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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第711回

Teslaの自動運転に欠かせない車載AI「FSD」 AIプロセッサーの昨今

2023年03月20日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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HW 2.5から性能が21倍向上

 肝となるのがNNA(Neural Network Accelerator)であるが、2つのNNAが独立して配される。NNAの中枢は96×96のMACユニットで、これが単体で36.8TOPSの演算性能を持つ。このMACユニットは周囲に配された32MBのSRAMとだけデータ交換することで、効率よく計算できるようになっている。

 もっともこれに関しては2019年7月にハンガリーのAIMotiveがFSDの分析をしており、それほど効率が良くないとしている。下の画像を見ると、SRAMセルからMACユニットに配線が集中しており、実際にはここがボトルネックになってしまいやすく、MACユニットの効率はかなり低いのではないか? と推察している。

2つのNNAユニットの中央上部にMACユニットが配され、左右と中央下部はSRAM領域になっている

 AIMotiveによれば、MACユニットとSRAMセルを混在させるような構成にすれば、90%以上の効率を実現することも可能とするが、ただし設計が複雑化する関係で、設計完了が半年~1年程度伸びることになる。

 Teslaはこの設計期間が延びることを嫌って、不効率を覚悟のうえであえて単純な構成でFSDチップを設計したのではないか? というものだ。

 Teslaクラスの資金力があれば、例えばHW3.0はこの単純なFSDチップで実現しておいて、これとは別により最適化を進めたチップを並行して開発することも不可能ではないだろうし、とりあえずNVIDIAから自前にチップ設計を切り替える第一歩としては、確実に動くものを作る方が重要だったという判断もあり得るわけで、その意味でもAIMotiveの分析は間違っていないように思える。

 NNAの内部構造は以下の画像のとおり。MACアレイでひたすら乗算を行ない、その結果をSIMDエンジンで受けるという格好になっている。

MAC出力はかならずSIMD Laneで受けてその結果をSRAM Bankに戻す形になる。SRAMと外部のデータ交換はDMA Read/Writeなどの命令で行なう

 SIMDエンジンの内部構造が下の画像だ。SIMDといっても乗算そのものはMACユニットで済ませた後になるので、加算とアクティベーションが主な作業であり、それもあって対応する命令は多いものの、実装そのものは比較的簡単なようだ。

INT 8/16/32とFP32だけ、というのは2019年と言う時期を考えればわからなくもない。今だとFP16/BF16/FP8やInt 1/2/4もサポートに入りそうだ

 さてこのFSD、HotChipsでの発表によれば従来のHW 2.5と比較して21倍の性能向上を実現しているとする、消費電力の絶対値は25%増えているものの、性能/消費電力比は大幅に向上しているわけだ。

縦軸の数字の意味は処理フレームレートだそうで、HW 2.5では110fpsでの処理が可能なタスクが、FSDを使うと2300fpsで実行できるという。具体的にどんなタスクか? というのは不明だ

消費電力の絶対値は25%増えている。FSDをフルに使うと72Wと1.25倍に増えるが、このうちNNAは15Wしか使っていないとする

 またコストは2割削減できたとしている。ちなみにNVIDIAのDrive Xavierと比較した場合、6.9倍の性能になるとのこと。

コストを2割削減。どのあたりがこのコストダウンに貢献したのか? はよくわからない

NVIDIAのDrive Xavierとの比較。ただこの144TOPSという数字はLockstep動作を無視した場合の話で、実際はこの半分という気もするし、先のAIMotiveの分析が正しければ実効性能差はさらに縮まりそうではある

 TeslaはいつまでこのHW 3.0、つまり現バージョンのFSDを使い続けるつもりなのかはよくわらない。あるいはそろそろ内部的にはHW 3.5が登場しつつあるのかもしれない。なんにせよ、レベル2の自動運転を実行し、レベル3にトライするためにはこの程度の演算処理性能が必要、という1つの目安になることは間違いない。

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