大谷イビサのIT業界物見遊山 第44回
自分で飛び込まず、担当者に任せて知らなかった6社のブースへ
出会いを求めてJapan IT Weekへ IT記者の気まぐれレポート
2023年04月10日 12時30分更新
毎日のように原稿の締め切りラッシュだった期末を超え、先週は総合IT展示会「Japan IT Week 春(主催:RX Japan)」に参加してきた。今回はPR会社のPR TIMESさんのサポートをいただきながら、新しい製品やサービスに出会ってきた。
PR TIMESの提案にまるまるのってブースを回ることに
最近、自分に集まってくる情報がパーソナライズされすぎて、怖くなることがある。多くの広報やPR会社が自分の興味にあわせて欲しい情報が集めてくれるのはありがたい限りなのだが、新しいジャンルが拡がらないのが悩み。そんな記者にとってJapan IT Weekは、うってつけ。ビッグサイトの東ホール全部を使って出展している企業・組織の数は、11イベントでなんと750社に上る。
とはいえ、膨大な出展社を効率的に回るのは骨が折れる。普段は飛び込みでブースを回るのだが、都合良く広報もいないし、普通に営業される(当たり前だ)。「報道」と書かれた腕章をして、デジイチを首からかけたいかにも記者姿でも、名刺スキャンしないと、話が先に進まないこともある。「記者なので会社概要や事業内容についてお話を聞きたい」とお願いしたら、「Webサイトに詳しく載ってるので、そちらを見てください」と言われたこともある。もちろん丁寧に対応してくれるところが多いが、ここまで多いと出展社もいろいろなのだ。
今年は取材どうしようかなあと考えていたところ、PR会社のPR TIMESから「IT Weekに出展するから、イベント期間中に記者にテレワークブースを解放しますよ」という素晴らしい提案がやってきた。しかも、出展社にも多くのクライアント(出展企業の約半数!)を抱えているので、いろいろ紹介してくれるという。確かにPR TIMESの担当者が指摘するとおり、記者は「取材しても記事書く場所がない」「話を聞きたい広報に会えない」という課題を抱えているので、テレワークブースを貸してくれ、クライアントまでアサインしてくれるならウェルカムだ。
ということで、「あまり訪問しなそうなクライアント」をPR TIMESの担当者にリクエストし、6日木曜日の午前中を使ってJapan IT Weekのブース周りをすることにした。
トレンドはオンライン接客や遠隔サポートへ?(RSUPPORT)
最初に訪れたのは遠隔ソリューションを手がけるRSUPPORT。遠隔サポートツール「RemoteCall」、遠隔制御コントロールツール「RemoteView」、オンライン接客ツール「Remote VS」などを展開している。特にRemoteViewはあばれる君が出演する「遠隔さん」の広告でもおなじみ。コロナ渦のテレワーク期間に利用が一気に伸びたサービスだ。
同社のサービスの最大の特徴は、基本クライアント側にモジュールやコードを埋め込まずに、Webブラウザベースでセキュアに画面共有できる点。普段から接している社員や取引先であればともかく、サポートや接客を行なうお客さまになにかインストールを強いるのはなかなかやりづらいので、よいポイントだと思う。
トレンドとしては、人手不足を補う施策として、オンライン接客や遠隔サポートなどを導入する動きが加速しているとのこと。RemoteCallは1ライセンスから利用できるという手軽さがあり、スモールスタートで導入する中小企業も増えているという。
システム開発のミスショットをなくせ(AMBL)
続いてお邪魔したのは、AI、クラウドネイティブ、UXデザイン、マーケティングなどを幅広く手がけるAMBL(アンブル)。常駐型のSESをメインに手がけていたエムフィールドの設立から数え、すでに22期目を迎えるシステム開発会社。セキュリティや信頼性の要件の高い金融系のシステムに強みを持つ。
クラウド型の開発プラットフォーム「AMBL Qve」では、テスト、開発、商用環境を自動で設定でき、頻繁に開発する機能を標準化。ログインやEC、金融系やブロックチェーンのAPIを備え、低リスク、低コスト、短納期な受託開発が可能となっている。柔軟なシステム構築が可能なコンテナベースのアーキテクチャで、地銀や保険会社の共用システムに最適だという。AWSはもちろんマルチクラウドに対応している。
ブースでは「システム開発でのミスショットを減らす」をテーマにしたゴルフコースが用意されており、参加者は気軽にパッティングを試していた。
電話をフル活用するユーザーに導入進む「MiiTel」(RevComm)
3件目は音声解析IP電話「MiiTel(ミーテル)」を展開するスタートアップのRevComm。MiiTelは基本はPCやスマートフォン上で動作するIP電話サービスなのだが、録音や文字起こし、音声解析などの機能も搭載する。録音や音声分析はトップ営業のセールスを学ぶ教育ツールとしても使えるし、感情分析により顧客対応を見える化することも可能。架電数、通電数、商談数などを可視化できるため、Salesforceを中心としたSFA・CRMとの連携も多い。
