エンジニアの幸福を探るG's ACADEMYの「エンジニア・インサイト白書」
セカイを変え、自分の人生を幸福にするカギはどこにある?
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企業経営者や現役エンジニアは白書から何を読み取ったか
メンター2名とのクロストーク
児玉氏による白書の解説に続いては、BASE株式会社 上級執行役員 SVP of Development 藤川真一氏(以下、えふしん氏)と株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳氏の2名のメンター陣に児玉氏を加えた3名によるクロストークが行われた。そこでは、白書で得られたデータを企業のエンジニアや経営者がどうとらえているのかが明かされた。
まず最初に、G's ACADEMY以外のプログラミングスクールを卒業してエンジニアになった人の幸福度の低さに注目して、エンジニアになろうとする際に心がけるべきことと、それへのスクールの関わり方が取り上げられた。
児玉氏(以下、敬称略):エンジニアっていうと、小学生や中学生くらいからいろいろプログラミングしている人しかなれないんじゃないかみたいな印象もあるようですが、お二人の会社で入社試験を突破するまでの学習とか経験などはどんな感じでしょうか。
えふしん氏(以下、敬称略):今はスクールがあるとはいえ、インターネットの技術は非常に多くの技術で構成されているので、全ての技術を学校だけで体系的に学ぶのは結構難しい。私もデジハリ大学院でインターネット技術の授業を持っていますが、やれることは基本的にオーバービューでこういう技術があるという紹介になる。自分が実現したいものがあったらそこから先は自分で勉強してねということになる。
自分が作りたいというものを持っている人であれば、グーグルで検索キーワードを入れれば何か技術が出てくるので、あとは自分で学ぶというサイクルができれば自分で動ける。スクールはその適切な検索キーワードが思い浮かばないときに、そのヒントとか考え方を教えるのが良いのではと思っている。
橋本氏(以下、敬称略):実は私も他社のプログラミングスクールに行ったことがあるが、それで幸せにはなれなかった。私はもっと仲間ができると思っていたが、学校として通っている人が多くて、そんなに仲間ができなかった。私は仕事に活かしたいがために行っていたので、モチベーションの差があった。
一方でG's ACADEMYの卒業生や在籍者に対するアンケートでは、非常に高い幸福感を覚えている人が多いという結果が出た。それはどのようなところに要因があるのだろうか。
児玉:G's ACADEMYの卒業生・在校生ではかなり違った数字が出ていますが、どのあたりが幸福度の高さにつながっているのか、メンターとしてご紹介ください。
えふしん:起業したい人か転職したい人かによって指導の方向性が変わる。起業したい人はずっとコードを書き続けるわけにはいかない。だから起業したい人は仲間を集めなくてはいけない。でも自分の想いをエンジニアとかエンジニア候補の人たちにぶつけるためのツールとしてのプロトタイプは絶対に作らなくてはいけない。それが仲間を作っていくきっかけになる。あと自分の想いの実証になる。
転職希望の人は履歴書に何が書けるかという話だから、とにかくアウトプットを出してくれと言いますが、心の中ではG's ACADEMYの中で起業する人たちと一緒になって会社を作るのがちょうどいいフェーズなんじゃないかと思っている。お互いタイミングも同じくらいで、ジーズの中で会社ができちゃうというのが理想だと思っている。
いずれにしろプロダクトは絶対に1人ではできないので、途中から絶対に仲間を増やしていかなくてはいけない。その仲間にどうやって入り込むかというリテラシーみたいなのをどう身に着けていくのかが大事です。
橋本:えふしんさんの言うとおり仲間が必要なので、仲間を集める活動もして欲しいと思いますし、一方でお客さんを集めるということもやらないといけない。ユーザーにお金を支払ってもらえるサービスなのかというところの検証などに重みをもってメンタリングしている。
G's ACADEMYに行っているエンジニアの幸福度が85%で高いというのはWhy meを一生懸命考えているからかと思っている。こういう時の幸福度は、ジョブエンゲージメントというか仕事への愛着だと思う。そこが一致しているということがすごく大事な要素になっていて、それがWhy meだったりする。
そうするとあいつは年収600万でおれは550万か、不幸だみたいな他社との比較をしなくなっていく。G's ACADEMYの場合は自分にフォーカスしてとことん頑張る。自分以外の人は将来のお客さんだったりするので、自分と似たような人とは競争させない。その結果、幸福度が高くて前向きになれるのではないかと思う。
児玉:「エンジニアとしてやりがいや楽しさを感じるのはどんな時?」に対する回答についてはどうでしょうか。
