脱サラ応援「清水の舞台から飛び降りて」
田地 そうしてベンチャーに出資してきたんですが、2022年5月からは社内起業家支援制度を立ち上げて、社外にスピンアウトしてもらおうということもしています。
── 「清水の舞台から飛び降りろ」!いいですねえ。
村井 結局、自分たちから生み出さないとホントの意味で変化を起こせない。アクションを起こさないといけないと。脱炭素とかメガトレンドでの新規事業化は進んでいるにせよ、未来はひとつだけではないので。けれども当社にはマーケティング部という踊り場がなく、会社のなかで新規事業を育てようとすると「清水建設に買ってもらおう」という発想になってしまうということで、いっそ社外に飛び出してもらおうということですね。
── と言っても、それはただクビになるだけということですか?
村井 起業メソッドを体得してもらってから出そうということで、オープンイノベーションに長けたコンサルティング会社の経験豊富なメンターと共に約1年間育てます。どうやって顧客や課題を見つけるのか、解決仮説の実証をどう実行するのか、ベンチャーキャピタルからの資金調達手法とか。ただし、資金提供の約束はしません。そうするといつまでも親からお小遣いをもらっている子みたいになってしまうので。
── それじゃ当たっても清水建設に良いことがないじゃないですか。
村井 そこで人的なつながりを保つのが事務局の役割です。我々建設業が主軸でやっている会社なので、(ベンチャーの)ユニークな事業があるがゆえに建設業がついてくるという、エビでタイを釣るようなことができるんじゃないか。たとえば「そのリサイクル技術がある企業と縁が深いなら、工場の建て替えもよろしく!」みたいな話ができるんじゃないかと。そこが大企業からスピンアウトさせたベンチャーの双方に意義があり、各々の成長を最大化するちょうどよい距離感ではないかと思っています。
── 学生へのアピールにもなるし?
田地 そうですね、こういう取り組みをしていると学生に清水建設は新しいことをやっていると思ってもらえるところもあるかと思います。起業家に当社出身者が増えてきたら、サークルのようなものが作られて、仲間が出てきたらいいなと。
── PayPalマフィアみたいな。
田地 万が一成功したら良いし、失敗しても戻ってこられるチャンスがあります。
── 清水の舞台から飛び降りたものの、3年間結局何もできず、鬱になってしまいましたよと言っても?
田地 それでも戻れるようにはするつもりです。でも1回はちゃんと外に出てねと。
村井 成功すれば未来への布石になるし、失敗しても社内のイノベーターになってくれればいいんじゃないかなと。
── そうなると失敗して戻ってきてくれたほうがいいかもしれないですね。
村井 まあ、何もしなかったらただ転職して終わりなので。
田地 実は、2000年にも社員向けの起業家公募制度を実施したことがあり、そこから生まれたプロパティデータバンクという不動産のデータ管理をする会社が上場しているんです。ただ、当時は「会社の言うことを聞け」「やめても知らんよ」という仕組みだったので、そこを村井が言ったように変更しました。
── 現在何人ほどの応募があるんですか?
村井 50人弱ですね。そこから絞って、10件弱のメンタリングを走らせて、数チームが残っています。この2〜3チームから1つ、2つほどは来夏に事業化するかなと。
── おおすごい。具体的にはどんな応募があったんですか?
村井 まだ公表はしておりませんが、サーキュラーシティにつながるものとか、建設現場のDXを進める技術をベースとしたサービスなどが出てきています。テーマはなんでもいいとは言っているものの、自ずと会社のアセットを使うものが残ってきますね。
── 潮見の旧渋沢邸に「イノベーションセンター」を設置する計画があるそうですがそれとも関係があるんでしょうか。
田地 そうですね。コーポレートベンチャーキャピタルの活動を潮見に移した上で、場やエコシステムを形成して、そこにベンチャービジネス部が入れればと思っています。
── アメリカ流のベンチャーを育てる仕組みが上陸しているものの、まだまだこれからという意見がありますね。御社がベンチャーを育てること自体を次期ビジネスにするくらいの勢いがあってもいいんじゃないですか。
村井 まだまだパワーアップが必要ですね。やっぱりアメリカに行ってみて感じたのはベンチャー育成環境の充実がまったく違うことでした。そうしたことを踏まえて、この2月からCrewwをパートナーとして日本に本格展開を開始したグーグルのベンチャー育成プログラムに、当社も協賛しています。国内外の企業とのベンチャー育成の実践を通じて、私たちもベンチャーの創出と育成を加速させていきたいと思います。あとは「SHIMZ NEXT」ということでアクセラレーションプログラムを建築企画室が中心となって立ち上げていますので、そこから当社とベンチャーとの連携も進んでいきますし、そこから事業連携ということならCVCに資金提供させていただく。そういう流れを、うまくいけば、潮見で展開できればと思っています。
── いいですね。むしろ、潮見を次の清水建設の中心地にすればいいんじゃないですか。グーグルもいいけど「オレたちがやる」みたいな。さっきIT業界で稼げない人は建設業界へどうぞって話がありましたけど、「建設業界で稼ぎたい人は潮見へどうぞ」ってことでよろしいんじゃないでしょうか。
(提供:清水建設株式会社)
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