製造業におけるDXの必要性―求められるアクションと推進事例を紹介

文●ユーザックシステム 編集●ASCII編集部

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本記事はユーザックシステムが提供する「DX GO 日本企業にデジトラを!」に掲載された「製造業におけるDXの必要性―求められるアクションと推進事例を紹介」を再編集したものです。

 国内の製造業は、多くの課題を抱えているだけでなく、コロナ禍や世界情勢など不確定な要素による影響も大きく受けています。このような不確実性の高い社会においては、環境変化への迅速な対応が求められます。ここでは、製造業とDXの関係、製造業が抱える課題と求められる対策、国内製造業企業が取り組むDXの推進事例などを紹介します。

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製造業におけるDXの必要性

 製造業では、どのような理由からDXが必要とされているのでしょうか。DXの意味から見ていきましょう。

DXによって変えていくべきこととは

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は、経済産業省の発行したDX推進指標において次のように定義されています。

 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

参考:「DX推進指標」とそのガイダンス(PDF)|経済産業省

 上記の定義から、「情報技術(IT)やデジタル技術を活用して業務を進める手法を変革」「新たなビジネスモデルを創出し企業の進む方向を革新」「世界のビジネスにおける競争優位性を確保」といったことの達成のために、DXが必要とされていることがわかります。

日本の製造業におけるDXの必要性

 デジタル技術を活用して企業の体質や業務の進め方を変革することは、あらゆる産業で必要とされます。もちろん製造業も例外ではありません。

 製造業は日本のGDPのおよそ20%を占め、全業種の中でも2番目に多く、国の経済を支える主要産業です。しかし、世界経済の中で見ると、1990年代におよそ15%のシェアを持っていた製造業輸出額は、2010年代には4%にまで低下しています。

 長くFA(ファクトリーオートメーション) に取り組んできた製造業において、第4次産業革命と例えられるIoTの登場は、FAの方向性も変える大きな変化点といえます。また、IoTだけでなくAIを含むさまざまなデジタル技術の実用化が急速に進んだことで、製造ラインや工場そのもののかたちも大きく変化しています。

 製造業がDXに取り組むべき環境は整っています。今、個々の企業が前向きにDXに取り組み、業界全体でDXを推進しなければ、世界市場において競争優位性を確保できないのが現状です。日本の産業構造を支えるともいわれる製造業が競争優位性を保てなければ、世界経済における日本のプレゼンスがますます低下してしまいます。

 製造業においてDXを推進することは、世界経済における日本の存在感を左右するほど重要であるといえます。

製造業が抱える課題

 日本経済のためにも製造業のDX推進は重要ですが、製造業は多くの課題を抱えている現状があります。経済産業省製造産業局が2020年6月に公開した「製造業を巡る動向と今後の課題」と、2021年5月に公開された、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省共同執筆による「2021年版 ものづくり白書」の内容を参考に、製造業が抱える課題を見ていきましょう。

参考:製造業を巡る動向と今後の課題(PDF)|経済産業省
参考:2021年版 ものづくり白書(PDF)|経済産業省 厚生労働省 文部科学省

製造業が抱える慢性的な課題

 かつては強いといわれていた日本の製造業の現場では今、「人手不足」や「属人的改善による部分最適」「設備の老朽化」といった慢性的な課題を抱えていることが、「製造業を巡る動向と今後の課題」に記載されています。

 少子高齢化による労働力不足。また、バブル崩壊後経済成長が停滞した「失われた20年」における設備投資抑制に起因する設備の老朽化は、製造業に限定されるものではなく、日本の多くの産業が抱える課題です。

 「属人的改善による部分最適」とは、特定の業務について1人あるいは限られた人に依存する流れになっており、その人がいなければ業務が滞ってしまう「部分的な最適化」であり、不安定な状態になっていることです。特定の業務の属人化は、業務効率の低下や不正の温床につながるリスクがあります。

 以上のような慢性的な課題に加え、昨今製造業においてもコロナ禍の影響は大きくなっています。

コロナ禍で深刻化した課題

 「2021年版 ものづくり白書」では、新型コロナウイルスの影響もあり、売上高、営業利益ともに減少傾向、今後3年間の見通しも減少傾向にあり、依然として先行き不透明な状況が続くとしています。

 具体的には、以下の状況が見られます。

・設備投資の動向

 設備投資額は、2019年まで増加傾向だったものの、2020年はコロナ禍の影響もあり減少しました。先行き不透明な状況が続くため、今後も設備投資は控える傾向にあると分析しています。

 つまり、前述の「設備の老朽化」の課題は解決するどころか、いっそう深刻になる可能性があるのです。

・浮上したサプライチェーンの寸断リスク

 米中貿易摩擦、英国のEU離脱など、世界情勢における不確実性は高まっており、サプライチェーンの寸断という、日本に大きな影響をおよぼすリスクが浮上していました。このサプライチェーンの再構築や強靭化が必要とされていたところに、新型コロナウイルスの影響により寸断が拡大したのです。

 実際に、海外拠点から国内工場への部品供給が不足し、生産量の減少や工場の稼働停止など、製造業は大きな打撃を受けました。また、自動車産業の生産量減少によって部品や素材産業への影響も拡大しています。

・海外需要の低下

 新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの影響はそれだけではありません。世界各国で主要都市のロックダウンが実施され、その影響を受け世界的な需要が落ち込みました。 これにより国内製造業の生産が抑制され、営業利益の減少に影響しています。

