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「INNOVATION LEAGUE 2022」DEMO DAY レポート

農業連携で社会課題解決を目指す「湘南ベルマーレフットサルクラブ」が大賞

2023年06月14日 06時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP

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 2023年3月10日、東京ミッドタウン「BASE Q」にて「INNOVATION LEAGUE 2022 DEMO DAY(イノベーションリーグ 2022 デモデイ)」が行われた。

「INNOVATION LEAGUE」は、スポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOが連携し、取り組んでいる産業拡張プロジェクトだ。国内企業や団体がスポーツの新しい価値創造に取り組む「アクセラレーション」と、スポーツの新しい可能性や優れた取り組みを行う企業や団体を表彰する「コンテスト」という、2つのプログラムで構成されている。

 今回のイベントでは、アクセラレーション部門に参加した団体や企業による「成果発表」と、コンテスト部門の授賞式が行なわれた。

アクセラレーション部門では個性の異なる4つの取り組みを発表

 本年度のアクセラレーション部門は、「一般社団法人スポーツを止めるな」、「株式会社なんでもドラフト」、「株式会社スポリー」、「株式会社MILOQS (ミロックス) 」の4つの団体や企業が参加。それぞれがどのような取り組みを行ってきたのか、またどのような成果が得られたのかを発表した。

 まず登壇したのは「一般社団法人スポーツを止めるな」。同団体では、女性アスリートの生理にまつわる課題と問題に向き合う「1252プロジェクト」を実施している。今回のアクセラレーションでも全日本柔道連盟と連携し、女性選手の生理の悩みや健康課題への取り組み、さらには井上康生氏の協力の下、男性目線での情報発信も行った。

 最上紘太代表は「柔道界で『1252プロジェクト』を取り組む基礎を作ることができた。た、スポーツ団体との協創が初めてということもあり、今後のロールモデル作りという意味でも大きな成果を得ることができた」と話す。国際大会では海外の団体からの関心を集めるなど、国外にも1252プロジェクトを広める機会が得られたという。今後は中長期的な取り組みを目指す予定だ。

 次は「予想メディアプラットフォーム」を通じて、新しいスポーツの観戦体験創出に取り組む「なんでもドラフト」が登壇。同社も全日本柔道連盟と連携し、世界大会で各階級のメダリストの結果や、試合の展開を予想するコンテンツを実施、予想コンテンツを通じて柔道の魅力を広める活動を行った。

 同社の森井啓允代表は、「楽しみながら予想できるようにコンテンツを展開したところ、グランドスラム東京では1つのイベントでは最高となる1244名に参加。グランドスラムパリでは世界75国から404名がイベントに参加した」と、大きな反響があったことを話した。今後は柔道以外でのスポーツでも実施することを予定している。

 続いて登壇したのは「スポリー」。同社では、ヘルスケアアプリを軸に、スポーツのファンコミュニティーの創出事業を行なっている。今回のアクセラレーションでは、アイスホッケー連盟と連携し、「日常と試合をつなぐ応援体験」の企画開発とファンの反応を調べる実験を実施。例えば、オールスターゲームで「来場までの道のりや応援をクエスト(冒険)化」するなどの取り組みで、ファンコミュニティーで必要な情報を取得した。

 また、ファンの応援行動を促す施策として、「サウナに入りながらのアイスホッケー観戦」という日本初の試みにも挑戦。見事にこのチャレンジは成功し、ネット上で高い反響を得た。スポリーの丸山和也代表は「ファンマーケティングをしっかりと行えば、お金を掛けずにPRできるということで、一定の成果は得られた」と話す。今後はアジアリーグや横浜グリッツとのシーズンを通しての連携が予定されているという。

 最後は脳神経科学とVR技術を活用し、アスリートの効果的なコーチング、トレーニングの実現を目指す「MILOQS (ミロックス) 」が登壇。こちらもアイスホッケー連盟との共創に取り組んだ。具体的には、女子クラブチームで不調を訴える選手に組織診断を行い、問題や課題を調査。VRを使ったトレーニングや、1対1でのメンタリングという形で、改善に取り組んだ。

 同社の紙田剛代表によると、「短いトレーニング期間だったものの、ゴール数、アシスト数、ペナルティ数、ターンオーバー数の全てにおいてポジティブな効果が見られた」という。その結果には、紙田代表だけでなく協力したチーム側も驚くほどで、特にディフェンスの選手で大きな成果を得ることができた。今後は引き続きチーム全体での活用を行うほか、代表レベルでの活用も行なわれる予定だ。

スポーツから生まれる新たな可能性を表彰

 イベント後半では、「INNOVATION LEAGUE コンテスト」の受賞企業・団体の表彰が行われた。「コンテスト」部門は、「ビジネス・グロース賞」、「ソーシャル・インパクト賞」、「パイオニア賞」、そして全体の大賞となる「イノベーションリーグ大賞」の4つで構成されている。