えふしん:コミュニティみたいな話もセットだと思うが、オープンソースのイベントで自分が発表することが一番学びになる。自分がアウトプットすることが結局自分が一番得をする。だからセミナーに行って聞くだけというTakeだけでなく、失敗してもいいから自分で発言や発信をしてみることこそ良い、みたいなカルチャーがこの業界にはある。それが結果としてプレゼンスに繋がり、技術ブランディングみたいなところに繋がっていく。
児玉:「エンジニアとして最も大事にしていること」では「いい条件の会社」というキーワードが挙がるが、それについてはどうか。
橋本:いい条件の会社で働けるというのは大事なことだとは思いますけど、力のない人がいい条件の会社で働けるということもないと思うので、まずは自分をちゃんとしないといけない。その上で、幸福度を人からもらっているのか自分で捻出できているのかというところがすごく大事。
良い条件のところで働けることというのを上位に持っている人は、幸福度を人からもらうことに一生懸命になっている。でも他人から幸福度をもらえることなんてまずない。求めるけど手に入らないからずっと不幸になる。幸福度の高い人たちは自分たちで幸福度を作ることができて、かつ自分がやりたいことを実現できるので、めちゃめちゃハッピーになれるのではないか。
幸福度の高い人の言っている「いい条件」と幸福度の低い人の「いい条件」の中身が違う気がする。幸福度の高いエンジニアはいい仲間がいるとかを求めていて、幸福度の低い人たちは福利厚生がいいとか、給与がいいとかそういうのを求めている気がする
児玉:学生のころからサラリーマンになっても、褒められることって言われたことをちゃんとやることだった。そしてそれをやったらみんなの生産性が上がったという高度成長期を日本は体験している。そういう中で自分のやりたいことのあるやつ出ないとダメだと言われていて、学校の先生からすると酷な話ですね。
えふしん:教えづらい。自分たちが作っているプロダクトを通じてユーザーさんを幸せにしているんだという想いがあり、課題があるからこそあれをやりたいこれを実現したいと思い浮かぶ。そういうところが学校だとなかなか教えられない。表面的な技術をなぞるだけになって、なんのためにこれを勉強したんだっけみたいになってしまう。
児玉:お二人ともコミュニティ活動をすごくやってらっしゃいますが、これはどんなメリットや面白さを感じていたんでしょうか。
えふしん:私は友達がやっていたところに参加してというのが入口だった。インターネット上に情報がたくさんあるし、業界の底上げをしたいからその情報をどう使うかとか共有し合うかとか集まって議論しましょう発表しましょうみたいな流れだった。
今はオープンソースで全部情報公開されている。技術がコモディティ化していて誰でも等しくその技術を手に入れられる。あとは実際にそれを手に入れて使えるようになることが大事。ある会社でテックリードになった人はいくらでも他の会社に転職できる。
橋本:ビジネスは価値交換なので、価値が伝わって初めてお金が入ってくる。ビジネスじゃないところもなんとかしたいがそれには2種類あって、1つは値段をつけるほどの価値のないもの、もう1つは新しすぎて誰も値段をつけることができないところ。価値が分からない、でも新しい、みたいなところは経済圏が全く違うのでコミュニティがサポートしていくところかなと思っている。
ビジネスでお金でやり取りできる経済圏と、新しくて誰も値段が着けられないところをコミュニティで触るというのは全然違う。エンジニアなら新しいところに触れるというのは当然やっている。だから良い意味の無価値のところをどう価値化していくかというコミュニティ活動には参加しておいた方が良いと思っている。
福岡で2011年に始めた明星和楽もそうで、人と人が交わるというのは(良い意味の方の)無価値で、交わるって何だろうみたいなものだった。でもその後アウトプットが出て、それがビジネス領域で価値交換ができるものになってきた。なのでぜひコミュニティという無価値にエンジニアは貢献していったらよい。
エンジニア・インサイト白書によれば、プログラミングスクールを卒業してエンジニアになった人のうち、エンジニアとしての幸福感を感じているのは全体の46%だという。スクールを通じて仲間や知識を得ることができるとするなら、スクールに行ったことのないエンジニアは、さらに低い幸福度の中、日々の業務をこなしているのだろうか。
この白書にはさらに具体的な情報が満載されている。特にここで取り上げることができなかった投資家、起業家、技術系企業役員を対象にした意見調査からは、さらに多くの示唆を得ることができるだろう。白書を手掛かりに、エンジニアを志す多くの若者がより幸福度の高いエンジニアリングライフを得んことを願って止まない。
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