企業が取り組むべきアクションとは

 製造業が抱える課題のなかで、人手不足も設備の老朽化もすでに常態化しつつあります。また、設備の老朽化はそれに触れることのできる人材の偏りにつながることも予測されます。何も対策を講じなければ、熟練者の退職や後任育成不足によって、老朽化したシステムがブラックボックス化していくことは必然の流れといえるでしょう。

 コロナ禍の影響もけっして特殊な事象ではなく、今後も起こりうる世界的な事業環境の変化と考えられます。

 こういった環境のなかで競争優位性を確保するためには、迅速で継続的な変革に対応できる能力が必要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速に向けた研究会が発表したDXレポート2のなかでは、コロナ禍を契機に企業が取り組むべきアクションとして、次の内容が挙げられています。

参考:DXレポート2 中間取りまとめ(概要)(PDF)|デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会

業務環境のオンライン化

 テレワークシステムを導入し、リモートワークに対応できる環境の整備が必要とされます。また、オンライン会議システムによって社内外とのコミュニケーションのオンライン化を進める必要があります。

業務プロセスのデジタル化

 紙書類の電子化やクラウドストレージの活用によるペーパーレス化を推進しています。また、SaaSのようなクラウドサービスの活用、営業活動のデジタル化によって業務全体をデジタル化へと近づけることが求められます。

 RPAを用いて定型業務を自動化することも業務プロセスのデジタル化において重要です。

【資料ダウンロード】【RPA導入事例】昭和電機株式会社がRPAで自動化した40業務とは

従業員の安全・健康管理のデジタル化

 コロナ禍のようなパンデミックのリスクを持つ事象を考えると、従業員の健康管理は欠かすことができません。人流の可視化、活動量計やパルス調査ツールの活用などにより、効率的な労働環境の整備と従業員の安全管理と健康管理、異常の早期発見に対しても取り組んでいく必要があります。

顧客接点のデジタル化

 今後ECサイトの重要性はより高くなっていくと考えられます。それと同時に、デジタル技術を活用した新たな付加価値創出やサービスの充実も重要になっていきます。

 チャットボットを活用した電話対応業務の自動化や、顧客対応のオンライン化など、顧客接点をデジタル化していくことで、感染リスクを抑えながら業務の効率化を推進できます。

製造業でDXを推進した企業の事例

 こういった状況下で活路を見出すべく、国内製造業でDXを推進している企業の事例を紹介します。

トヨタ自動車の取り組む工場IoT

 トヨタ自動車株式会社では、「工場IoT」を掲げてデジタル化データを一元管理し、工場と現場の情報共有に取り組んでいます。

 資産の有効活用や、AIによるデータ分析の効率化、FA機器類のIoT、セキュリティー対策、インターフェースの標準化なども目的に含まれています。 デジタル化を通し、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンにもデジタル化の考えが浸透することも狙いのひとつです。これにより、開発・市場・工場がデジタル化によって連携する環境の構築を進めています。

沖電気のバーチャル上での工場融合

 沖電気工業株式会社では、埼玉県本庄市と静岡県沼津市の2カ所にある製造拠点を仮想的にひとつの工場に融合する取り組みを進めています。

 この取り組みは「バーチャル・ワンファクトリー」と名付けられ、物理的に離れた距離にある複数の工場をひとつの工場とみなして、生産状況や施策プロセスの融合を図ります。

 これにより、コスト削減、技術の共有化、両拠点の効率的な生産体制構築ができ、外部環境変化への対応が容易になったと報告されています。

ヤマハ発動機では経営目線のデジタル改革を実行

 ヤマハ発動機株式会社では、経営目線でのデジタル改革を戦略的に推し進める方針を打ち出しました。

 従来は、問題点の改善を地道に進めることで売上拡大につなげる、ボトムアップによるアプローチを中心としていました。新たな方針では、トップダウンによる足並みをそろえたデジタル改革を実行します。これによって、「既存のビジネスの効率化」と「未来のビジネスの創出」につなげる考えです。

 今後は、デジタル技術を活用してマーケティング力の強化を進めながら、デジタル改革のリーダーとなる人材の育成に注力していくとしています。

ビジネスエンジニアリングによるIoTを活用した経営指標提供

 日本の製造業では、現場の問題点や作業の課題を洗い出し改善していく、ボトムアップによる施策が根付いている傾向にあります。IoT化に関しても、ボトムアップによる課題解決の延長として実施しているケースが多く、部門間で連携したデジタル化ができていなかったり、アナログ作業が残ったままになっていたりということも少なくありません。

 こういった現状を解決するためには、全体を俯瞰(ふかん)的にとらえる視点が必要です。そこで、デジタル化のヒントを提供するという部分に新たなビジネスモデルを見出したのが、ビジネスエンジニアリング株式会社の取り組みです。

 取り組みでは、現場のIoT化や業務領域のデジタル化、データのフィードバックによるエンジニアリングチェーンの強化など、それぞれの企業にあったソリューションを提供して全体最適化を提案します。また、IoTによって得られた現場データを分析し、経営指標として提供することで、経営における意思決定の強化につなげることができます。

DXによって製造業を取り巻く環境変化に対応できる力を

 製造業においては、業務効率化のための自動化や、一部システムのデジタル化などを進めている企業も少なくありません。しかし、デジタル技術を活用したビジネスモデルの創出にまで至っているケースは少なく、DX推進に成功しているとはいえないのが現状です。

 激化する環境変化に対応していくため、あらゆる規模の企業がDXを進めていく必要があります。そのためには、経営層の意識にも変革が求められ、現場では新技術を活用できる業務改善を進めることが重要です。

参考:我が国の経済成長について(PDF)|国土交通省

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