「ビジネス・グロース賞」は、鎌倉インターナショナルFCが実施している「Web3思想を活用した『共創・共栄型』のクラブづくり、まちづくり」が受賞した。

 2018年に創設された鎌倉インターナショナルFCは、母体企業や大手スポンサーがない中でのクラブ運営を行なっている。そのため、資金調達がクラブ運営の大きな課題となるが、同クラブが課題解決のために行ったのが、ブロックチェーンをベースとしたクラウドファンディングサービス「FiNANCiE」を通した収益源の獲得だ。この試みは見事に成功し、トークンの販売により4000万円もの収益を得た。

 トークンの販売だけでなく、ファンとのグッズ製作などの「共創」や、トークン購入者と共に価値を高めていく「共栄」という、新しいクラブづくりの形を生み出した。また、NFTの販売による収益を地元自治体や地域に寄付する仕組みも構築。地域の活性にも貢献した。同クラブの勝碕俊行氏は、「今後は競技の垣根を越えて、共創・共栄の輪を広げていきたい」と話しており、今回の他分野でのロールモデル活用も期待されている。

「ソーシャル・インパクト賞」は、ミズノが取り組んでいる「白杖『ミズノケーン』プロジェクト」が受賞した。

 同社では、スポーツ部門で培った技術を活用して、一般生活者向けのビジネスを広げている。その中で、今回取り組んだのは、ミズノの技術を用いて視覚障がい者が利用する白杖を作ることだったという。その結果生まれたのが、軽さ、デザイン性、折損時の付帯サービスという3つの特徴を持つ「ミズノケーン」だ。

 実際に視覚障がい者の方へのヒアリングの中で、持ち運びやすさや、デザイン性の高さ、丈夫さというのがポイントに挙がったという。特に丈夫さは重要で、外出先で白杖が折れると帰れなくなる恐れもあるが、ミズノケーンはこれらの条件で満たす形になっている。

 ミズノの長谷川和也氏は「機能面だけでなく、デザインに合わせて服を選ぶ喜びが生まれたという声が挙がるなど、従来の白杖では起こらないアクションが生み出せた」と話す。白杖ユーザーが外出を諦めることなくポジティブな気持ちになる白杖ということで、今後大きく注目を集めることだろう。

「パイオニア賞」を受賞したのは、FORESTRAIL HIRUZEN-SHINJO 2022 supported by GREENableとSPORTS DRIVEが共同で実施しているプロジェクト「走る人が増えるほど、協賛企業が増えるほど、自然環境保全が進む トレイルラン大会」だ。

 近年参加者が増加しているトレイルランだが、一方で実施する山林地域は高齢化と人口減少により、森林の整備や環境保全が困難になっている。

 こうした課題を解決するために行われているのが今回のプロジェクト。参加者側には通常よりも高い参加費を払うことで、自然環境保全活動に参加できる特別枠を販売。また、協賛企業に対しては、SDGsとサステナブルをテーマとするアクティビティーの機会を提供する。

 その結果、多くのトレイルランの愛好家が自然環境保全活動に参加。会場となる山林の保全や整備に貢献。また、協賛企業側はSDGsをテーマにした事業、新たな福利厚生の創出につながるということで、投資的効果を生み出した。企業協賛金だけに依存しない持続可能な仕組みの実現という、新しい道筋を作ることに成功した。

 栄えある「イノベーションリーグ大賞」には、湘南ベルマーレフットサルクラブの「湘南ベルマーレ + ittokai『ベルファーム』」が選ばれた。

 本プロジェクトは、「スポーツ × 福祉 × 農業」をテーマに、農業を通じて、障がい者の方が社会で活躍する機会を創出する農業連携事業。障がい者の方は農場で働き、ベルマーレの選手たちも就労支援者として農場に勤務する。

 障がい者の方の社会進出という福祉課題の解決や、選手のデュアルキャリアの形成、チームの地域貢献といったクラブ側の課題解決にもに取り組める。また、耕作放棄地を利用することで、地元地域の活性化にも貢献する。農業、福祉、クラブの3つの面で高い成果が得られている。

 湘南ベルマーレフットサルクラブの佐藤伸也代表は、「スポーツの力は、競技の垣根を越えていろんなジャンルでシナジーを生むと信じている一方的な構図ではなく、お互いがお互いのことを思って力を引き出しあった取り組みを多くの人に知ってもらいたい。」と今回の受賞についてコメントした。

 アクセラレーション、コンテストの両部門の発表、表彰が終わった後は、室伏広治スポーツ庁長官が登壇。デモデイの全体総括と閉会の挨拶を行った。先に成果を発表したアクセラレーション参加企業や団体については「それぞれの共創パートナーとの連携で、ここまで進められてきたのは素晴らしいこと。今回の成果発表を通過点とし、実装に向けて事業を加速してもらいたい」と話した。

 コンテストで受賞した団体に対しては「受賞した4団体はもちろん、ファイナリストに残った団体も素晴らしい取り組みだった。引き続きスポーツの可能性を広げる取り組みを進めてもらいたい」と評した。また、「ようやくコロナ禍という長いトンネルの出口が近づいている。スポーツ庁では、スポーツにおけるさまざまな挑戦を応援していきたい」と語り、今後のスポーツ業界、団体に大きな期待を寄せていることを示した。

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