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AWS re:Invent 2023のヘルスケア・ライフサイクル業界セッションをリキャップ

製薬バリューチェーン全体に拡がるAWS活用 生成AIやゲノム解析も容易に

2024年02月08日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2024年2月7日、AWSジャパンは昨年開催された「AWS re:Invent 2023」の製薬業界向けの内容を振り返るメディア向けセッションを行なった。20以上に渡るヘルスケア・ライフサイエンス業界セッションから、生成AI、ゲノム解析、バリューチェーン基盤などのトピックが抽出された。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 ヘルスケア&ライフサイエンス部長 益子 直樹氏

製薬業界の生成AIの利用ステージは業務実装フェーズへ

 登壇したのはヘルスケア・ライフサイエンス分野で技術面で支援するSAチームのマネージャーを務める益子 直樹氏。まずは製薬業界、公的研究、ゲノミクス、予防、介護関連などの国内でのユーザーを紹介し、そして5日間に渡って開催された昨年末のAWS re:Invent 2023について説明。2000以上に上ったブレイクアウトセッションのうち、20程度にあたるヘルスケア・ライフサイエンス分野のセッションから製薬業界でのトレンドを振り返った。

 一言で製薬会社といっても、製薬のバリューチェーンにおいては創薬研究、臨床開発、製造、コマーシャル・メディカルなどの領域が存在しており、事業領域もそれぞれ異なる。ただ、クラウド導入は今やインフラのみにとどまらないフェーズに進んでいるという。益子氏は、「どこから始めるかは各社で違いがあるが、AWSの利用が製薬バリューチェーン全体に拡がっている」とコメントし、3つの観点で製薬業界の利用シーンと事例を披露した。

製薬バリューチェーン全体に拡がるAWS活用

 1つ目は生成AIの利用ステージが検討段階から業務実装フェーズに進んでいること。ヘルスケア・ライフサイクル領域における機械学習(ML)は大きなブレイクスルーとなっており、「今後3年間でペニシリンと同じくらいのインパクトを業界にもたらす」という見方もあるという。これに対して、AWSは基盤モデルの学習と推論を支援するインフラや開発環境、基盤モデルへのアクセスやカスタマイズを支援するAmazon Bedrock、基盤モデルを活用したアプリケーションなどを生成AIスタックとして提供。トップ10の製薬企業のうち、9社がAWSのML基盤を採用しているという。

トップ10の製薬企業のうち、9社がAWSを採用

 生成AIを用いることで創薬イノベーションを加速させているのが、ギリアド(Gilead)だ。同社は生成AIのチャットボットを活用することで、内部の標準文書を必要なときにソースを含めた形で提供できるようにしている。また、構造化/非構造化データを取り込んでベクトルデータストアを構築し、ユースケースごとに最適なLLMを利用している。

 また、ジョンソン&ジョンソンは患者が予防、治療、アフターサービスを受けるためのプロセスが複雑という問題に対して、コマーシャル領域でのデータ活用を推進している。「処方箋の1/3が使われていないという報告もある」という中、電子カルテやデジタルヘルスのデータ、分散した各種データを集約して、価値の創出にチャレンジしている。ただ、医療の個別化に対応すると汎用性の高い基盤モデルのメリットが失われるため、生成AIに加え、社内文書を検索できるRAG構成をとることで、両者のいいとこどりを実現しているという。

データ爆発の課題を解消するマネージドサービス

 2つ目はゲノムや臨床データの爆発に対して、クラウドの利用が進んでいること。たとえばカリス・ライフサイエンス(Caris Life Science)は1日に数百TB発生するゲノムデータの保管が課題となっており、約6000本に渡るテープの運用もすでに限界を迎えていたという。オンプレミスで運用されてきたこれらゲノムデータを同社はAWSに移行。29PBという大容量データをクラウドで運用することで、コストを削減しつつ、データの安全な運用やパートナーとの連携を実現した。ログ記録&データ検証できるAWS DataSync、データファイルの位置を把握するためにAmazon Athena、適当な人に適切な操作を提供するAWS Control Towerなどのサービスを採用。スケーラビリティが向上したことで、患者サンプルの受け入れ上限もなくなったという。

29PBのゲノムデータをAWSで運用するカリス・ライフサイエンス

 また、アムジェン(Amgen)はゲノム解析に特化したフルマネージドサービス「AWS HealthOmics」を採用。研究者がセルフサービスでパイプラインを実行できるようになったほか、最大40~60%のTCOコストの削減を実現した。AWS HealthOmicsは過去十年間にAWSがユーザー企業と取り組んだゲノミクス関係の知見を元に設計されているという。

18ヶ月で19の新製品開発にチャレンジしたファイザーのクラウド活用

 3つ目はバリューチェーン全体にAWSの活用が拡がったこと。ここでは「18ヶ月で19の医薬品やワクチンを開発する」という野心的な目標を掲げたファイザー(Pfizer)の基調講演がポイントされた。目標を達成するため、同社はAmazon Bedrockで生成AIを活用して、医薬品開発のスピードを向上し、年間10億ドルを削減するプロジェクトも出てきた。生成AIでは特許出願の作成や医学コンテンツ生成などを効率化。また、計算資源を確保したHPC基盤で開発スピードを向上し、FDAの緊急使用許可を269日でクリアし、生産キャパシティも2億本から40億本まで拡大した。

 ファイザーはAWSと共同開発したデジタルオペレーションセンターや工場との連携、生産量の可視化、リアルタイムな介入まで実施したことで、スループットも20%向上。これらを実現するために、エンタープライズレベルのデータ戦略とプラットフォームを構築。1万2000のアプリケーションとデータベース、8000台のサーバーを10ヶ月でAWSに移行し、年間4700万ドルのコスト削減、3つのデータセンターの廃止、4700トンのCO2削減が実現されたという。

バリューチェーン基盤全体でAWSを採用したファイザー

 こうしたバリューチェーンの活用を加速する全社クラウド基盤としてのAWS採用も相次いでおり、AWS re:Invent 2023では中外製薬、ブリストルマイヤーズスクイブ(Bristol Myers Squibb)、ハニーウェルなどの事例が披露された。

 こうした医療・製薬業界に向けたAWSサービスとして、前述したゲノム解析基盤の「AWS HealthOmics」のほか、医療情報を蓄積し、BIやMLサービスから分析できる「AWS Health Lake」、ペタバイト規模で医用画像(DICOM)を保存・共有・分析できる「AWS HealthImaging」、患者と医者の会話から臨床ノートを自動生成する「AWS HealthScribe」なども紹介された。今後は創薬に特化した生成AIの活用やサービスの拡充を進め、日本への投資も加速していくという。

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