全員が開発者になることを目指しているわけではないが、
子供時代からAIに慣れ親しんだAIネイティブ世代が出てくるはず
中国はAIに力を入れていて、2020年には世界の先端AIトレンドと同期し、2030年には中国のAIに関する基礎・技術・応用について世界をリードすることを目指す「新世代人工知能発展計画」を2017年時点で発表している。そうした中で、文部省にあたる教育部が発表した「義務教育情報化学習指導要領(2022年度版)」では、情報についての教科の中で、中学1年~3年の間にインターネットやIoTとセットで学ぶことが記されている。
AIについては、「普段AIがどう使われているか。どんなデータをAIは取得して判断しているのか」といった内容が取り上げられており、さらにインターネットやIoTと組み合わせたソリューションを学ぶ。中学生で学ぶと学習要領では書かれているが、学生にヒアリングすると「テストに出ない教養として軽く触れる程度」と聞き、逆に調べていると小学校から始める事例も見つかる。まだまだ手探りのようだ。
中国全土でAI教育キットのニーズが相当あるのなら、AI教育キットが作られているに違いない。そう考えて調べてみると、IoT組み立て体験キットや風速や気圧センサーを備えた小型気象観測キット、顔を認識して登録された人であればドアが開き家電が起動するサンドボックスのスマートホームシミュレーターソフトなど、学校向けAIキットが売られていた。今後も無数の学校教育向けのAI・IoT教育キットが発売され、さらに値段は下がっていくだろう。注目の商品ジャンルとなりそうだ。
中国の学校では、取り組みに違いこそあれ、AI時代に備え、いずれも音声画像認証やChatGPTのようなテキスト生成AIなどに触れて、AIがざっくりとだが何をどう判断しているのかを義務教育内で学ぶようになる。
開発者になるための勉強ではなく、AIが「なんだかわからないけどすごいもの」ということではなく、「どんなものなのか認識する」ための勉強だ。それはパソコンと手書きの勉強の違いを感じるように、AIと現実とのギャップを確認するとともにAIの長所短所を知ることで、将来大人になったときの生活の基礎知識となる。中国でもう10数年もすれば学校でAIを学んだ、AIネイティブの社会人が誕生し、やがて彼らの一部は開発者となり日本や世界と競争することになるだろう。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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