業務を変えるkintoneユーザー事例 第161回
自分で作ったアプリを押しつけても使ってもらえなかった時の処方箋
kintone導入担当の本当の役割は「現場がアプリを作りたくなる環境づくり」
2022年10月19日 09時00分更新
方向転換から1ヵ月ほどで、日報アプリは社内に定着した。その結果、1日に1回以上kintoneの画面を開く習慣が生まれた。この習慣を強化するために、業務に欠かせない43種類の申請関係をすべてkintoneに移行した。こうしてkintoneは仕事をするために「なくてはならないもの」になった。
「現場からは徐々に、『こんなアプリをつくってみたい』『こういうデータを取りたい』など、自分たちでアプリを作ってみたいという声が自然に上がるようになりました。これを後押ししてするために、3つの仕組みを作りました」(笹原氏)
1つめは、DXワークショップと題した社内勉強会。kintoneアプリの作り方やデータ分析のしかたを社員同士で学んでいく。一番成績が悪かった人が次回の講師役を務めるというのが、面白いポイントだ。講師役を務めるためにしっかり勉強することで理解度が追いつき、みんなの学習レベルを揃えることにつながる。
2つめは、データドリブン大会。チームに分かれてkintoneを使ったデータ構築、BI活用の方法を競う全社コンペだ。優勝チームには賞金も贈られるので、真剣にアイディアを競い合う大会になっているという。
3つめは、独自の社内資格制度の整備だ。データポータルアソシエイト、データポータルスペシャリストなどの社内資格を用意して、kintone習熟を促している。資格取得時に一時金をもらえるほか、賞与時の加算もあり、社員のモチベーションにつながっている。
残業時間削減、売上増加など多くの成果を手にして、更なる成長に臨む
自分でアプリを作るのではなく、現場の人たちがアプリを作りたいと思う環境を作るという笹原氏の任務は達成され、kintoneは社内に根付いていった。その結果、多くの成果がもたらされた。
たとえば、アナログだらけだった建設現場がペーパーレス化された。現場にいる担当者はタブレットやスマートフォンから情報を入力し、kintoneに蓄積するようになった。入力にはFormBridgeやGoogle Formsを使用。どうしても決まったフォーマットで印刷されたものが欲しいと求められた場合にのみ、レポトンUプラグインを使って出力している。
不動産部門においては、物件の価値をAIに査定させる取り組みも始まっている。不動産情報をレコードに登録すると、物件の特徴を学習したAIが査定金額をはじき出す仕組みだ。
「不動産情報を登録すると機械学習させて自動査定させています。まだデータ量が少ないので本格稼働まではいっていないのですが、kintoneを使えば中小企業でも、AIを使った仕組みを自社開発できるとわかった事例でした」(笹原氏)
kintoneは採用にも活用されている。選考学生が入力したアンケートをkintoneに登録し、カンバンプラグインでわかりやすく進捗を確認できるようにした。新卒採用の進捗状況をひと目で確認できるダッシュボードも用意。採用までの歩留まりを計算して、そこから逆算して目標人数に対する集客人数の過不足を表示する機能も備わっている。
「全社としては1年6ヵ月の間に766のアプリが作られました。そのうちJavaScriptでカスタマイズされているものが372、1日のAPIリクエストは314にまで増えています」(笹原氏)
kintone導入により、労働環境にも大きな変化が起きた。残業時間を20%減らしながら、営業利益は44%の増加。生産性は1.7倍になっている。こうした成果が認められ2022年5月、東北地方の建設業として初めて、経済産業省のDX認定事業者にも認定された。
これまでの成果を上げていても、後藤組にとっては通過点でしかない。まだkintoneにためられていないデータがあり、それらを将来の資産にするためには一刻も早くアプリ化を進めなければならない。BIによるデータの可視化、AIによる統計的判断を活用して、若手がベテランと同じ仕事ができるようにするという当初の目標の達成に向けて進まなければならない。後藤社長は「変化を厭わず、変化を楽しめ。我々の前途は夢と希望に溢れている」と語っているとのこと。
「社長から『この1年は、初めて社長として自信がついた年だ』と言われました。その背景には、kintoneを中心としたDX推進があったと言います。会社を変えるということは、しんどいこともたくさんあります。ですが、その変化を楽しんでください。ひとりで闘わず、まわりを巻き込んでください。将来はきっときっと、夢と希望に溢れたものになるはずです」(笹原氏)
会場やオンラインで視聴しているオーディエンスにそう語りかけて、笹原氏はマイクを置いた。
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