全国各地に応じた多様なインフラ作りがこれからのテーマに
── 次年度はどうするんでしょうか?
大村 第3弾をやろうと議論しています。今回は災害が起きた後の対応策がテーマでしたが、次回はもっと減災に向かうプログラムにしたいと。江東区を舞台に水害の減災を検討すると、たとえば数十万人の方が浸水エリアに住んでいるとして、健常者なら台風が来る前に逃げられると思うんですが、要配慮者や足が不自由な人を、いかに事前に安全な臨海部へ避難させられるかデータ分析をする必要があると考えています。あとは受け入れる側の交通防災拠点の要件整理です。どこまでの機能があれば拠点として信頼できるかということを継続して議論できればと。
── 今年は関東大震災100年だからということですが。30年以内に首都直下型地震が70%の確率で発生すると言われていますよね。実際来るんですかね?
児玉 起きるんじゃないでしょうか。私は名古屋出身で、東海大地震は起きていないので「起きるのかなあ」とは思うんですが、地震は周期性なのでたまたま起きていないだけという話なのかなと思います。日本は幸か不幸か、戦後復興をしたとき高度経済成長期にたまたま台風とか地震が起きていなかったんですよね。ワッと都市が膨張するときに、たまたま大規模災害がなかった。災害時に空き地とかオープンスペースが必要じゃないかとか、国の仕組みとしてそういったことを最優先で考えずに成長してきてしまった。そこでインフラがある程度老朽化してきて、都市の仕組みを作りかえるというときに、災害対策をうまく入れ込んでいかないといけなくなってしまった。私たちも都市で暮らしていてそういう想像力が持てなくなっているというか、感覚がまひしてきてしまっていると思うので、それをリアルにイメージできる体験と合わせて防災意識を高めることが重要じゃないかなと思います。
── 今後こうあるべきではないかという提案を最後に伺いたいんですが。
宮原 今回、産官学民のまちづくりの組織ができたことは我々も目指していたところで。まちにかかわる人がスクラムを組んで、その人たちが自律的に活動して持続的にまちをよくしていくということはあるべきではないかと思います。
── それは何なんですかね?町内会かもしれない。
宮原 たしかに、住人の方にとっては町内会ですね。それが住人の方だけでなく、そこに本拠地を置いている事業者もいるし、行政もいるし、我々のような民間企業もいる。いろんな主体が混ざった町内会かもしれません。今回は防災でしたが、イベントなどいろんなまちの活動で、その人たちが主体になって活動できるような仕組みづくりをすることが必要だなと思います。
── その仕組みは何なんですかね。意外と歴史をひもとくと、具体的な理由があったりするじゃないですか。驚いたのは、なまはげって「住民を確認したい」ということが目的の1つじゃないかということなんですね。もちろん来訪神という昔からある神様のスタイルなんだけど、「悪い子はいねえがあ」と言いながら、悪いオヤジがいないか見ていると。隣の家がどうなってるか分かるってすごく画期的なことですよね。透明性というか。高度経済成長の時代って核家族化とかでどんどん不透明になっていった時代ですからね。
宮原 さらにコロナで不透明になっていきましたからね。接点が持てる仕組みやデバイスが増えたので、そういうところが必要とされる部分はあるかもしれません。
── 子ども食堂とか、あらゆることが同時に起きているじゃないですか。そういうものの必要性を感じさせるものが。実はものすごく大きなテーマに関係していると思うんです。首都移転レベルのことが必要なんじゃないかと。
児玉 首都移転という話も聞こえてきましたが、東京の状況はかなり特殊だってことですよね。人口減少や高齢化の話とかも含め、東京で起きていることはリスクを高めることばかりで。それで資本主義的にはメリットがあったのかもしれませんが、その弊害が災害時には悪い側面が見えてしまっていると思います。
── たまたま大地震が起きていなかっただけという話が先ほどもありましたが。
児玉 戦後、中央機能が東京にある状態で戦後復興と高度経済成長をしました。これまでは国がインフラの作り方を決めて、それを全国あまねく作る、建設するということで国土を作ってきましたが、災害対応は個別対応なんですね。
ここ豊洲でインフラの作り替えの仕方を議論していると思っていただきたいんですが、それは東京臨海部っていう文脈に応じた、民間企業と一緒に作るインフラの作り替え方を議論している。「じゃあ東京以外では、どういう主体で、どういう人たちが議論して、どういう費用負担で、どんなインフラを作りなおすか?」ということを、個別の事情に応じて全国いろんなところでやらないといけないっていう状況になってきているんだと思います。なので、首都移転に代表されるような分権化、道州制のような意思決定権限であるとか、まちの作り方の多様化、インフラ機能の多様化がこれからのキーワードになってくるだろうと。
清水建設さんは豊洲ではそういう作り方はしていますが、ほかの地方都市でも色々やられてますよね。そこで、自治体との対話の仕方、民間企業のインセンティブのもらい方といった知見を活かしていく。災害リスクは場所に応じて違うので、そのリスクに応じた対応ができるようなインフラの作り方を、その土地土地で多様化していくことが必要かなというのが私の長期的なビジョンですね。
── 今回のイベントは豊洲でしたが、これは日本全国に共通する課題であると。災害時の情報発信主体がまとまっていないという話もありましたが、これを「豊洲ケース」として全国に展開していけたらいいですね。
(提供:清水建設株式会社)
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