若者も親も祖父母も使うテレビだけに使い勝手は問題となる
日本の高齢者以上にデジタル機器に弱い、中国の高齢者
スマートテレビの問題はこれだけにとどまらない。リモコン操作についても、ワイヤレスキーボードやマウスを使う方法をユーザーが知らない場合が厄介で、無線LANのパスワードやコンテンツの検索など、何か文字を入れようとするたびに画面にキーボードがでてきて、1文字打ち込むごとに苦労する。シャオミは以前テレビのリモコンのボタンを大胆に減らしてみたものの、ユーザーからはシンプルすぎて使い方がわからないと不満も出た。
音声入力も可能にはなった。しかし多くの製品はまだ単純な音声認識の段階にあり、まだまだ思い通りに命令できるレベルではない。それでも若いユーザーならコントロールできるだろう。高齢のユーザーとなると音声認識のクセを理解することができない人もそれなりにいて、高齢者がスマートスピーカーに苦戦する動画も多数アップされている。
また、中国のライフスタイルならではの事情もある。祖父母(高齢者)+父母(中年)+子供(若者)の三世代で住んでいることも少なくない。若者は使いこなす人は使いこなすが、中国の高齢者は急激な環境の変化や政治的な過去により日本の高齢者よりもずっとハイテク製品に触るのが苦手だ。若者は「ゲームなどのさまざまなアプリを入れて使いこなしたい」というニーズがある一方、高齢者は「テレビが見られればいい」と考えていて、若者があれやこれやアプリを入れれば祖父母が使いにくくなるという矛盾が発生する。
製品を購入する際は若者が情報を収集するので、メーカーのターゲットは若者になる。なので各社は画面品質に加え、ゲームやカラオケや音楽、ECなど多方面に機能を拡張し、パソコン、スマートフォンに続く第3の家庭内情報端末にしようとしている。そうは言っても、ユーザーサイドでは高齢者を大事にする文化の中国で、祖父母の意向は無視できない。
スマートテレビ黎明期は、バンドルされるアプリの1年無料券がついていて、本体購入時にそれを登録するだけで利用可能だった。プリインストールされているアプリも少なく、高齢者はテレビ番組に簡単に切り替えてみることができた。ところが動画アプリがスマートテレビ向けサービスで多様なプランを出し、政府も介入し、メーカーはアプリを多数入れて本来の顧客を無視して多機能化を目指し、気づけば面倒くさく魅力のない商品になってしまった。その不満が今になって中国のインターネットで噴出している。状況が異なる日本で同じことが起きることはないだろうが、他国で中国と同じことになる可能性は否定できない。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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