日本のインターネットを高める「Variable X」を求めて
鶴社長が語る新生JPIX 社名に込められた想いと飛躍までの道
JPIX(日本インターネットエクスチェンジ)とJPNE(日本ネットワークイネイブラー)が合併し、1月にいよいよ新生JPIXがスタートした。元JPNEの社長で、新社長に就任した鶴昭博氏に社名変更の経緯やJPIXという新社名にこめた想い、そして昨年に比べより具体化した事業戦略について聞いた(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)。
JPのIXから、JPIのXへ 新社名JPIXに込められた想い
大谷:まずはJPIXへの社名変更までの経緯を教えてください。
鶴:普通に考えたら、存続会社であるJPNE(日本ネットワークイネイブラー)の商号をそのまま継続するんですよ。ただ、ビジネスモデル面で見ると、JPNEはローミングサービスをISPに提供する立場なので、お客さま向けのブランドは表になかなか見えてない状態でした。一方、JPIXって国内のインターネット業界においては、草分け的な存在で認知度も高い。JPNEとJPIXどっちがいいという話になり、結果的には国内外に広く知れ渡っているJPIXになりました。ブランドや見た目としてのJPIXを継承したいというのが1つの判断です。
実はJPIXはブランドとして残し、社名はJPNEのままでいく案で落ち着きかけていましたが、改めてお客様目線でどうするべきか、ゼロから再検討することにしました。議論の中では、JPNEでも、JPIXでもない、まったく別の社名にするという案も出ました。
大谷:当然、その方向に行きますよね。ただ、まったく変えてしまうと、認知度をイチから作り直しですよね。
鶴:はい。新しい社名を作る意義が見いだせなかったので、結局は前述したJPIXか、JPNEかという二者択一になりました。最終的にお客さまからの見え方を意識した結果、JPIXになったんです。
JPIXはあくまで見え方なのですが、意味づけもきちんとあります。私はもともと日本テレコム出身でしたが、Japanを冠する通信事業者ってなかなかなかったので、「日本のインターネット」を意味する「JPI」にしようと。ここまではわりとスムーズでした。
JPIXのXは変数としてのX
大谷:なるほど。JPのIXではなく、JPIのXなんですね。
鶴:はい。だから、XはIX(インターネットエクスチェンジ)のXだけじゃなくてもいいなと。Xはクロッシング(Xrossing)にしたのですが、Xにはこれまでの物理的なネットワークのクロスポイント事業に加えて、ビジネスの変革や掛け合わせという意味も込めました。トラフィックの交換だけではなく、JPNEがやってきたローミング事業による事業者同士による交流が新しいビジネス価値を生むという意味です。
もう1つは先日、社内のキックオフイベントでも強調したのですが、Variable X、変数としてのXです。
大谷:未知数ということですかね。
鶴:はい。前回のインタビューで私はアクセス側の出身という話をしましたが、JPIXって本当にインターネットのコア部分で、ピアリングポイントを提供しています。でも、インターネットはこれまでの進化によりさまざまなビジネスの用途で使われています。たとえば、放送業界から見ればインターネットは1つのメディアだし、コンテンツそのものにも見えます。村井先生は1つの文明とおっしゃっていますし、インターネットそのものがXだと思うんです。
ここで重要なのは、社員一人ひとりにとってもインターネットの見え方がそれぞれ違うということ。社員それぞれがこのJPIXという会社で、なにを実現したいのかを思い描いて欲しいという話をしました。それぞれ違ったものを掛け合わせることで、また違う価値が生まれると考えています。
大谷:なるほど。JPNEとJPIXを推す人がそれぞれいて、いろんな議論の末、こうなったんですね。
鶴:転機になったのは、やはりJPIXのユーザー会ですかね。250名くらい参加してくれたのですが、そこで今まで知らなかったJPIXユーザーの熱気や期待を見たときに、やはり名前は消さない方がいいという話になりました。
以前のJPIXって、小文字でしたが、今回は大文字にしました。だから、今までのJPIXと似て非なる会社とも言えます。「伝統を重んじつつ、革新を図る」みたいな意図も込めたつもりです。周りにはあまり伝わってないのですが(笑)。
大谷:この記事読んだ人に伝わるといいですね。
コンテンツとネットワーク、お客さまをワンストップでつなぐ
大谷:続いて、新生JPIXのビジネスについて教えてください。普通に考えれば、既存のIXとVNEの事業をワンストップで提供するという話になるのですが、前回取材したときは市場が踊り場になっているという課題を伺いました。
鶴:はい。これってお客さまに説明するときに使っていて、わりとわかりやすいと言われている図版です。
基本、われわれのお客さまってISPやCSPの皆様です。今までのJPIXはISPのネットワーク同士のクロスポイントや、最近ではGAFAをはじめとするコンテンツ、クラウドサービス事業者との接続を提供してきました。それに加えて、フレッツ回線をアグリゲーション(集約)して、アクセスを提供することになります。
コンテンツとネットワークとお客さまのコネクティビティをいかに向上するかを考えたとき、ISPにはIXとアクセスが必要になります。これを別々の会社として提供していたのですが、これからはワンストップで提供できるようになります。これが基本的な考え方です。
大谷:ユーザーがISP・CSPという点は基本変わらないということですね。
鶴:たとえば、ケーブルテレビや電力系の通信会社であれば、自前のネットワークを持たないところでもビジネスを拡げたいと思われるかもしれません。こういうところに対して、われわれがフレッツアクセスをVNEとして提供できます。また、IXサービスとVNEサービスを組み合わせれば、今後のトラヒック増加に対するソリューションの選択肢も増えます。
MEC(Multiaccess Edge Computing)やキャッシュなどもありますが、モバイルキャリアと組むことで、大手のハイパースケーラーを誘致しやすくなるといったメリットもあります。こうしたエコシステムを構築することで、好循環を作っていきます。日本を代表するインターネットの会社として、より良いネットワークの構築に貢献したいという想いです。さらに今後はモバイルブロードバンドのための新たな付加価値も創造していきます。
今後は産業別にいろいろなプラットフォーマーが出てくると思います。こうしたプラットフォーマーにネットワークを提供する事業者になりたいです。