新鮮食材ミールキットから自販機リサイクルの調剤薬品DX 社会問題解決スタートアップ8社
「スタートアップビジネスコンテストいしかわ2022」レポート
石川県は有力な大学や歴史的文化、芸術などに恵まれた土地柄であり、多くの世界的企業を輩出している。さらに県内経済を活性化しようと2007年より県内で革新的なビジネスプランによって起業しようとする事業家等の発掘と支援を目的に「スタートアップビジネスコンテストいしかわ」を毎年開催している。今年も県内外から100件を超える応募があり、その最終選考に残った応募者による最終審査会が2022年11月22日に開催された。
今年のコンテストでは7件のファイナリストによるピッチが行われ、起業家や投資家などによる審査で最優秀起業家賞、優秀起業家賞などの各賞が選ばれた。ここではそれらのプレゼンテーションと、ファイナリストには残れなかったものの書類審査で地域課題の解決につながると認定された応募者1名のプレゼンテーションを紹介する。
ニッチトップ企業を生み出すスタートアップ発掘エコシステム
石川県には株式会社アイ・オー・データ機器やEIZO株式会社など、ニッチトップと呼ばれる分野特化型の一流企業を数多く輩出している。ニッチトップ企業は独自の製品やサービスを持っており、好不況の影響を受けにくい。ベンチャー企業はニッチトップ企業の予備軍となりうる存在で、そのような革新的なベンチャー企業をより多く育成していくことが、産業競争力の強化に直結すると石川県は見ている。
今回で16回目を迎える「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ」はスタート当時に県が産業戦略を策定する中で生まれてきた。創業や起業に対する支援はそれまでも行われていたが、さらに県の特色を踏まえた取組強化として、ニッチトップへと繋がることが期待できるようなユニークなビジネスプランを持っているベンチャー企業の発掘を目的としている。
コンテストで最優秀を獲得したベンチャー企業に対しては、補助金として500万円が授与されるという、地方のビジネスコンテストとしてはかなり高額な賞金が用意されている。さらに優秀賞にも100万円の補助金がされているのに加えて、県外在住者が最優秀及び優秀賞を獲得した場合は、県内に拠点を設ける場合の補助金として100万円が用意されている。
本イベントの主催者である石川県産業創出支援機構(Ishikawa Sunrise Industries Creation Organization : ISICO)には、今回のコンテストに向けて数百件の応募があった。県外からも20件の応募があり、これまでISICOに相談に来ることのできなかった地域の企業からも応募の件数が増えてきている。ISICOには創業支援サポートデスクがあり、コンテストでファイナリストに残らなくても相談に応じてくれる。あらゆる領域の専門家の紹介や、事業計画の作成支援なども行っており、年間を通じてサービスを提供している。
そういった支援によって大きく成長を遂げた企業の例としては、独自のデザインにこだわった器を作り続けているスタートアップsecca inc.(株式会社雪花)がある。同社は一般企業でプロダクトデザインに携わっていた2人のデザイナが設立した企業で、2015年にコンテストで優秀起業家賞を受賞した。
3D CADや3Dプリンターなど最新のデジタル技術を駆使する一方で漆や金銀箔など金沢の伝統的な技法も生かした食器などを制作している。既に金沢や東京の有名料亭・レストランで採用され、業績も順調に伸びてきた。これはISICOからフォローアップにより中小企業診断士に事業計画策定の支援を受けたり、弁理士から秘密保持契約書の作成や意匠権の管理などに指導を受けたことが活きている。
また、2020年のコンテストで最優秀起業家賞を受賞した株式会社ドローンショーに対しては販路開拓でISICOの支援が活きてきている。同社はLEDを搭載したドローンを飛ばしてイルミネーションや花火のようなアートを夜空に描くショーの運営を行っている。2020年の設立はまさにコロナ禍の真っただ中であり、ドローンショーのような大勢が集まるイベントを開催することが難しかった。2022年からは全国的に受注も増えてきており、本格的な事業拡大が視野に入ってきた。
ISICOも3Dプリンターなどの機材用の助成金などで細やかな支援を行っているが、成長に向けて資金調達は必須となっており、VCなどへのコンタクトも取っている。成長戦略の策定や具体的な事業計画への落とし込みなど、具体的な作業になるとISICOだけでは十分な支援は難しいが、そういった場合は専門家への繋ぎなどで縁の下の力持ちとしての働きをしている。
スタートアップビジネスコンテストいしかわは公的機関が主催する施策にありがちな予算の切れ目による中断を受けることなく16年の歴史を紡ぐに至った。その間にも多くのスタートアップがコンテストからチャンスをつかんできた。しかしこのコンテストの本質は500万円の補助金にあるのではなく、ISICOの伴走を受けつつ事業を成功へと導くことが目的となる。その点で言うならISICOはコンテストに応募しない企業に対しても支援を惜しむことはない。