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アステラス製薬がデータアナリティクスによる経営DXに挑む理由

2023年03月28日 11時00分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

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データ分析部門と情シスを統合 新規事業創出の部門も

 アステラス製薬において、既存ビジネスと位置づける医療用医薬品ビジネスのDXを推進している組織は、高度なデータ解析と、AIやML(機械学習)を活用してDXを推進する役割を担うアドバンストインフォマティクス&アナリティクス(AIA)部門と、デジタル技術を活用して業務を変革したり、デジタル基盤を刷新したり役割を担う情報システム部門となる。2023年度には、2つの部門を統合するという。さらに、新規事業を創出する役割を担うRx+事業創成部が、その役割の実現に向けてデジタルを活用している。

全社横断でデータアナリティクスを手がけるAIA

 データアナリティクスの活用については、AIAが中核的な役割を担うことになる。高度な分析とモデリングソリューションによる戦略的な意思決定、リアルワールドデータの活用によるデータ主導の意思決定、ビッグデータやデジタル技術などを活用した創薬研究の推進や加速、データガバナンスやエンジニアリングを駆使して、分析能力を高度化するといったことに取り組んでいる。

 アステラス製薬では、医薬品開発におけるプロジェクト価値評価シミュレーションを実施。演算速度の向上により、数万回のシミュレーションを通じて、幅を持った価値評価が可能になり、将来の様々なリスクを定量的に評価できるようになったという。

 また、未知のウイルスであり、疫学データが存在しない新型コロナウイルスが蔓延した際には、製薬メーカーは、数々の意思決定が求められていたが、データが蓄積されるに従って、モデルの精度が向上し、適切な対応策を実施できるようになったとする。

 「データ分析とシミュレーションをバランスよく活用することが重要である。長期化する創薬のプロジェクトは、フェーズによって状況は変化し、売上収益に対するボラティリティが生まれる。すべての不確実の要素を同時に考慮するのは人手では不可能であるが、高度なシミュレーションによって、価値の算定ができるようになる。ここで生まれる潜在的効果は数100億円規模になる。製薬業界では、過去のデータによる分析だけでなく、将来、どのように手を打てば大きな価値を生み出せるのかといったことにも取り組む必要がある」などと述べた。

データアナリティクスによるDXはすでに成果も

 さらに、データアナリティクスDXに関して、いくつかの事例も紹介した。

 データ駆動型DXの事例として、中期経営計画の目標達成度をモニタリングする「データビジュアライゼーション」をあげた。プロジェクトの進捗管理において、データを見える化するために、膨大なデータの分析や加工プロセスを自動化し、意思決定を支援するダッシュボードを開発した。各プロジェクトの進捗状況を視覚化し、プロジェクトの優先順位づけやトレンドの抽出を行えるようにしたという。データ入力から分析結果を出すまでの期間を3日から15分に短縮したという。

データビジュアライゼーションの事例

 また、製品の安定供給のための需要分析を行なう「サプライチェーンマネジメント」においては、過去の実績や季節性、医薬品市場特有のパターンをもとに予測モデルを適切にカスタマイズすることで精度を向上。異なる時系列予測モデルを用意し、各モデルの予測能力を相対比較しながら、製品ごとに適切なモデルを自動的に選択するプラットフォームを開発。予測精度の向上により、製品の安定供給やコスト最適化などを実現できるという。

 さらに、限られたデータ下での投資判断に向けた情報の提供を行なう「リアルオプション評価」は、不確実性が高いプロジェクトの価値算定に活用。たとえば、過去の数万種類におよぶ化合物のデータセットをもとに、ある化合物で、どの適応症を狙うと、どれくらいの期間やコストがかかり、売上げはどうなるのかといったプラットフォームをPythonで開発。欠損データが多くても評価ができるようにしたという。アーリーステージにおけるアセットの価値を短時間で評価し、投資判断に関する情報を提供し、迅速な意思決定につなげているという。

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