AIツールの品質評価とAIのリスク
DeepLに限らず、今多くの企業がAIツールに注目していることについて、「ジェネレーティブAIという新しい波も出てくるなど、AIによって業務が大きく変わってきている。これからいろんなユースケースが出てくるだろう。多くの企業がAIツールに投資して強化しているが、AIの品質をどう測定してツールをどう組み込んでいくのかが課題」とヤロスワフ氏。品質について「最終的な評価は人間によってのみ可能」とも話し、DeepLではクオリティ評価のために翻訳者によるブラインド評価を実施していると説明した。
あわせて学習モデルの公平性の問題など、AIのリスクについても言及。「会社としても、私個人としても、責任あるAIを重視している」との姿勢を示し、「DeepL Writeでは潜在的なバイアスを排除するよう、常に厳格にモデルの改善点を模索している」と明かした。また説明会の前日に自民党本部に招かれたことに触れ、「G7もこの話題に注目している。AI研究者としての立場からいえば、今がまさに議論を始めるタイミングだ」とも話していた。
セキュリティ対策と日本市場における展望
日本では今、ChatGPTなどが注目を集める一方で、情報漏洩などのセキュリティについての議論も広がっている。ヤロスワフ氏は、データはすべて暗号化され自前のデータセンターで処理されているなど、DeepLのセキュリティ対策を紹介。「DeepL Proではテキストが翻訳後に我々のインフラから完全削除される。AIの学習には使わないことを徹底している」と説明した。
日本語に対応したのは2020年からだが、ヤロスワフ氏によれば、国内の登録企業はすでに数千社規模。日本市場は12ヵ月連続で100%以上の成長を続けているなど、世界第2位の市場になっているという。日本のチームは現在15名ほどだが、年内に倍増する計画。7月には「社員が一堂に会してアイデアの交換をしたり、お客様に会えるような場所を作る」ため、東京に日本支社を構える計画も明らかにした。
「DeepLは日本の人々、日本の企業のコミュニケーションがよりグローバルになるように支援してきたが、さらに存在感を示していきたい。お客様のソリューションの実装をサポートし、日本の企業がより効果的により生産性高く仕事ができるように支援していく」とヤロスワフ氏。「日本に社員が増えることで、お客様との結びつきが強くなり、フィードバックをより良く集められる。日本支社、オフィスは品質向上、アウトプットのプロセスにもかかわっていくことになる」と話していた。
なおヤロスワフ氏によれば、国内へのデータセンターの設置予定は今のところないとのこと。このほか、欧州にあるデータセンターと日本との接続スピード改善のため、専用線の敷設を検討していることや、「まだ製品化のレベルに到達できるかわからない」としながらも、音声翻訳のプロジェクトに取り組んでいることも明かした。