戦艦大和でジャンプ!観光名所のVR空間でラジオ体操できるアプリが優勝。広島・呉でPLATEAUハッカソンを開催
「PLATEAU Hack Challenge 2022 in 大和ミュージアム(呉)」レポート
旅アプリやユニバーサルガイド、仮想マラソンなど、呉をテーマとした多彩な発表
続いて、Unity賞に選ばれたのは、チームたけだの「旅の感動共有アプリ〜世界のみんなと一人旅~」。
チーム「たけだ」-旅の感動共有アプリ〜世界のみんなと一人旅~
旅先での感動をその場でメッセージに残すことで、その場を訪れた他者と感想を共有するためのアプリだ。一人旅は自由で気ままに楽しめるが、その場そのときの感情を誰かとわかちあえない寂しさがある。言葉をそこに残すことで同じ場所を訪れた誰かと感情を共有できないかと考えたアイデアだそう。
ただ単に感情・情報を共有するだけならSNSもあるし、Googleマップには地図情報と結びつけて店舗や施設の情報(口コミを含む)を共有できる。このアプリケーションが目指すのは、PLATEAUの3D都市モデルデータならではの特性を活かした立体的な情報の提示だ。
スマートフォンの画面越しにARCore Geospatial APIを用いて現実世界に都市データを重ねて表示し、そこで建物にメッセージを貼り付けたり、誰かが残したメッセージを読むことができる仕組み。現在位置の特定にはスマートフォンのGPS情報とカメラで取得した周囲の画像を使っている。
一人旅をターゲットにしているが、活用シーンとしては聖地巡礼マップへの活用や自治体や店舗のPRなどにも使えそうだ。
現時点では、共有や日本語表示に対応していないので、引き続き実装を進めていく予定だ。また、離れた場所のメッセージを見られるようにもしたいとのこと。
質疑では、常名氏から「アイデアの段階では、なぜPLATEAUのデータを使うのかが疑問だったが、離れた場所のメッセージを見ることができるようにしたい、という点で得心した」というコメント。また、内山氏は「ARCoreとPLATEAUの組み合わせはある意味王道でさまざまなサービスが生まれようとしている」としたうえで、「ビジネスモデルとしてのターゲティングをもっと考えるといい」とアドバイスした。松本氏も「観光以外の分野にも着目して欲しい」と述べた。
さらに常名氏からは、「ハッカソンで終わりではなく、リリースするところまでいって欲しい」とサービスのリリースが宿題として与えられた。
続いて、呉市賞を獲得したのは、チームゆにぷらの「UNIVERSAL PLATEAU」だ。
チーム「ゆにぷら」-Universal PLATEAU(ユニプラ)
CityGMLから取得した建物までの距離や階数、おすすめ情報などを音声に変換してガイドすることで、視覚障害者が安心して街歩きを楽しめるというもの。PLATEAUの立体情報とCityGMLが持つ属性情報を使って点字ブロックの先にある情報にアクセスすることで、誰もが都市をもっと楽しめる世界を目指すアプリだ。
例えば、建物に近づくと、あとどれくらいか距離を教えてくれたり、建物の概要(建物の階数など)を音声でアナウンスしてくれる。
システムとしては、3D都市モデルを取り込んだUnity上で構成され、Raycast機能を使って建物を検知する。自分の位置から前方にRaycastを飛ばして、オブジェクトとして建物を検知したら距離や階数を取得する。そしてOpenJTalkを使って、取得したテキスト情報を読み上げる仕組みだ。スマートフォンのアプリとしての実装を予定し、音声入力で操作できる。
受賞理由として、3D都市モデルの活用というとメタバース、VRに目が行きがちだが、視覚障害者向けという新しいPLATEAU活用の可能性を示したという点が評価された。
発表後の質疑では、常名氏は「対象の建物の検知にRaycastを飛ばすだけというシンプルな仕組み。ユーザーが画面操作なしにアクションが起こせるのがいい」と評価した。点字ブロックでは伝えられないリッチな情報、更新性の高さなど、実用性での期待も高い。
