視覚障害者を目的地へ導く「shikAI」の可能性

文●バリアフリー・ナビプロジェクト

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 都内の地下鉄駅構内で、点字ブロックにつけられたQRコードを見かけたことがある方もいるでしょう。普通に読み取っても何も起こらない不思議なQRコード、その正体は視覚障害者のナビゲーションのためのものでした。

 リンクス株式会社が提供する、視覚障害者に向けたナビゲーションシステム「shikAI」は、点字ブロックに設置されたQRコードを読み込むことで、目的地への行き方を音声で案内してくれます。

 程度の違いはありますが、日本には160万人以上の視覚障害者がいます。社会生活を営んでいる以上、その方たちもひとりでどこかへ出掛けるというシチュエーションは避けられません。その時に何が問題になるのでしょう?

東京メトロの明治神宮前駅に設置されているQRコード。都内の地下鉄を利用している人は気づいたことがあるかもしれません

QRコードの招待は、視覚障害者向けのナビゲーションシステム「shikAI」用が利用するもので、駅構内でもポスターで告知されています

 今回は、視覚障害者に向けたリンクスの取締役・相談役の小西祐一さんと、ソフトウェアエンジニアの藤山悠史さんにその仕組みと今後の展望を伺いました。

視覚障害者が一人で出掛けるときの最難関“乗り換え”をサポート

 小西さんは、「ニュースを見ていて、我々の会社の技術で視覚障害を持つ方に何かできないかと考えたところが、shikAIのスタート地点です。健常者はビジュアル情報に基づいていろいろなことをしていますが、視覚障害者はその情報を利用できません。そんな風に考えていたときに東京メトロのアクセラレータープログラムがあり、shikAIに繋がっていきました」と、そのきっかけを語ります。

 視覚障害者がどこかへ出掛けるとき、最寄り駅までは比較的たどり着きやすいそうです。最寄り駅は何度も利用しているので、自宅から駅までのルートやポイントを把握しています。目的地近辺からは、会う予定の知人や訪れるお店のスタッフへ同行援護を依頼すれば問題ありません。

 「我々としては、現段階で視覚障害者の方がサポートなしで初めての場所を最初から最後まで1人で移動できるとは思っていません。まずは自宅から目的地近辺の駅まで1人で移動できる世界を目指しています。この過程で、問題は電車の乗り換えです。ここをどうやってクリアすればいいかを考えました」と小西さんは言います。 

 そもそも都会で電車の乗り換えはかなり複雑です。案内標識は充実していますが、間違えた方向に行ってしまったことがある人も多いでしょう。そして、案内標識をチェックできない視覚障害者にとって、その難易度が非常に高いことは容易に想像できます。

 「shikAI」は、駅構内の点字ブロックを移動する視覚障害者に対して、音声で向かう先をガイドします。スマホアプリを起動して目的地を設定すると、点字ブロックに従って「右2m」「左1mに改札です」などと、誘導してくれるのです。

QRコードを読み込むと、設定した目的地へどう移動したら良いかを指示

ポイントごとにどこへ進んでいいかを音声でガイド

 日本の駅には点字ブロックが必ず設置されており、それをたどっていけば安全に目的地まで移動できます。ただし、どこをどちらに曲がるかといったルートを把握しなくてはならず、もちろん慣れていない駅で移動することは困難です。shikAIは、点字ブロックに設置されたQRコードを随時読み込んで、ポイントごとにどちらへ進むべきかをガイド。初めての場所でも、安全に目的地まで案内してくれます。

「点字ブロックにQRコードを設置するというと、少しローテクに受け取られることもあると思います。我々も最初はビーコンやUWB(ウルトラワイドバンド)、Wi-Fiフィンガープリントを使ったソリューションを考えましたが、それだと利用者がどちらを向いているかを判別しづらいのです。またカメラでQRコードを読み取るということは、カメラに映る範囲内なので位置の誤差も少ない。QRコードによって、利用者が向かっている方向がわかる、どこの場所にいるのかもわかるということで採用しています」と藤山さんは説明します。

 駅構内に多数のセンサーを設置すればQRコードを読み込まなくても精度の高い位置情報を把握することはできます。ただし、それには巨額のコストがかかってしまい、現実的ではありません。

「皆さん、視覚障害者のために何かを設置すると言われても普通異論はないと思います。ただし、それを実行するために運賃を10円上げるというと話は別でしょう。ですから、QRコードという枯れた技術を使うことはコストを抑えた最も現実的な組み合わせではないかと私達は思っています。視覚障害者の方も日常的にスマホを使っていますし、持っているだけで(下を向いている背面カメラ)がQRコードを読み取ってくれるのです」と小西さん。

 現在、shikAIが導入されている駅の数は東京メトロの中で9駅のみ。まだまだ実験段階という状況です。もともと2021(2020)年の東京オリンピック・パラリンピックで多数の視覚障害者が来日する想定で進めていたものの、コロナの影響で視覚障害者が来日する目処がなくなり、思うように整備が進まなかったそうです。

ルートガイド以外にも広がる可能性

 現在の普及状態では視覚障害者がshikAIによって自由に移動できるとはまだまだ言いづらい状況にあります。しかし、整備が進めば進んだぶん、利便性が上がっていくことは間違いありません。さらに、shikAIを開発するリンクスはこのサービスを基に、次の展開も考えています。

 shikAIのシステムは乗り換えだけではなく、点字ブロックがあればどこにでも応用ができます。単なる移動だけではなく、視覚障害者が街中を楽しむことにも使えるでしょう。

「たとえば大阪駅の地下街をご存じでしょうか。広範囲にわたってさまざまなお店が展開されているのですが、もちろん点字ブロックも整備されています。そこでshikAIのシステムを使って店舗まで案内できるようになれば、大阪駅の地下街を視覚障害者のテーマパークのように変化させることができると思います。健常者は普通にお店を見て普通に入店するだけですが、視覚障害者の方はそれができません。ガイドによって自由にお店を訪れられる──健常者にとって当たり前のことでも、障害を持った方には難しいこと。そういったサポートも視野に、発展させていきたいと思います」と小西さんは今後の展開を語ります。

 まずは本来のスタートである電車の乗り換えの実用性を高めるところが課題でしょうが、shikAIは視覚障害者をサポートする有力なサービスとして今後も注目されていくことでしょう。

リンクスの取締役・相談役の小西祐一氏(右)と、ソフトウェアエンジニアの藤山悠氏

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