シャープの親会社である鴻海科技集団(Foxconnグループ)の劉揚偉会長が、7月3日~5日、大阪府堺市のシャープ本社を訪れ、3日間に渡って、役員や事業責任者、社員と意見交換を行った。
本社訪問以外のスケジュールはなく、まさに目的を絞り込んだ来日だ。
では、その目的はなにか。シャープでは次のように説明する。
「シャープが、これからも優れた製品、サービス、ソリューションを生み出し続ける企業でありつづけるために、企業の根底となる企業風土や存在意義、事業領域を共有し、次なる時代に進むべき方向性についての意見交換を行った」という。
そして、「シャープが、日本企業として、今後どのように発展していくかについて、シャープの事業部門や本社部門の責任者と、様々な角度から意見交換を行うとともに、将来を担う中堅社員との座談会を実施した」とする。
3日間の話し合いのなかでも、各事業部門の責任者との対話に時間を割いたようだ。
「シャープの将来」、「ブランド事業とデバイス事業のあるべき姿」、「日本市場とグローバル市場の在り方」、「これからのシャープと鴻海の関係」などをテーマに、各事業部門の責任者と話し合いを行ったという。
また、本社部門の各責任者とは、「事業部門への本社部門のサポート」をテーマに意見交換を行ったほか、最終日には、中堅社員との座談会を実施。参加した約150人の社員から、自由闊達な提案が行われたり、質疑応答が行われたりしたという。
非常に重要な局面に立っている
鴻海科技集団の劉会長が、2019年6月に現職についてからは、今回が初めての来日となった。
だが、劉会長は、シャープが鴻海傘下となり、経営体制が一新した2016年8月に、シャープの取締役に就任し、シャープの経営に参画。2017年6月には、取締役IoTエレクトロデバイスグループ長として半導体関連事業を担当していた。2019年6月にシャープ取締役を退任した直後に鴻海科技集団の会長に就任しており、シャープの事業については精通している人物である。
その劉会長から見たシャープの現状をこう語る。
「まさにいま、シャープは、非常に重要な局面に立っていると感じる」。
その背景にあるのが、シャープの業績の悪化である。
シャープは、2022年度連結業績において、2608億円という大幅な最終赤字を計上した。経営危機に陥り、鴻海傘下入りした2016年度以来、6年ぶりの赤字でもある。
2023年6月に行われた2022年度決算会見では、2022年4月からシャープのCEOに就いた呉柏勲社長兼CEOが、「巨額赤字が発生したことは私に責任がある」と発言。「2022年度は経営再編の1年であり、さまざまな改革を実行した。収益拡大と支出削減に向けた施策や、新規ビジネスの立ち上げにも早期に着手してきた。だが、予想以上の環境変化により、大きな課題に直面した」と語り、インフレやコロナ特需の反動、地政学問題などを背景にした世界的な需要減少、サプライチェーンの混乱やエネルギーコストの上昇、急激な為替変動など、シャープを取り巻く事業環境の厳しさが業績に影響したと説明していた。
なかでも、赤字の最大の原因となったのが、液晶ディスプレイ生産の堺ディスプレイプロダクト(SDP)の減損損失である。前任の戴正呉氏が、会長退任直前の2022年6月に、SDPを完全子会社化したものの、2022年度のディスプレイデバイス事業は664億円の営業赤字を計上。減損損失として、SDP関連で1884億円をはじめとして、全社で2205億円の減損損失を計上した。
2023年6月の株主総会でも、呉社長兼CEOは、「ディスプレイデバイス事業の減損などによる一過性の費用を計上し、当期純利益が極めて厳しい状況になった。株主に迷惑や心配をかけていることをお詫びする」と陳謝。これに対して、株主からは、SDPの完全子会社化に対して、責任の所在を明確化することや、経営判断の失敗を指摘する声など、厳しい質問が相次いだ。
呉社長兼CEO が、2023年7月に、社員向けに配信したCEOメッセージでは、「株主総会では、業績悪化の主要因であるSDPに関する質問や株価低迷に対する厳しい意見、経営に関する心配の声などを多数もらった。これらの意見を真摯に受け止め、今後の経営にいかしていく考えである」とし、「株主の多くから、世界初や日本初の商品を次々と生み出してきた、かつての強いシャープの復活を、心から願い、応援していることを、改めて強く実感した。このような期待にしっかりと応えるためにも、いまなすべきことは、開源節流を徹底し、2023年度に黒字転換を実現することである」と決意を示した。
開源節流とは健全な財政を、川の流れに例えた言葉だ。開源とは水源を開発すること指し、いわば新たな事業を創出し、売上げを伸ばすことを意味している。また、節流とは水の流れる量をしっかりと調節することであり、ムダを撲滅することを意味している。
呉社長兼CEOは、「2023年度は、新たなビジネス機会の追求と、不必要な経費の削減を全力で行い、最終黒字の必達を目指す。とくにキーワードとなるのが、『開源』である。ブランド事業を中心としたビジネス構造を確立し、新規事業の加速や、新興市場への展開拡大、ゲームチェンジャーとなる新しい技術やデバイスを創造する」と述べている。
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