インフルエンサーがSNSで話題を広げやすい
ネットサービスに対して、専用ハードはやや弱いか
ライバルも強力だ。keepなどのフィットネスアプリのほか、ビリビリ(bilibili)や中国向けTikTokのドウイン(抖音)などの動画サイト、都市の女性に人気の中国のインスタグラムと呼ばれる小紅書(RED)のレッスンコンテンツが、安くかつ他人とシェアできる形で在宅フィットネスをしたい人々に刺さる。
これらは無料の代替手段であり、かつ各サービスがユーザーを奪おうと、個人に合わせたカスタマイズも充実している。インフルエンサーが紹介するものは他人に自慢できたり共有したりするものなので、こうした面ではネットサービスは強い。そうなるとユーザーのスマートミラーへの物欲は低下してしまう。コロナ禍初期にはSwitch+リングフィットアドベンチャーが中国で流行したが、スマートミラーでもそれくらいのコンテンツ力がないと消費者は食いつかなかったわけだ。
スマートミラーはスマートスピーカーよりも短命だった。スマートスピーカーも中国でブームが過ぎたが、これだってスマートフォン+外部スピーカーやスマートテレビで代用できるはずだし、過去のデジタル製品でも多かれ少なから競合があっただろう。それでもスマートミラーはこれまでのデジタル製品のブームの公式にもどうにもあてはまらないほど短命だ。スマートミラー企業への資金調達のニュースも聞かなくなった。
中国全体でハードウェアへの需要が低下しているという説も
それでも新しいジャンルのデジタル機器に期待したい
一方で中国では、スマートミラーの問題にとどまらず、もっと根本的な部分として、デジタル製品の需要が低下しているという論もある。確かに中国でもスマートフォンも買い替えニーズが減り、1機種を使い続ける期間が長くなっていることが報じられている。スマートフォンの新機種やスマート機器を買うのはテクノロジーへの崇拝があり期待があった。
中国でもiPhoneが最初に上陸した頃や、シャオミが驚きの新機種を出していたときには多くの人が興奮した書き込みをしていた。今はAirPodsでさえ今年の上半期に生産数が数千万個減少している状況だ。スマートミラーについてもそもそも製品に心踊らせる期待がそれほどなく、ブームだった時期がこれまでのデジタル製品よりもずっと短くなったというわけだ。
消費者の多くを感動させて買いたくなるような次のデジタルのヒット商品が出てくるのだろうか。自動運転車やスマートカーはその候補になりそうだが、部屋の中で使ったり携帯して使う製品はどうか。それでも、そんな不安を裏切るような商品が来年も出てきてほしいと思う。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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