企業がビジネスアジリティを獲得するためのフレームワーク、基本的な考え方や実施のステップ
アジャイルな企業を実現するフレームワーク「SAFe」とは? TDCソフトが説明会
2023年05月23日 07時00分更新
TDCソフトは2023年5月19日、エンタープライズアジャイルフレームワークである「SAFe(セーフ、Scaled Agile Framework)」の基本を知るためのメディア向け説明会を開催した。
TDCソフトでは2019年からSAFeをコアとしたコンサルティングサービスを展開しており、今年度、新たにエンタープライズアジャイル事業本部を組織し、事業を拡大させている。同社がSAFe推進に注力する背景を、エンタープライズアジャイル事業本部 エンタープライズアジャイル部 部長の國政 仁氏は次のように説明する。
「グローバルでは『アジャイル』を開発だけでなく組織や会社レベルで適用し、事業を速く回すことでビジネスの拡大につなげることが当たり前のように行われている。海外のDX成功事例を見ても、アジャイルを組織に取り入れる動きは避けて通れない。国内においても、この動きは必然的に起こっていくものだと考えている」(國政氏)
組織全体にアジャイルを展開、“俊敏なビジネス”を実現するSAFe
米Sclaed Agileが開発したSAFeは、組織全体にアジャイルを展開するために体系化されたフレームワークだ。
エンタープライズ企業が顧客に価値を提供するうえでは、ITとビジネスの両方の組織がアジリティを持って対応していかなければならない。両組織がコラボレーションしながら顧客に価値を素早く届けるという視点で、「ビジネスアジリティ」というキーワードに基づき、ナレッジやプラクティスを定義したものがSAFeだという。同社でSAFeコンサルタントを務める真川太一氏は次のように説明する。
「大きく言えば、経営/事業/現場の仕事をつなぐ、経営/ビジネス/ITをつないでお客様にしっかりと価値を届けていく。そうした組織を作り上げるためのものがSAFe」(真川氏)
キーワードとなる「ビジネスアジリティ」を直訳すると「ビジネスの俊敏性」だが、この言葉は多様な意味を持つ。具体的に言えば「組織として市場ニーズをいち早くつかむ能力」「迅速に意思決定する能力」「当初の見込みから外れた計画をすぐに修正する能力」「そうした問題が発生したときに素早く特定する能力」など、組織が時代の変化に対して俊敏に対応できる能力全般を包括した言葉だ。
SAFeが注目される背景には、ビジネス変革やDX実現に取り組む日本企業において「組織のプロセスを変えないまま小手先のITでDXを行おうとする」「従来型のマネジメントスタイルのままでDXを進めようとする」といった問題が見られるからだ。こうしたスタンスでは、組織規模が大きければ大きいほどやり方/時間/手法がバラバラになり、各種の調整にコストがかかり、それを統合するための仕事が増え、動きが遅い部門に足を引っ張られて遅延が発生する――といった弊害が生まれてくる。
「SAFeは、いかにお客さんのニーズに合わせて素早く、効率よく、品質高く届けるかを実現するためのプラクティスであり、スクラムやXP(エクストリームプログラミング)、DevOpsといった、最近のキーワードのいいとこ取りをして体系立てたもの。基本的には50~125人規模の仮想組織を構成し、ビジネスアジリティを出すために情報の透明性も高め、無駄なプロセスを排除しつつ全員の足並みをそろえて進んでいく。原理原則やマインドセットを大事にし、“企業のOS”として動くところがSAFeの本質と言える」(真川氏)
SAFeの構成要素「原理原則/マインドセット」「チーム/役割」「プロセス」
SAFeの構成は大きく3つのパートに分かれる。1つ目は「原理原則/マインドセット」、2つ目は「チーム/役割」。3つ目は「プロセス」だ。
「原理原則」のパートでは「なぜこのプロセスをやらないといけないのか」が定義されている。組織の全員がそれを理解し、納得することによって、行動の統率やベクトルを揃えることにつながってくる。
また製品/サービスが永続的に価値を提供し、勝ち続けていくためには、価値を創出する人が自律的に行動することも重要な要素となる。SAFeでは、そのためのマインドセットがどういうものであるのかも定義している。
「チーム/役割」については、SAFeでは50~125人規模の仮想組織(ART:アジャイルリリーストレイン)がひとつの単位になる。このARTは、価値を創出する組織横断のスクラムチームの集まりになっており、チームの推進役であるスクラムマスター(SM)、顧客ニーズの代弁者であるプロダクトオーナー(PO)、そして価値を具現化するメンバーで構成される。スクラムチームのほかにも、全体の推進役であるリリーストレインエンジニア(RTE)、顧客ニーズを定義する代表のプロダクトマネジメント(PM)、アーキテクチャを決めるシステムアーキテクト/エンジニアなどがおり、それぞれの役割と責任が明確化されている。
また仕事の管理単位として「Epic」「Feature」「Story」があり、上述したそれぞれの役割と責任に応じて、理解すべき/気にしておく仕事との関係性、大きさや範囲が定義されている。
「プロセス」では、全員参加の会議(PIプランニング)で直近3カ月の計画と認識合わせを行い、進捗会議で計画と現状の微調整を図る。実際に動くシステムが出来ればそれを用いて事実確認をし、次に向けての準備と3カ月間の振り返りを行う。こうしたステップを繰り返し行っていく。
SAFe導入で大切なポイントは「余裕を持つこと」
SAFeを導入し、組織全体に広げるためには8つのステップがある。まずは危機感を抱きつつ「やる」と決めたら、変革のためのチーム/仲間作りを行い、改善すべきポイントを決める。そのうえで実行計画の策定、実行準備と段取りを行って、上述した「プロセス」をスタートさせる。そこから徐々に組織内の横展開を図り、対象領域を経営プロセスにも拡大して、最終的には全社的な取り組みとする流れだ。
SAFeを導入するうえでのポイントとして、真川氏は、変革のビジョンをしっかり作っていくこと、CxOや事業部長クラスの人が思いを持って作り上げ、発信していくことが大切だと語った。また「余裕を持つこと」も重要だという。
「結構難しいポイントだが『余裕を作ること』も重要だ。100パーセント稼働の状態だと、新しいことにチャレンジする時間が取れないといった弊害が出てくる。少し余裕を持たなければ、変革はなかなか進まない」(真川氏)