骨伝導デバイスが新しいドライバーとして本格的にイヤホンに搭載され、普及が進んでいる。耳を開放したままで音楽を聴きたいという昨今のトレンドに沿うものだ。
こうした状況の中、アップルが興味深い特許を取得した。米国特許番号US11176925B1の「Bone conduction transducers for privacy」で開示されており、開放型のワイヤレスヘッドホンに骨伝導ドライバーを搭載するものだ。その主な目的はプライバシー保護のためである。
特許の中では、ワイヤレスの開放型ヘッドフォンであることが明記されている(fig1)。想定しているのがワイヤレスヘッドホンであることは構成図(fig2)の中で、ネットワークデバイスが搭載されていることからもわかる。
一般的に開放型ヘッドホンは、音質が密閉型よりも良いとされているが、反面で音が周囲に漏れてしまうという問題点がある。アップルの特許はこの問題を通常のドライバーとは別に、骨伝導ドライバーを搭載することで解決するというものだ。電車の中など音楽を周囲に音漏れしたくない場合や電話を取っている時などには骨伝導ドライバーを使用し、そうでない場合には通常のドライバーを使用する。そうすることで、開放型の音質の良さを犠牲にせず、音漏れしたくないシーンでもヘッドホンの使用ができるというわけだ。
現在のアップルのワイヤレス・ヘッドホン製品は「AirPods Max」のみだが、これは密閉型のヘッドホンなので、もともと音は周囲に漏れにくい設計になっている。もしかするとアップルは、開放型ヘッドホンの開発を進めているのかもしれない。
そして興味深いことに、この特許においては構成図(fig2)にカメラが記載されている。一般的にヘッドホンにカメラが搭載される理由はない。ということは、噂されているアップルのMRヘッドセットを想定しているのかもしれない。いずれにせよアップルがこうした将来のデバイスで骨伝導ドライバー搭載の可能性を考えていることは興味深いことだと言えるだろう。

この連載の記事
- 第169回 イヤホンの音が悪くなる理由は音導管にあった? アップルの新特許
- 第168回 シーイヤーの立体音響技術がスゴイ? finalの「ZE8000」も頼ったその技術を独占取材
- 第167回 聴覚補助デバイスに取り組むゼンハイザー、iFi audioはxMEMSと協業、2023年のCESから
- 第166回 ChatGPTだけではない、「Demucs」に代表されるAIオープンライブラリーが音楽も変える
- 第165回 Bluetoothで192kHz/24bitのロスレス伝送に対応するOPPO「MariSilicon Y」とは?
- 第164回 本日発売のfinal「ZE8000」を聴く、新しい音の世界に踏み出した完全ワイヤレスイヤホン
- 第163回 モノが足りない時代だからこそ求められる、シンプルで低コストなフルデジタルアンプ
- 第161回 ストリーミング時代、オーディオの縁の下の力持ち「ITF-NET AUDIO」とは?
- 第160回 本格普及は2025年ごろ? LE Audioの将来像を探る
- 第159回 ワイヤレス時代の新しいハイレゾコーデック「SCL6」「LC3plus」とは?
- この連載の一覧へ