内山氏からは「スマートフォンアプリとして実装する際のUnity側との位置合わせについては、Raycastだけでいけるのか、GPS情報、カメラの周辺画像から特定することになるのか、といった技術的なハードルがあるのではないか」との指摘があった。また随時情報の収集、提供システムについての課題もあるが、これらの課題を解消できれば有用なソリューションになりそうだ。
チーム「Team Glasses」-呉仮想マラソン
受賞は叶わなかったが、Team Glassesの「呉仮想マラソン」は、呉市の魅力をもっと知ってほしいというところから発案された作品だ。呉市の聖地巡礼をしたい、あるいは戦艦で遊ぶなど少し非日常な体験をしたい人に、PLATEAUの3D都市モデルを使った仮想マラソンゲームを提供するもの。
今後は、建物にテクスチャーを貼ったり、戦艦の部分への対応、またVR対応をしていきたいとのこと。
質疑では、内山氏は聖地巡礼やマラソンという着目点は大きく評価しつつも、リッチな体験とするにはもうひと手間がいるだろうという指摘。松本氏は「現実ではできないことができるという点で、もっと現実離れしてもよいのではないか」とする一方、「マラソンのシミュレーションにするという方向性もあるのではないか」とコメントした。また常名氏からは「ゲームとしての作り込みという点(マルチプレイヤー対応など)や広告機能を搭載するとよい」とアドバイスした。
メンターとしてオンラインで参加していた西尾悟氏(株式会社MIERUNE)は、総評として「全体としてエンタメ系(特に観光)分野のアイデアが目立っていた。ただ、まだVR空間上での観光という体験は現実世界の体験に勝るものではないだろう。観光客をサポートする、もしくはその体験を拡張するような発想のほうが成り立ちやすいのではないか」と語った。
PLATEAUとマッチするハックの相性
印象的だったのは、メンターで参加されていたKula Takahashi氏(TIS株式会社)の「まず触ってもらって、ここをこうしたほうがいいといったフィードバックを受けて、それをすぐまた直していく、というPLATEAUの開発の進め方が、ハッカソンというカルチャーと見事にマッチしていて良い」というコメントだった。
実際、今年度のPLATEAU Hack Challengeは東京以外にも各地方都市を巡ることで、より広い層のユーザーにリーチしてきた。そこで顕在化してきた課題、例えば、3D都市モデルデータを扱うハードルに対してはPLATEAU SDKが準備されている。最初から全部準備したうえで進めていくのが理想的だが、それでも、とにかく始めて、必要なものは作っていく、直していくことで進めるという姿勢はハック文化と同じ方向を向いている。
一方で、PLATEAUデータのセマンティック性を活かす活用例のさらなる登場も期待したいところだ。メンターの黒川史子氏(アジア航測株式会社)は、ハッカソン終了後のコメントとして「老若男女の幅広い参加者がアイデアやロジック、経験などを相互に補完しながら進めていくプロセスがよい雰囲気だなと感じました。一方で、今回のアイデアはどちらかというと3D都市モデルの位置や形状を利用したものが多かったので、セマンティクスを利用したアイデアがもっと増えてくるとよいなと考えています。そのためには、自治体をはじめとする各コンテンツ保有者に有益な情報を出してもらう必要性を強く感じています」と語った。
来場した呉市の市長・新原芳明氏は、自治体としての観点から「明治開国の折、日本の近代化の中心になった場所の1つが呉であり、海外の軍艦の輸入から始まり、そこから自前で最先端の戦艦大和を作り上げた。現在はドローン、ロボットやAIといった新たな技術を使った第2の開国を迎えているとし、そこで近代化の主役となる参加者のみなさんとともに新たな社会を作っていきたい」と述べている。
呉市では、PLATEAUや都市データに関連して、呉市のさまざまな行政データの公開が進められており、東京のベンチャー企業とも提携し、呉市データプラットフォームを開発中だという。こうした地方都市の取り組みとの新たな技術が出会えることも、ハッカソンイベントを全国開催するメリットのひとつ。PLATEAUプロジェクトでは今後も引き続き、ハッカソンなどのイベントを開催していく予定だ。