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業界人の《ことば》から 第520回

ジャパネットが関わる、スポーツとスマートが両立したスタジアムシティとは?

2023年01月10日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

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今回のひとこと

「通販事業は、世の中に埋もれているいいモノを見つけ、磨き上げ、それを伝えていくことである。ジャパネットができる地域創生も、見つける、磨く、伝えることである」

(ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長)

 ジャパネットグループは、2024年9月の開業を目指して「長崎スタジアムシティプロジェクト」を推進している。同プロジェクトにおいて、ICT領域でソフトバンクとの連携が発表された。

 長崎スタジアムシティにおいて、ソフトバンクが持つ通信ネットワークの強みを活かするとともに、スマートシティをはじめとした各分野における技術およびノウハウなどを活用。人やモノ、情報などを「connect」し、これまでにない感動的な顧客体験や、データを活用した効率的な施設運営、施設内や周辺地域での消費行動の活性化など、新たな価値を創出する次世代スタジアムシティの構築に乗り出し、将来の日本をリードする新たな地域創生モデルの実現を目指すという。

 ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長は、「日本の企業として、日本の社会課題に対して、真剣に向き合うことが大切だと考えてきた。2017年に、プロサッカークラブであるV・ファーレン長崎をグループ会社化したこともあり、スポーツを通じて地域創生に取り組むことを決めた。ジャパネットの通信販売事業は、世の中に埋もれているいいモノを見つけ、磨き上げ、それを伝えていくという3つのステップを強みとしてきた。地域創生においても、見つける、磨く、伝えることが、ジャパネットができることであり、長崎スタジアムシティプロジェクトもその姿勢で取り組んでいく」とする。

 長崎スタジアムシティプロジェクトは、ジャパネットグループが展開している民間主導の開発プロジェクトで、約700haの敷地に、長崎を拠点するV・ファーレン長崎の新たなホームスタジアムを中心に、アリーナやオフィス、ショッピングモール、ホテルなどを含めた施設で構成する。同グループの投資額は約900億円にのぼるという。

 中核となるサッカースタジアムは、2万人が収容でき、ピッチまでの距離は最短約5メートル。Jリーグの規定ぎりぎりの距離だ。選手を間近に感じることができる、コンパクトで臨場感あふれるスタジアムを実現するという。

 なお、今回の提携にあわせて、ソフトバンクが2024年から2028年までのスタジアムのネーミングライツを取得し、スタジアムの名称を「PEACE STADIUM Connected by SoftBank(ピース スタジアム コネクテッド バイ ソフトバンク)」にすることも発表されている。

 長崎スタジアムシティの中心となるスタジアムから、平和について発信していきたいという想いと、通信を土台に最新テクノロジーを駆使して、人、モノ、情報などのあらゆるものをつなぐことで、新たな価値を創出する次世代スタジアムシティを構築したいという想いのもと、この名称をつけたという。

 ソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOは、「名称でこだわった点は、Connectedである」とし、「最先端スタジアムを実現するための基盤づくりに一緒に取り組んでいく。そのためには、高速ネットワーク環境が必要であり、様々な施設を連携することができるスマートシティプラットフォームも必要になる。ソフトバンクの本社がある東京ポートシティ竹芝で行っている実績を活かし、エリア内で生成される様々なデータと、Yahoo!やLINEMOなどのデータとも連携し、これをAIで分析。スタジアムが自律的に運営できる環境づくりを支援する。日本一のスタジアムを作り、それを中心とした街づくりによる地方創生の成功例を横展開していきたい」と抱負を述べた。

3つの具体的な取り組みとは?

 今回の両社の提携における具体的な取り組みは大きく3点だ。

 ひとつめは、「スマートシティの土台となる通信ネットワークの構築」である。

 スタジアムシティ内で、ソフトバンクの5GネットワークやWAN、LANおよびWi-Fi環境を整備。これにより、スタジアムシティ内の人やモノ、情報などを「connect」するための土台となる通信ネットワークを構築するという。

建築が着々と進んでいる

 通信ネットワークインフラが整備されることで、ジャパネットが計画している長崎スタジアムシティの専用スマホアプリを活用した参加型の応援体験や、スタジアムシティ内のグルメおよびフード類のオーダーおよびピックアップ、駐車場やコインロッカーの空き状況の案内などがスムーズに行えるようになる。

 現在も、プロバスケットボールクラブの長崎ヴェルカの試合では、ファンがアプリに書き込んだコメントが、試合会場の大型ディスプレイにすぐに表示されたり、試合終了直後に会場にいるファンが投票して、その試合のMVPを選出したりといったことが行われている。こうしたサービスの提供にも、通信インフラの盤石な整備は重要だ。

