ベンチャー投資は産業界の種地を買うようなもの
── そこで目利き力が養われたから、次はいよいよ投資しようと。
田地 2020年4月にコーポレートVCということで100億円の投資枠を取締役会に諮って実現しました。当社の中でエポックメイキングだったのは、投資委員会ができたことです。それまでベンチャー投資は金額の多寡によらず、取締役会に諮って審議して出資という流れがあったものが、投資委員会を経てフロンティア開発室担当副社長の決裁のみで出金できるようになりました。これは非常に大きな変化でした。
── 投資委員会というのは?
田地 R&D部門、コーポレート部門のトップ、外部の有識者などの9人程度が集まるものです。金額に応じて誰に来てもらうかを決めています。競合もベンチャー投資を行なっていますが、ゼネコン大手5社でこうした枠を持っているのは当社だけですね。
── そんなに違うものですか?
村井 数ヵ月単位で違いますね。大きな決めごとになるので決裁ステップが全然違っていて。その前は年2回程度のペースでしたが、そこからは3ヵ月に1回くらいのぺースで出資を決められるようになりました。
── 四半期ごとのペースになったと。決裁を早めるのはそんなに難しいものですか。
村井 ゼネコンの審議決定は基本的に「失敗しない」ことが大事なんです。1案件で取りっぱぐれるだけですさまじい利益が吹っ飛んでしまいますから。ただVCは一所懸命に精査したところで仕方がないところがありますよね。その意味、リスクを見るよりチャンスを見ないといけない。30〜40社に投資して上場するのが数社という世界なので。
── 当たればでかいけど、基本的には失敗するのが前提ですからね。
村井 ただ、投資のリターンを求めているわけではなく、建設現場の生産性につながるような技術を持ってくるなどの実を取ろうと。そこを狙ってスタートしています。
── 老舗のゼネコンとしては大英断だった。
田地 当社は得意先の要望通りに精緻にモノを作って適正な利益を得るのが生業でした。ただ、そろそろ建設一本足では厳しくなってきた。二本足、三本足をやっていくには新しい事業にチャレンジしないといけない。未来を描けるような会社になるにはお客様の先を行く必要がある。そのために多くの当社経営幹部にシリコンバレーを訪問してもらい、未来に実装されるかもしれない先端技術やサービスを体感してもらっています。
── トヨタなら自動織機から無停止杼換式織機(G型自動織機)に移り、そこから自動車になりましたよね。清水建設にはそういう一大チェンジが起きていない。それがこの後必要になるだろうということですね。
村井 その意味で、コーポレートVCの立ち上げは画期的だったんです。こうしたモデルの中で200年もやってきた会社に宝くじ(ベンチャー)を100億円分買ってくださいと言っても難しいと思うんですね。ただ出資してIPOを狙うということではないんです。ある業界を牛耳ろうということではなく、新しい業界が生まれてくるところに入り込めるというのが大きい。いわば産業界の種地を買っているようなものなんですよ※。
※種地:現状は資産価値が低くても、将来値上がりする可能性がある土地のこと。
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