中国における学習塾などの学外授業が窮地に陥っている。中国政府が、子供の負担にならないよう、英語などの学外教育を禁止したためだ。
子供への教育熱に対して、中国政府がブレーキをかける
中国で新型コロナが最初に感染拡大した昨年2月以降、急激にオンライン教育サービスが成長し、利用者も増えた。しかし、子供の勉強への負担を減らすことを目的とした、通称「双減」政策により、塾もオンライン教室も高校生までの市場を諦め、成人向けや勉強以外の教育への変更を余儀なくされている。
「余計な勉強は禁止。子供の負担減少を」――ともなると中国で謎進化を遂げている「学習機」と呼ばれる学習系ガジェットが消えないかということが筆者は心配だ。ところが学習機は規制されることなく、双減の発表後は「塾通いができないなら仕方がない。代わりに学習ガジェットだ!」とばかりに、自分で子供に勉強を教えるのは面倒な大人が買い始め、前年比5割増と飛ぶように売れているのだとか。
以前に当連載でも書いたことがあるが、中国の学習ガジェットは電子辞書型からWindows CE搭載、そしてAndroid搭載と、時代に合わせて変化していった。そして子供向けの学習用コンピューターだからなのか、値段を上げたいからか、なぜか本流の機器でもあまり見ない特殊なスペックの機器が出るのである。その中にはQWERTYキーボード搭載のWindows CE機や、辞書や勉強コンテンツがすべてクラウドから利用するため無線LAN環境がない場所では使い物にならない電子辞書など、あまりに尖った製品が見られる。
中国でもパソコンやスマートフォンで”攻める”独特な機種は昔と比べると少なくなった。今や中国ならではのキワモノ端末が集まるのは学習機に集中しているといっていい。こうした製品が消えてしまうのはあまりに惜しいので、最近出ているさまざまな尖った機種を紹介していきたい。その多くが、かつての日本で見られたような、余力があるときだからこそ出せたような機種ならぬ”奇”種である。
AIが自動で問題を作成&採点してくれるタブレット
科大訊飛(アイフライテック)の学習機「T10」
名前を覚えておきたい中国のAI企業「科大訊飛」がプッシュしているのがタブレット型の「T10」という端末だ。値段は約7000元(約12万円)と結構思い切った値段だが、家での勉強ニーズで売れ行きは好調と報じられている。
13インチ、オクタコアCPU、8GBメモリー、256GBストレージ、1600万画素のポップアップ(飛び出す)型のインカメラを搭載するタブレットに専用ペンがつくもので、スペックだけだと価格は割高感がある。とはいえ学習機として使える機能が詰まっているからこそ、この値段で販売しているのだ。
1600万画素のポップアップ型インカメラは、机の上にある本やノートなどの内容をスキャンするため使われる。そして英語と中国語の文章をAIで自動採点するのに使われる。数学についても机上に置いた問題集をカメラで撮影し、その弱点をAIが把握し、それに合わせた問題を出していく。同様に、端末上で表示される問題を専用ペンを使って13インチという広い画面上で問題を解いていき、間違った問題をAIが診断して弱点解決に向けた類似問題を出す。また4チャンネルマイクを内蔵し、文章の朗読や英単語の発音を小さな声でも聞き取って診断する。
ゲームはインストールされておらず、親が不在でも子供の勉強をフォローできると評判の機種なのだ。
ペンで文字をなぞって翻訳 音声入力にも対応する
ペン型学習機「阿爾法蛋(Alpha Egg)T10」
ペン型スキャナーの形状の「Alpha Egg T10」もまた科大訊飛から発売されている学習機だ。複数モデルが用意されており、いずれも重さは100g未満、Wi-Fi接続で、充電はUSB Type-C経由で4~8時間動作するという。ペン型リーダーだから、文字を読み、ペン側面にあるカラーディスプレーにスキャンした文字やその単語の意味を示してくれる。さらに翻訳した文章を内蔵スピーカーから音声で読み上げたり、覚えるべき単語をスキャンしてそれを集めて単語テストモードを用意してくれたりと多機能な学習機だ。辞書も多数収録している。
AIに強い同社だから、書いた文章をスキャンした上で、その文章の評価や修正提案などをしてくれる。また音声AIが入っていて、「~という文字はどう書きますか?」「ウサギの英語は何?」「~の熟語の意味は?」などと音声で質問をして答えを得ることができる。なるほどキーボードがないのを音声入力でフォローしているわけだ。
値段は1200元程度で、日本円で2万円弱。中国の権威ある中央テレビ「CCTV(中国中央電視台)」で3度受賞されたブランドの製品とのこと。販売停止とならないことを期待したい。
声で命令するだけで問題集を紙で出力してくれる
ポータブルプリンター「漢印 FT880」
中国では手のひらサイズの熱転写プリンターが複数のメーカーから売られている。もともとはコンパクトにメモを印刷できるプリンターとして登場し、雑貨店などで売られていたのだが、新型コロナでオンライン教育のニーズが高まるなか、問題集を印刷する低価格のコンパクトプリンターとして用途を変えて売れているのだ。これらはスマートフォン用の問題アプリと連携して、テストを出力する。
最大でA4用紙が印刷できる漢印というメーカーのコンパクトプリンター「FT880」は異端の製品だ。一見すると普通のポータブルプリンターだが、アリババのスマートスピーカー「天猫精霊」を内蔵した”ニコイチ”のプリンターで、問題を出すように呼びかけるだけで印刷してくれる。漢印はオンライン学習向けのプリンターブームに乗り、さまざまなプリンターをリリースし、問題を多数収録したテストアプリに磨きをかけているので、問題量も十分なのだ。
もちろんスマートスピーカーとしても活用できる。中国では純粋なスマートスピーカーが伸び悩んでいるが、こうした他の機器にスマートスピーカーが内蔵された製品が続々と出ているという理由もある。値段は900元(1万5000円強)。

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