FMMを使用しないeLEAPに注力
とくに、キャロン会長兼CEOが力を注いでいるのが、「eLEAP」である。
eLEAPは、マスクレス蒸着とフォトリソグラフィによる商品化を実現した次世代OLEDだ。
OLEDディスプレイの量産では、ファインメタルマスク(FMM)を用いた有機材料の蒸着方式が主流だが、eLEAPではFMMをまったく使用せずに、マスクレスで有機材料を基板上に蒸着させ、フォトリソ方式でOLED画素を生成することができる。発光領域は、従来のFMM方式によるOLEDと比較して2倍以上となる60%にまで高められ、JDI独自のバックプレーン技術であるHMOと組み合わせることで、OLEDディスプレイの弱点であったピーク輝度や寿命、消費電力を飛躍的に向上できるという。
また、FMM方式においては、メタルマスク使用による制約から異形状デザインが困難であったが、この課題を解決。さらに、800ppiを超える高精細化や、ディスプレイサイズの大型化も実現できる。
加えて、FMM方式では、蒸着工程の材料使用効率が低く、生産時にFMMに付着した有機材料を洗浄するために別の有機材料を必要とし、大量の有機材料の廃棄ロスが発生していた。eLEAPは、FMMを使用しないため、有機材料の使用量が大幅に抑制され、CO2排出量を大幅に削減でき、ランニングコストの低減にもつながる。
キャロン会長兼CEOは、「従来商品に比べて、輝度が5倍になり、太陽光の下でも見やすい。また、軽量化や低消費電力化、柔軟性に加えて、低コストで生産でき、量産にも適している」と語り、「とくに、寿命を3倍に伸ばすことができる点は大きな差別化になる。OLEDは、寿命が短いため、3年程度で買い替えるスマホでは半分ぐらいで採用されていても、長期間に渡って使用する車載には向いておらず、採用率はわずか1%程度に留まっていた。eLEAPは耐久性の観点から、車載市場にも採用される技術として関心が高まっている」と語る。
そして、JOLEDの支援を決定したことにより、約100人のトップエンジニアを獲得し、「世界初や世界一となる次世代OLED技術の開発を加速できる」とも語る。
eLEAP は2022年8月にサンプル出荷を開始し、2023年2月には最初の受注を獲得している。現在、複数社とライセンスの協議を行っているところであり、2024年には量産を開始する予定だ。
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