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新鮮食材ミールキットから自販機リサイクルの調剤薬品DX 社会問題解決スタートアップ8社

「スタートアップビジネスコンテストいしかわ2022」レポート

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工場の課題を把握し、人材流出を防ぐ「工場の健康診断」サービスを提供する
株式会社LFOR

 工場などの製造現場における人手不足が深刻な経営課題となって久しい。さらに工場内でのコミュニケーションの希薄さや作業の単純さなどに起因するやりがいのなさが離職率の上昇につながっている。株式会社LFORはこの課題を解決するために工場の健康診断を行い、課題を発見するとともにその処方箋を提案するサービスの開発を行っている。

株式会社LFOR 取締役/金沢大学大学院 中村 雛乃氏

 工場の課題を把握する「工場の健康診断」では、まず学術研究に基づいて従業員の仕事満足度に影響するとされている各種指標に関するアンケートを実施し、今工場で取り組むべき課題を抽出する。さらに従業員同士のコミュニケーションを可視化するツールTAPPYと、作業ペースの可視化ツールFIBACKを利用して現場の状況を指標化する。

 LFORが提供するこれら2つのツールは課題の把握だけでなく、その改善にも役立てることができる。TAPPYには工場で働く人同士でいいねを送り合う機能があり、これにより希薄化しがちなコミュニケーションを支援する。FIBACKは作業の進捗をリアルタイムに可視化することによって達成感を自ら見出す工夫がなされている。

 2022年に開発をスタート、2023年中にβ版をローンチし、2024年の正式版ローンチを目指している。まず工場の課題を把握する健康診断機能を開発するとともに実証実験を行うパートナーを募集し、実験を通じて評価指標を増やしていく計画としている。

自分に合った働き方ができる環境を作る障害者専門の起業支援サービス
株式会社Nextwel

 株式会社Nextwelは障害者に関連する情報を発信するWebメディアの運営と、それを活用して障害者の就業支援を行っている。このコンテストでは、障害者自身に合った働き方ができる環境の構築を目指して、日野氏が移住した石川県加賀市を起点とした障害者専門の起業支援サービスを提案している。

株式会社Nextwel 代表取締役 日野 信輔氏

 この起業支援サービスには3つの特徴がある。1つは現在Nextwelが提供しているウェルサーチに就労移行のための教育プログラムを加えることで、より専門性の高い業務を可能にすること。2つ目は本サービスを受けている障害者が支援を受けたり、面談や会議に利用することのできるメタバース施設を用意することで、これにより在宅での就業を可能にする。

 3つ目は海、山、川などメンタルストレスの解消に適した環境の整っている加賀市をワーケーションの拠点として活用し、移住や加賀市での就労を支援するというものだ。加賀市は近年人口の減少が著しく、消滅可能性都市に指定されている。そのため企業の人材不足が深刻になってきており、日野氏がこの課題を障害福祉の観点から解決しようと思い立ったことがこのサービス開発のきっかけとなった。

 既存の障害者に対する就労移行支援事業では国や市町村などからの給付金に収益の9割を依存していることが少なくない。本サービスでは、職業訓練や起業支援に対して給付金を活用した上で、教育プログラムによる専門性の向上等によって高単価の報酬を得られるIT業務を担ったり、即戦力の人材紹介を行っていくことで高い収益性を確保する。現在の障害者の平均工賃は月額16000円にも満たないが、Nextwelの支援サービスでは3年以内に工賃を月額10万円に引き上げることを目指している。

3つの事業を循環させてコミュニティの活性化と環境意識の向上に取り組む
ばるじぇの

 地域活性化賞は、ファイナリストに漏れた応募の中から県内の創業をさらに盛り上げるため、地域に根差して地域課題の解決につながるビジネスを特別賞として認定するものとなっている。毎年必ず受賞者が出る賞ではないが、今年は食と環境をテーマにコミュニティを活性化する「暮らしのうまみ醸造所」ばるじぇのが受賞した。

ばるじぇの 松田 裕子氏(リモート参加)

 ばるじぇのはコミュニティコンポスト、量り売り店舗、カフェダイニングの3つの事業から構成される。コミュニティコンポスト事業は、会員制のコミュニティで生ごみを集めてコンポストを作り、それを使った共同農園を運営し、野菜の収穫や収穫祭などのイベントを開催するというもの。環境負荷となる生ごみを減らすとともに、モチベーションの維持が難しい環境問題への取り組みを、野菜や果物の収穫というリターンを提供することで維持していこうとしている。

 量り売り事業はスパイスや野菜などをグラム単位で販売する小売店を経営するもので、ゴミや食品ロスを減らしながら、多様な食材の利用促進や小規模生産者の支援を行う。共同農場で収穫された作物もここでの販売を行うことで、コミュニティ参加者だけでは消費しきれずに廃棄するといったことがなくなる。

 カフェダイニングは量り売り店舗から食材を購入するとともに、ここで出た食べ残しやごみはコンポストにして共同農場で活用するという循環を実現する。また、場所は浅野川沿いの築100年の金澤町屋を改装し、健康的でおいしい食事を提供するだけでなく、子供連れでも気兼ねなく利用できるスペースとして地域コミュニティでの活用を想定している。

  ばるじぇのはこれら3つの事業を相互作用させつつ、地域コミュニティの活性化と食と環境意識の向上を目指す事業となっている。職場と家庭だけでない地域コミュニティを生み出すことにより、環境問題に取り組むモチベーションを仲間同士で高め合う。そしてそれを生きがいや自己肯定感に繋げていく。単発では拡がらないかもしれない活動をリンクさせ、地域を活性化するビジネスへと昇華することをばるじぇのは目指している。

受賞結果

 審査の結果、各賞の受賞者は以下の通りに決定した。

■最優秀起業家賞

地産地消から“地産外商”へ
~地元の新鮮な食材とAIを用いたPersonalized Meal Kit~

尾島 康仁氏
株式会社コノミー

■優秀起業家賞(2名)

生活習慣改善で健康的な精子に!
男性向け妊活サポートサービス『SPERMAN GYM』

小寺 孝明氏
Granate

従業員のストレスをケアする匿名チャットアプリ「+ta(プラスタ)」

高桑 蘭佳氏
株式会社メンヘラテクノロジー

■学生賞

工場の健康診断 ~ものづくり系従業員の働きがいと労働生産性の両立を目指して~

中村 雛乃氏
株式会社LFOR/金沢大学大学院

■女性起業家賞

エステの負を解消し、女性の美を応援する「HADA PASS」
~女性発・石川から全国サービス展開への挑戦~

池田 玲海氏
株式会社ビューティーサロン

■地域活性化賞

食と循環型社会を楽しく考えるハブ
暮らしのうまみ醸造所「ばるじぇの」

松田 裕子氏

授賞式の様子:石川県知事 馳 浩氏(前面左)、株式会社コノミー 尾島 康仁氏(前面右)

 今回のコンテストプレゼンテーションが行われた8つのビジネスプランはいずれも石川県のみならず日本全国で社会的課題となっている問題に正面から取り組むものであり、今後の事業展開が待たれる。特にGranateのSPERMANGYMについては、馳知事からも最優秀に押したいとの発言があったくらいユニークなプランだったと感じた。今後石川県からさらに続々と活気あふれるスタートアップが登場することを期待する。

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