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デジタルヘルス推進にも期待。健康保険組合「VCスタートアップ健保」設立に向けた業界団体設立

 6月30日、一般社団法人VCスタートアップ労働衛生推進協会は、スタートアップとVCのための健康保険組合「VCスタートアップ健保」の設立に向けて準備組織を組成し、申請に向けた取り組み開始を発表した。

「VCスタートアップ健保」の設立を通して、VCとその投資先スタートアップの従業員および家族の、中長期での健康増進、医療費削減、社会保険料の負担増加の抑制に寄与すること、また保険事業や健保運営に関わる業務の電子化、DXを進め、費用対効果の最大化を実現することを目指している。

 VCスタートアップ労働衛生推進協会代表理事の吉澤美弥子氏は取材にて、本健保に期待してもらいたいこととして、「スタートアップだからこそできる健康保険分野でのDXの推進と、スタートアップ業界特有の課題に向き合って最適な健康保険を提供していきたい」と語る。

一般社団法人VCスタートアップ労働衛生推進協会 代表理事 吉澤美弥子氏

業界の課題に取り組む「VCスタートアップ健保」

 スタートアップにおける健康保険の課題として、「協会けんぽ」から既存の健保組合に加入することに難しさがあるという。スタートアップでは「協会けんぽ」に加入している企業が多いが、既存の組合への加入にあたっては「企業の健全性評価」が論点となる。しかし、「資本金規模が重視されているため、大型調達をしていても減資した後では加入が難しくなってしまう」のだという。経営状況の評価がスタートアップのモデルを適切に評価できていないことが原因だ。

 また、既存の統合型の健康保険組合は業種ごとの分類により企業が集まることで、その業種に適した労働衛生環境の構築につながっているが、その一方で、スタートアップのような新産業には対応できないという面がある。既存の健康保険組合にスタートアップが加入しようとするときに、業種を理由で加入できないケースがあるのだという。この点ではVCも同様となる。

 さらに既存の枠組みでは、スタートアップ業界にマッチしない面もある。スタートアップで働く年齢層の中心は20代、30代であり、年代が異なると、健康課題も変化する。中でも、スタートアップ業界ではメンタルヘルスの問題が大きいと、吉澤氏は指摘する。

「米国の例で、一般の方と比較して起業家やエンジニアという職業においてはメンタルヘルスにおける生涯有病率が高くなっていることがわかっている。日本でもこうした課題に対処していかなければならない。しかし会社ごとに対処していくことはとても難しい。業界の課題と捉えて取り組んでいくためにも、健康保険組合として『VCスタートアップ健保』では支援していきたい」(吉澤氏)

フットワークの軽い健保の誕生が、日本のデジタルヘルス改善につながる

 さらにスタートアップだからこその特徴として、業界で進んでいない業務の電子化、DXにも取り組んでいく。「健康保険組合としての業務はさまざまあるが、企業や従業員の方々など外部の方々とのとのやり取りの部分ではオンライン化が遅れているところもある」(吉澤氏)

 たとえば企業において社員が入退社する際は健康保険組合に申請を行う必要があるが、申請書類の受領にあたっては電子化が進んでいないケースも多いという。人材の流動性が高いスタートアップ業界においては、企業側の業務負荷が大きいうえ、申請を受け付ける組合側でも、書類の情報を基幹システムに手入力せねばならず、入力ミスが起こる恐れもある。

 こうした課題を解決するために、「VCスタートアップ健保」では、企業と書類のやり取りをする業務においてはオンラインでの作業を原則として行っていくとしている。

 米国で産業としてのデジタルヘルスが隆盛したのは、保険者が使う土壌があった経緯もあると吉澤氏。DXの観点で従来の国内の健康保険組合ができなかった点を、スタートアップ目線から経済合理性も含めて出せれば、中長期的には国内のデジタルヘルスの推進にもつながってくる取り組みといえる。

 現在すでに27社のVCからの支援を受け、その投資先スタートアップ330社を超える会社の加入申し込みがあるという。2023年6月16日に閣議決定された「新しい資本主義のグラウンドデザイン及び実行計画2023改訂版」においてもスタートアップ支援の施策の一つとしてスタートアップ向けの健康保険組合設立が盛り込まれている。まずは、スタートアップで働く人々のためのよりよい環境整備が進むこと、そしてその仕組みの波及に期待したい。

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