現在、営業・インサイドセールス、電話窓口、コールセンターなどの用途で約1650社が導入。特にアウトバウンドでの用途が多いとのこと。Zoom版も用意されており、IDから導入できるので中小企業でも気軽に導入できるという。
インバウンド復活でニーズが増えそうな「みえる通訳」(テリロジーサービスウェア)
4件目はテリロジーサービスウェアが手がけるオンライン通訳サービス「みえる通訳」だ。スマートフォンやタブレットの画面から通訳をおねがいしたい言語を選ぶと、日本語と外国語を話せる通訳オペレーターにつながるというサービス。現在は英語、中国語、韓国語、タイ語、ロシア語、ベトナム語、タガログ語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、ネパール語、ヒンディー語、インドネシア語など13言語に対応しており、訪日外国人の約96%をカバーするという。
利用料金が定額なのは大きなメリット。対応言語(5言語or13言語)と対応時間帯にあわせてライトプランとスタンダードプラン、さらに医療専門用語に対応する医療通訳プランなどが用意されている。手話通訳を標準提供しているのも特徴だ。
2014年からサービスをスタートしており、増加の一途をたどるインバウンドでの需要に応えてきたが、コロナ禍以降は在日外国人のワクチン対応に苦慮する自治体での利用が増えたとのこと。インバウンドの復活とともに、小売や観光、運輸などの業界で利用が加速しそうだ。このAI時代に、人の通訳をリアルタイムに呼び出せるというのも、1つの価値だと思うがどうだろうか?
あえて2Dメタバースを構築したのはWebサービスの延長だから(ARTORY)
5件目はメタバース活用EXPOに移って、名古屋のアートリー(ARTORY)のド派手なブースへ。Webサービスを専業でやっていたARTORYが提供しているのは、キャラもかわいらしい2Dのメタバースだ。3Dメタバースはインターフェイスの優れたゲーム機に任せ、PCやスマホ向けには軽量な2Dのメタバースの方がよいという提案はとてもうなづける。
また、あくまでWebサイトの延長としてメタバースを作っているという点も特徴的。ユーザーがサイトを訪問したら、通知が来たり、チャットもできる。2D化されたオフィスにユーザーを招いて、最終的には商談できたら面白そう。リアルオフィスの代替として、今後はメタバース上で会社訪問するのが当たり前になるかもしれない。
昨年の10月には世界遺産である比叡山延暦寺をメタバース化した「比叡山バーチャル延暦寺」でオンラインイベントを開催。アバターで参加することで、ファッションショーやライブコマースなどのコンテンツを楽しめるようにしたという。今後は防災や観光、ウェディングなどさまざまな分野でメタバースのビジネス活用を進めていく予定で、ユニークな事例が期待できそうだ。
言葉で伝わらない体験を可能にするローカルメタバース(アルファコード)
そろそろ昼過ぎ。最後に訪れたのは同じくメタバースのB2B活用を提案するアルファコード。VRコンテンツの制作やメタバースソリューションを提供する同社の体験ブースで用意されていたのは、インターネット接続不要のメタバース「VRider COMMS」だ。
通常、メタバースやVR空間はインターネットに接続するのが当たり前だが、このVRider COMMSは20人以上で1つのVR空間を共有するいわば「ローカルメタバース」というコンセプトだ。資料や3Dモデルの共有、共同での3Dペイントも可能。参加者もVRならではの直感的な操作が可能で、ブースでは8人が同時に体験していた。現在は同時50人くらいで利用できるが、バージョンアップにより最大100人までをカバーする予定だという。
社内研修、体験会、イベント、バーチャルツアーなどの利用を前提としており、たとえば自動車整備の授業で導入した専門学校では、一度で数名しか見られない実習作業を多人数が同時体験できたという。「研修で映像をみんなで見ると、失敗した際には笑ってしまうのですが、VRだと共有体験になるので、受講生も本気になるんです」(アルファコード)とのこと。年間導入プランとイベントプランが用意されているという。
ということで、いかがだっただろうか? 不勉強ながら、社名を知らないところもあったし、新しい出会いや学びにつながり、個人的にはとても有意義だった。数あるクライアントの中からオオタニにあわせてルートを作ってくれた担当者に多謝。また、PR TIMESにはテレワークブースも貸してもらえた。騒がしく、通信環境も悪いイベント会場なので、普段は地べたやベンチで作業することもあるのだが、今回は半分仕切られたパーティションで集中して作業できて、ありがたかった。
大谷イビサ
ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。
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