商業施設は帰宅困難者を受け入れるよう法制化すればいいのでは?
大村 あとは社会実験として豊洲駅から歩いてきてもらったとき、どのくらいでみなさんが移動したかという話についてですね。8割の人はステップ4で移動しようと考えたんですが、一方で、10%の人はどんなに「避難してくれ」と言われても移動せず、帰宅したいと考えたという話がありました。
── 「こういう人たちは移動しない」という傾向はあったんですか?
宮原 子育て中の方とか、介護中の方は10%の中に含まれていました。私も児玉先生と話しながら豊洲駅から向かっていたんですが、みんな子どもがいて「どうにか帰れないか1日くらい考えたいよね」と。何時間後に電車が復旧するという情報がリアルに伝わっていないので、いつまで待てばいいかも分からないけど、なんとか帰る方向で頑張りたいと。
── 児玉先生はどうして移動しなかったんですか?
児玉 やっぱり行ったことのない施設には、どんなに近くても行きづらいかなと。行ったことがある場所なら一晩くらい過ごせるかなという判断はできると思うんです。でも初めて行った外出先で「小学校の一部を帰宅困難者に開放します」と言われても、行くかというと難しいかなと。なので、こういうイベントや展示があったり、お買い物などの用事以外でも知っているかどうかが大事なのかなと。災害時はそれだけでイレギュラーなので、そうしたことが安心感につながるかなと思いながらアンケート結果を読みました。
大村 普段から利用する場所が一時滞在スペースになっているかが大きいですね。
── あらゆる商業施設に障害者向け駐車スペースがあるように、帰宅困難者向けの滞在設備を設け、そこを催事場にするよう法制化すればいいんじゃないですか。
大村 ただ、商業施設では逆に人を入れてはいけないという話もあるんですよね。
── ええーっ。なぜですか。
大村 建物の安全確認ができるまでは、一度震災があった場合外に出すルールになっているようです。豊洲スマートシティ推進協議会では商業施設と連携をしたいという意見もありましたが、それはまだ難しいという話になりました。
児玉 「一般の方を追い出す」と言うと何ですが、それは商業施設に限らず東京メトロさんやJRさんも同じなんですよね。そんなにたくさんの人が常に滞在する構造になっていない場所ばかりなので。
── 駅はいまや商業施設としてガンガン商売やってるんだからそれくらい返してほしいですね。
児玉 その点、メブクスさんはバスターミナルみたいな交通結節点を持ちながら、さらに一時滞在施設として開放できるスペースを持っている。産官学セッションで民間企業のこうした取り組みを行政としても支援したいという話があってよかったなあというか、「それなら最初から補助金を」みたいな話もありました。
── なるほど、そういう話になるのですね。
児玉 そこで最初の話に戻りますが、それがノードとリンクの話になってきて、「鉄道に乗る場所=駅」というのが、ただ人をリンクに流すだけのポイントでしかないと。JRさんも東京メトロさんも今までは通勤通学の交通需要をいかにさばくかという結節点、駅の作り方しかしてこなかったし、国交省としてもいかにMaxの流動量を高めるかという駅の作り方にしか着眼点がなかった。移動の量とかスピードにしか評価点がつかなかった。一方、これからはいろんな移動の仕方や目的があると思うんです。乗客には子どもも高齢者もいます。ゆっくり移動をしたいとか、乗り換えのときにテレビ会議をしたいとか、質的な移動の評価が変わってきます。そうすると駅とかバスターミナルのようなネットワークのノードにあたる部分に求められる機能が変わってくるだろうと。それが災害時にもみなさんの安全確保に使えるようになると、まちの作り方が変わってくると大げさかもしれませんが、もっとそういうスペースが増えるとまた変わってくるだろうと。
── 世の中的にそういう機運はないんですか?平時と災害時の二元論はうまくいかないと。今持っているそれぞれの責任の範囲内からするとそうはならない。そこの常識が変わらないと解決しないと思うんですが。
児玉 ちょうど今その議論をしているところですね。ただ、台風や水害でしたら施設開放もありうると思うんですが、地震ですと、建物自体の安全確保として、その場のスタッフに建築士がいるわけじゃないですし、崩壊具合をすぐ専門的に判断できる人材を常時配置するわけにはいかないので難しいところがあるのかなと。そう考えるとまちを建物で埋め尽くすのではなく、オープンスペースとか、簡易な大屋根構造とか、パッと安全確保できる場所、自由に使える場所、資本主義的には何も生まないスペースをうまく配置していくように行政的に誘導したらいいんじゃないか、民間企業がそういう空間を配置したら税制優遇などをすべきといった意見をもっと挙げた方がいいんじゃないか、という話がありました。
── 本当のスマートシティってそういうものなんじゃないの?と思いますね。難しい問題をはらんでますけどね。誰がいるか分からないからセキュリティの問題もありますし。ある被災地を取材した人によると、ボランティアで看護師さんが来たりしましたが、実は免許をもっていなかったということがあった。そのあたりはクリアできそうな問題ですが。
大村 平時のメブクス豊洲は利用者に開かれたオフィスエントランスですが、こういうゆとりある空間づくりが災害時に生きてくると感じています。
── ただ東京を見ていると、実際はまったく違う方向に進みがちですからねえ。渋谷なんかも。
児玉 渋谷にしてもそうですが駅前はどうしても人が集まり、施設が集中してしまうのはなかなか変えがたいんですよね。
その意味で、豊洲エリアでスマートシティとしてできると考えているのは、道路の安全が確認できたら地下鉄が復旧するよりも早く、バスターミナルから臨時バスやBRTで人を外に流せるんじゃないかということなんです。スマホアプリを入れてもらうと、その人が普段どういう動きをしているかがデータで分かりますよね。スマートシティのサービスや都市OSなどと呼ばれるもので一括してその情報を持っていれば、災害復旧を待っている間に、バスやBRT、船などを発着させて、駅の混雑を緩和できるかが分かるんじゃないか。福島で地震があって新幹線が止まったとき「新宿バスタからの高速バスを何便増便するか」ということも、普段のバス便利用者数と、実際に休止になった新幹線の便数を合わせて「じゃあ何十台追加ね」ということでうまく人を流せたという実績もありまして。
鉄道は確かに大量に安全に人を輸送できるんですが、逆に、災害発生時の安全確認には時間がかかります。前時代的かもしれませんが、バスとかBRTなど路面交通、道路を使った交通をうまく需要供給をバランシングさせて発着させる。それが混雑解消につながるんじゃないかという試みを考えているところです。
宮原 今回、国交省関東地方整備局が豊洲でシミュレーションをしていただきました。豊洲駅と駅から少し離れたミチノテラス豊洲や豊洲市場で連携し人を受け入れることで、「豊洲エリアとして帰宅困難者がゼロになる」というシミュレーション結果が示されていました。そうした形でエリア間を連携する、そのためにどういう情報発信が必要なのかという連携の仕方、組織のあり方を検討していくとポテンシャルがあるのかなと感じました。
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