好きで動画を配信していた層が疲れてしまったか
ビリビリのオタクカルチャーも過去のものになる可能性
ビリビリの動画配信者は、最初は稼ぐことは二の次で好きなものを配信していた(これを「愛の発電」と呼んでいる)。証券会社のレポートでは「長期にわたる愛の発電は創作意欲が低下して動画が減る。ビリビリの多くの利用者がトップクラスの配信者の支持者であり、トップクラスの人が収入減少を原因に動画のアップを止めればビリビリの根幹を揺るがしてしまう(華福証券)」とあった。有名どころの面白くて個性的な配信者の熱意がなくなると、ビリビリ特有の雰囲気が失われていく危険があるわけだ。
ならばクリエイターに適正報酬を与えればいいが、昨今の中国の動画にまつわる環境ではなかなか難しい。ビリビリにおいて、動画で報酬を得る方法は大きく2種類ある。1つはビュー数に応じたビリビリのプラットフォームからの報酬で、これはトップクラスの配信者から興味本位の人まですべてが対象になる。もう1つが配信者が企業などの広告主と直接提携するというものだ。プロの配信者にとってメインの収入となるのが後者であり、前者の占める割合は実はさほど大きくない。
広告主との直接提携だが、企業側は相対的にビリビリに期待していない。ビリビリはあまりお金を持たない都市部の学生層が多く、おまけに最近では金をかけないで楽しもうという傾向が強まっている。また、中国の全般的な傾向だがスマートフォンなどのデジタル製品から化粧品まで、男女問わずに様々なジャンルでブランドへの忠誠心が低い。刹那的にキラキラと華やかな広告を出すなら、クセのあるビリビリのインフルエンサーと提携するより、ショートムービーの抖音(ドウイン)とか、中国版インスタグラムと呼ばれる「小紅書(RED)」のほうが費用対効果(ROI)があって都合がいいわけだ。
配信者にとって頭が痛いのは、ショートムービーの波がやってきた上に、コンテンツ生成系AIも台頭してきた。直接競合することはなくてもプラットフォームの売上は、元来の配信者によるコンテンツとAI生成コンテンツを使った配信者と均等に配分される。ビリビリへの「愛の発電」が極端に減った先には配信者が音をあげ、ビリビリの持つオタクカルチャーは中国のインターネット史における懐かしい過去になっていくかもしれない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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