思われなかったからだろう。一方で長い文章には「興味があれば読んでみてもいいが、記事は非常に長いので忍耐が必要だ」というコメントをよく見るようになり、ジレンマが増していった。
以前は貧困問題や社会問題についての文章の行間を読み、作者と読者が真面目に討論するやりとりがあったのだが、そうした光景ももはや見ないという。この部分について筆者がフォローすると、SNS上のコンテンツのショート化や商業化に加えて、中国政府による社会に前向きで明るいコンテンツを積極的に出していく方針、各SNSの運営サイドが「事なかれ」で自主的に社会問題の話題を消していこうとする運営体制も背景にある。
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