 将来的には、スタジアムを中心とした各施設がデータを連携させ、AIを活用してエリア全体の人流を最適化したり、相互送客で消費行動の活性化につなげたりする「Autonomous Stadium」の実現を目指すという。

 さらに、スタジアムの年間シート購入者などへの特典として、専用SSIDを用意し、快適なWi-Fi環境を利用できるサービスも提供するという。スタジアムなどの混在した環境でも、安定したWi-Fi環境を手に入れられる特典はうれしいと思う人も多いだろう。

来訪者が混雑を避けて快適に過ごせる

 2つめは、「来訪者が混雑を避けて快適に過ごせる滞在型のスタジアムシティの実現」である。

 スタジアムシティ内に設置したセンサーなどから収集した人流データを、ソフトバンクのスマートシティプラットフォームで分析。混雑状況などの情報を、サイネージや専用アプリに表示することで、来訪者が混雑を避け、快適に過ごせる滞在型スタジアムシティの実現を目指す。

 混雑状況に応じて、販促情報や来訪者にメリットがある情報提供を通じて、自然な形で混雑緩和が実現できる仕組みも検討するという。たとえば、渋滞を緩和させるために、試合終了直後に駐車場を出ると3000円だが、3時間後であれば1000円にするというダイナミックプライシングのアイデアもあるという。長時間滞在すると駐車料金が安くなるというのは異例の発想だが、この間、スタジアムシティ内に滞在してもらうことで別の支出を想定できるというわけだ。また、車での来場を減らすために、独自のおいしいビールを開発中という発想もユニークだ。プロジェクトのなかでは、こうしたジャパネットらしい斬新なビジネスアイデアが満載だ。

 そして、3点目が、「データ活用で施設運営を効率化」することである。

 人流データをもとに、スタジアムシティ内の誘導、警備、清掃スタッフの最適な配置を検討したり、トイレやごみ箱にIoTセンサーを設置することで、トイレごとの利用回数やごみの量を可視化して最適な清掃頻度を検討したりすることが可能になる。効率的な施設運営を行うためのデータ活用により、人手不足の課題にも対応。施設運営の効率化を実現することで、新たに創出した時間を使って、来訪者に感動を与えられるような顧客体験を生み出すための様々な施策へと展開を広げることができるという。

 なお、V・ファーレン長崎では、シーズンチケットの購入者を対象に、応援用のユニフォームのなかにチップを組み込み、チケットレスでフリーな入場を可能にするサービスをすでに実現しているという。これもICTやデータを活用した取り組みのひとつだ。

創業の地長崎から、スポーツと連動した地域創生を

 ジャパネットグループは、1986年に長崎で創業。2015年に創業者の髙田明氏から、バトンを受けた髙田旭人氏が社長に就任してから、2017年には、V・ファーレン長崎をグループ会社化。2020年には長崎ヴェルカを設立。スポーツと連動した地域創生にも取り組んでいる。

 グループ企業は、持株会社のジャパネットホールディングスを含めて13社で構成。そのうち、通販事業が6社、BS放送などのコミュニケーション分野が2社、そして、スポーツ・地域創生事業が4社あり、ジャパネット自らも、スポーツを通じて平和な世界へ寄与することをミッションとして掲げている。

 「長崎には、歴史、文化、おいしい食事があり、最後の被爆地として、平和のメッセージを出し続ける責任もある。新たなものを作り上げるだけでなく、長崎の強みをしっかりと磨き上げ、日本や世界に発信したい。最終ゴールは、長崎の地域活性化を成功させることではなく、日本全国の地元を愛する企業が、やればできると感じてもらい、日本全体が盛り上がることである。そのため、やっている内容を、財務状況まで含めてすべてオープンにしていく。スポーツで地域が盛り上がっても、赤字を垂れ流していたら成功ではない。難易度が高い挑戦だが、果敢に取り組んでいく」と意気込みをみせる。

 髙田社長によると、ここ数年に渡り、長崎市は、人口の転出超過が日本で最も多い地域になっているという。

 だが、長崎スタジアムシティが完成すると、年間850万人が利用すると想定。これに関連して約963億円の経済効果が生まれ、周辺を含めて約1万3000人の新たな雇用を創出できると試算されている。

 「民間企業だからこそできる思い切った施策を行い、感動とビジネスの両立を目指す」と髙田社長。長崎スタジアムシティプロジェクトの挑戦は、いまから多くの注目が集まっている。

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