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AWSのファイナンシャルサービス部門のリーダーにインタビュー

イノベーションが翌日レガシーになる時代 金融機関がAWSを選ぶ理由

2023年06月26日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 コロナ禍で大きな変革を余儀なくされた金融サービス業界では、クラウドの導入や活用が一気に加速した。AWSのファイナンシャルサービス部門のリーダーとして、金融サービスのモダナイズやイノベーション促進を推進してきたスコット・マリンズ(Scott Mullins)氏にコロナ渦における金融業界の変化、クラウド導入やモダナイズの状況、そしてAWSの強みについて聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)

アマゾン ウェブ サービス(AWS) マネージングディレクター兼ワールドワイドファイナンシャルサービス担当 ゼネラルマネージャー スコット・マリンズ氏

グローバルインフラ、サービスの幅と深さ、金融業界への理解が強み

大谷:今回のマリンズの来日の目的を教えてください。

マリンズ:お客さまやパートナーと直接お会いして、リレーションを構築することです。コロナ禍前は1年に2回ほど来日していたのですが、私が最後に日本を訪れたのはもう4年前になります。それ以降は直接の交流ができなくなりました。決して望ましい状況ではありません。そのため、AWSを長くお使いただいているお客さまとお会いして、改めて関係を再認識するとともに、コロナ禍で新たにAWSを使い始めたお客さまとも関係を構築しています。

大谷:まずはAWSが金融機関に対して、どのようなサービスを提供しているかを改めて教えてください。

マリンズ:AWSは現在グローバルでインフラを展開しており、31の国と地域にリージョンを展開しています。このうち2つは日本で、2011年に開設した東京と大阪の2箇所です。このインフラを元に200以上のエンタープライズレベルのサービスを展開しています。

このサービスの幅と深さがあるからこそ、AWSはクラウドプロバイダーのリーダーであるという自負があります。たとえ創業4年のスタートアップであれ、40年の会社であれ、400年の老舗企業であれ、すべての企業がエンタープライズグレードのサービスを利用できるのです。

大谷:特に金融機関向けに提供するサービスはありますか?

マリンズ:金融業界の特性にあわせて、弊社のサービスをどのように使えるか、これをお客さまに理解していただくというのが、われわれの役割だと考えています。

過去十年間、AWSには金融業界のプロフェッショナルが入社してくれています。そして、バンキング、決済、金融取引、保険など、さまざまな金融業界のお客さまがそれぞれのユースケースでAWSをうまく活用いただけるよう、サポートしてきました。

今では多くの金融機関がさまざまな領域でAWSを活用しています。たとえば、保険ではHPCを活用してアクチュアリーの分野でリスクを算出したり、バンキングでは与信審査で利用したり、取引市場でのマッチングを行なったりしています。

「変わらなければいけない」という危機感で促進されたDX

大谷:金融機関はコロナ禍でどのように変わったのでしょうか?

マリンズ:今回の世界規模でのパンデミックで明らかになったのは、「変わらなければいけない」という危機感が生じたことです。どういうことか? 2020年の今頃、われわれは家にとどまってくれ、オフィスには行かないでくれと要請されていました。あのときのことをわれわれが忘れることはないと思います。世界中のあらゆるところで、この決定が短い時間で行なわれ、通常であれば3年かかるDXを3ヶ月でやらざるをえなくなりました。

コロナ禍の最中であれば、この取材もオンラインで行なわれたはずです。カスタマーサービスのエージェントでさえ、コンタクトセンターに行けなかった。机と机を突き合わせて、同僚とともに仕事することができなくなりました。

金融においても、バンキング、決済、取引市場、保険などのシステムを大きなスケールに展開しなければなりませんでした。世界各国の政府が中小企業や個人に対して助成金を支給するお金の流れもあったからです。

大谷:確かにテレワークに関しても、助成金の支給に関しても、大規模で迅速な対応が必要になりました。

マリンズ:これらすべてはAWSでサポートできることでした。たとえば、Amazon Workspaceを使ってもらえば、在宅勤務の環境を迅速に構築できます。また、イギリスの企業は最大5万人のエージェントが家からコンタクトセンターのサービスを提供できるようAmazon Connectを活用しています。取引市場においては、大幅に拡大した取引をAWSを使ってさばくことができましたし、北米では小規模事業者に向けた政府の助成金の支払いにAWSのシステムが活用されました。

この短期間にこれだけのことを実現した。まさに息をのむようなことです。以前であれば、大きな投資と時間が必要だったでしょう。でも、世界中のエンタープライズが、大きな投資を行なうことなく、AWSでスケールアップを実現し、新たな市場のニーズに応えたわけです。

AWSがやりたいのは、お客さまにとにかく試してもらうこと

大谷:日本でもATMを減らしたり、モバイルバンクが強化されたり、金融サービスは大きく変化しました。

マリンズ:北米に限らず、世界中で起こったもっとも大きな変化は、お客さまへの向き合い方でしょう。というのも、コロナ禍になって、お客さまとの接点はデジタル以外なくなってしまったからです。だからこそ、デジタルチャネルをいかにエンゲージメントの高いモノにし、柔軟に対応するため、お客さまのニーズに応えていくのかを考えなければならなくなりました。

本来であれば長い時間をかけて実現されるべき、一般的には「実験」と呼ばれるようなデジタルチャネル施策や戦略のトランスフォーメーションを短期間で行なう必要性が出てきました。つまり、必要性とともに、ビジネスモデルを変えざるを得なくなったわけです。

大谷:現時点で、こうしたDXやビジネスモデルの変革は成功したと思いますか? 現場ではいろいろな試行錯誤があったと思うのですが。

マリンズ:成功したのか?という質問に対しても、試行錯誤があったのか?という質問に対しても、答えはイエスですね。

多くのお客さまはデジタルチャネルしか接点がないという課題に対して、多くの投資を行ないました。しかし、コロナ禍が終わった今でも、その投資は後退したわけもありません。デジタルのチャレンジはまだ続いています。その意味では成功だと思います。

一方で、数々の試行錯誤も行なわれました。クラウドのまさに素晴らしいところが 試行錯誤が容易にできるということです。大きなリスクをとることも、多大なコストをかけることなく、試行錯誤できること。これこそが私たちのサービスの最大の価値です。

私たちがやりたいのは、スタートアップであれ、大企業であれ、なにかを試してもらうことなんです。試した上で、イテレートを繰り返し、コストとリスクを最低限に抑えながら、実験を進めること。ここにAWSのサービスの真の価値があると考えています。

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