Coltテクノロジーサービスは2023年4月4日、グローバルCMOの水谷安孝氏の来日に伴い、グローバルのビジネス戦略や2023年のマーケティングビジョンについての記者説明会を開催した。Coltでは数年前から市場分析や企業分析、ネットワーク投資先予測などにAI技術を活用しており、水谷氏はその具体例と成果についても紹介した。
盛り上がるデータセンター市場の動向を注視しながら提供エリアを拡大
まず初めに、日本法人社長/アジア代表の星野真人氏が、Coltの歩みやビジネスの概況、そして現在注力している「クラウド接続サービス」「SD-WAN」など新しいサービス領域への取り組みについて紹介した。
従来日本市場においては、光ファイバー網、広域Ethernetなどのビジネスが中心だったColtだが、顧客企業におけるクラウド利用やDX、リモートワークの普及などを背景に、クラウド接続サービス、SDN技術によるオンデマンド型のネットワークインフラサービス、SD-WANサービスといった“柔軟なネットワーク”を実現するサービスへのニーズが高まっている。そうした変化に合わせて、Coltでもサービスの拡充に力を入れてきた。
さらに、そうしたサービスの提供基盤となるネットワーク提供エリア拡大の動きも見せている。今年2月には西日本(広島、岡山、福岡)への拡大計画を発表した。ネットワーク提供エリア拡大のための投資戦略について、星野氏は国内におけるデータセンター建設の動向を見ながら計画していると説明する。
「グローバルのなかでも日本はデータセンター市場が盛り上がっている市場で、特にハイパースケーラーのデータセンターが急拡大している。ただし、データセンターがあってもネットワークがなければ意味がない。われわれの基本的な投資戦略としては、そうしたデータセンターが集まる場所にネットワークを持っていくというものだ」(星野氏)
ビジネスや生活に欠かせない「デジタルインフラ企業」として
ColtグローバルCMOの水谷氏はまず、近年実感することとして、社会において「通信」のもたらす影響力が「電気やガス、水道といったものと同じような、社会インフラという位置づけに近づいてきている」と述べた。「大規模な通信障害が起きればニュース速報が流れるような、そういう時代になった」(水谷氏)。
そうした社会の変化を背景に、Coltでは今年1月、新たなミッションステートメントとして「デジタルの持つ力を融合し、グローバルなデジタルインフラを活用したソリューションをお客様に届ける」という言葉を掲げた。端的に言えば「デジタルインフラ企業を目指す」という宣言だ。
「さらに、このデジタルインフラストラクチャーを1つの国、たとえば日本だけではなく、グローバルに同じものを作って、どの国でも同じように使えるようにしていく。そうすることでお客様に提供できる価値が高まる。そうした考えもこのミッションステートメントには含まれている」(水谷氏)
具体的なグローバル戦略としては、顧客およびColtが中長期的にサステナブルな成長を実現していくことを目標に、クラウド/SaaSベンダーなどの大手企業にグローバルで均質なインフラを提供していく「テクノロジージャイアント戦略」、アプリケーションを構築するSIパートナーやColtが自社ネットワークを持たない地域のキャリアパートナーとの連携を強化する「パートナー戦略」、そしてユーザー企業との関係を深化させる「エンタープライズ戦略」の3つを挙げる。
「(エンタープライズ戦略について)ユーザー企業がソリューションを検討するうえで、かつては『通信サービスは何にするか』などと議論されることはなかった。しかし、これが現在すごく変わってきている。(欧州のColtでは)今年に入ってすでに500社以上とストラテジーワークショップを開催しており、たとえば『ビジネスとしてどんなことを実現したいか』から議論を始めて『そのためにはどんなネットワークが必要なのか』という検討を行っている。やはり皆、ネットワークの重要性について考え始めている」(水谷氏)
またパートナー戦略についても、素早いペースでパートナー連携の発表を続けてきており、「クラウド化や柔軟なネットワークの実現の取り組みを、パートナーとかなり先に進めている」と説明する。米LumenのEMEA事業買収(昨年の買収意図発表)など、キャリアパートナーとネットワークエリアを拡大していく「面を広げる」取り組みと、SaaS/クラウドパートナーなどとのソリューション構築という「レイヤーを上げる」取り組みの、両方に注力していると語った。
マーケティングへのAI活用で案件規模拡大、顧客満足度向上を実現
水谷氏はグローバルCMOという立場から、Coltのマーケティング戦略についても説明した。ここでは「AI」をキーワードに起こるマーケティングの変化を示すとともに、ColtにおけるマーケティングへのAI分析の活用事例を紹介した。
ちなみに水谷氏は、データ分析とAIに集中的な投資を行い販売活動をサポートしたことで、2020年と2021年、英データエコノミー誌の「世界で最も影響力のあるマーケター50人」に選ばれている。また今年度は、英ケンブリッジ大学 ジャッジ・ビジネススクール Executive MBAコースのゲストスピーカーにも選出された。
Coltにおけるマーケティング活動へのAI活用のスタートは、コロナ禍がきっかけだったという。ハイブリッドワークが浸透し、顧客との商談もデジタルチャネルが中心になるなかで、顧客との接し方について見直すことになった。
まずコロナ禍の初期に取り組んだのは、「どの企業がコロナ禍の影響を受けているのか」をAI分析により把握することだった。Coltが持つ顧客リストや売上情報、競合情報などの内部データと、公開されている報道記事や財務情報、ソーシャルメディア投稿といった外部データを組み合わせてAIエンジンで処理し、顧客を「売上成長が見込める」「コロナ禍の影響を大きく受けている」「ビジネスリスクを伴う」といったカテゴリに分類した。
「AIエンジンで分析をかけて『インテントシグナル』、つまりお客様がどのサービスに興味があるのか、どのサービスを買おうとしているのかといった分析も行い、ある程度把握できるようにした。それを使って、どのお客様にどんなお話をしたら一番お客様のためになりそうかを分析している」(水谷氏)
ここでは、売上成長が見込める顧客へのアプローチを強めただけではなく、コロナ禍によるマイナスのインパクトを受けた顧客に対しても「何か支援できることはないか」と声をかける取り組みをしたという。そうした営業活動の結果、案件規模が大幅に拡大し、顧客満足度も向上した。
また、ネットワーク構築のための投資先とする都市を判断する際にもAI分析を活用しているという。日本を含む世界241都市を対象に、マクロ経済の状況や成長性、広帯域を使用する企業の存在など、さまざまなデータに基づいて分析と判断を行っていると紹介した。