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業務を変えるkintoneユーザー事例 第191回

システム部門だけではここまで広がることは難しかった

灰になったkintone 神戸製鋼所の「花咲かじいさん」から学べること

2023年08月02日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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“灰になったkintone”からの復活

「シロ(kintone)は死んで、灰になってしまった」と、2人は嘆いた。だが、どうしても使ってもらいたい。なぜ失敗したのか、もう一度、関係者に話を聞いて回った。

 ヒアリングを進めていくと、ある上司の言葉にはっとする。そしてこれが、復活へのヒントになる。「指摘されたのは、『ものづくりは現場が肝。現場をリスペクトして、フィットさせることが何より大事』ということでした」(田淵氏)

 改めて、現場にフィットさせるとはどういうことか考えてみた。その結果、2つの改善点に行き着く。

 1つは、現場の納得感だった。「私たちは、こうすれば現場が楽になる、という思い込みで作ったアプリを押しつけていた」(田淵氏)。アプリを作る前に、使う人全員と、課題は何か、どうすれば改善するかを話し合う必要があった。

 もう1つは、業務全体の再構築が必要だということだ。一部の業務をシステム化しても、前後の業務とうまくはまらない。全体を棚卸しなければ、業務にフィットするアプリは作ることができないと気づいた。

「この2つを改善すれば、みんながハッピーになるアプリを作ることができる。そう信じて再チャレンジを始めた」(田淵氏)

現場視点でアプリを開発すればみんながハッピーになれると再チャレンジ

 今井氏も、システム部門の視点で開発と浸透を進めようとしていたことの間違いに気づく。

「私たちはアプリを作る側なので、kintoneのよさや可能性を実感することができた。しかし、大多数の社員は、開発の過程を知らない。むしろ、kintoneに直接関わらない部門の人に対する丁寧な説明やフォローが必要だということがわかった。急がば回れということで、もう一度現場へのアプローチをやり直した」

現場の声を聞いてからアプリを作る

 こうして今井氏と田淵氏らは、kintoneの活性化に向けて再スタートを切った。

 田淵氏は、独りよがりの開発で失敗した反省を踏まえ、現場の声を拾い上げることから始めた。「複数の拠点ごとの事情もある。効率よく意見が集まるように、各拠点の代表者によるチームを作り、毎週のミーティングで意見を集約した。また、アプリの試作品に本物のデータを使い、リアリティも重視した。要望はすぐに反映し、kintoneのよさを体験してもらえるように努めた」

 このような工夫によって、現場のワクワク感、自分たちが参加して作り上げている一体感を高めていくことに成功した。それでも、今までの仕事のやり方を変えることに不安を感じる人もいる。そこで「こんなときどうする?」と題した説明会の実施、動画マニュアルの作成にも力を入れた。

 同時に、部署を統括する上司の理解も促した。「私のような、現場で情報をとりまとめる人が楽をするだけと思われないように、アプリが部署全体の業務の質を向上することを伝えるようにした」(田淵氏)

 現場部門を支えるシステム部門の存在も重要だと、今井氏は話す。「私たちの役割は、業務部門がシステム化にあたって見落としそうなところを見つけ、アドバイスすることに尽きる。現場の話を聞き、最初のデモアプリを作って渡すことで、現場に最初の一歩を踏み出してもらった」

 田淵氏も、「デモアプリを見たとき、形にできずもやもやしていたことが、実際にできることがわかり、ワクワクした」と語る。

 ただし、システム部門は現場に対し、デモアプリをそのまま使うのではなく、現場で一度真似して最初から作ってもらうように促した。そうすることで、業務部門がアプリの狙いや実装方法を学ぶことができ、スキルアップにつながると考えたからだ。田淵氏は「最初は厳しいと思ったが、自分たちで作ったことが理解を大いに深めた」と振り返る。

 こうした再チャレンジのアプローチを経て、kintoneは建設技術部をはじめとする業務部門で徐々に使われるようになった。

現場の声を拾い上げてアプリを作り、説明会なども実施して徐々に使われるように

 今井氏は、kintoneが定着してからも業務部門の支援を続けている。ポイントは、継続できる仕組みかどうかを俯瞰したアドバイスだという。「特に重要なのはカスタマイズについての考え方。メンテナンス性を考慮して、現場の開発者にはどうしても必要な場合に限ってカスタマイズをすべきだと話した」

ついにアプリが現場の業務にフィットした!

 でき上がった建設技術部のアプリは、次のような機能を搭載している。

「案件管理アプリ」は、工事案件の管理という部門の重要な業務をアプリ化した。従来のExcelと同じ形式で案件を入力すると、そのまま管理画面に反映され、必要に応じてPDF化して出力できる。カスタマインを使ったタブ分けや、グラフで見せるkrewダッシュボードも作り、業務分析ができる環境も用意した。「アプリの機能説明は、文字にすると長くなりがちだが、画像を多く入れることでぱっと見てわかるようにした」(田淵氏)

 案件管理アプリによって、現場業務の改善に大きな効果が出た。

 次に建設技術部が取り組んだのが、工場の情報共有向けアプリの開発だ。工場内で発生した不具合を、工場、建設技術部、施工者の3者で共有することを狙った。「工場には社員だけでなく、外部の協力会社の社員も働いている。その人たちにも使ってもらえる仕組みにしたいと思い、IT企画部に相談した」(田淵氏)

 相談を受けた今井氏は、kintoneの連携サービスを使い、システムを作ればいいのではと提案した。「ただし、私たちはシステムの構成を教えただけで、そこからの開発は建設技術部がほぼ自力で進めていった」(今井氏)。すでに業務部門による開発の内製化は、軌道に乗っていた。

社内のさまざまな部署から「使いたい」の声が挙がる

 ここで、物語は「めでたし、めでたし(終わり)」となるかと思いきや、さらに続きがあった。建設技術部のアプリを見た社内の他の部門が、自分たちも使いたいと続々と声を挙げたのだ。

 きっかけの1つは、業務部門主催のシステム導入説明会だった。kintoneの説明を聞いていた社員が、「自分たちの業務はここまで変えられる」ということに気づいたことが大きかったという。また、今井氏と田淵氏が出演し、kintoneによる業務改善のポイントをまとめた動画を社内に公開していたが、これを見て、興味を持つ社員がさらに増えていった。

 関心の高さは数字にも表れている。同社ではこの1年で、kintoneのアクセスが3倍に増加した。「アクセスが増加しているのは、使われるアプリが増えている証拠だと思う。システム部門だけではここまで広がることは難しかった。ITと縁遠かった人が担い手となり、現場の多様な価値観をつなぐアプリができたことが、一番の収穫だと思っている」(今井氏)

 田淵氏は、「これからも、さまざまな部門とつながるアプリを開発していきたい」と抱負を語る。今井氏も、現場の発想でアプリの改善が進むことを頼もしく感じながら、温かく、ときに厳しいサポートを続ける。

 導入直後に失敗した教訓を見事に生かし、現場業務のデジタル化を果たした神戸製鋼所のkintone導入物語は、役立つヒントに満ちていた。

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