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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第7回

すさまじい勢いで世界を変えている画像生成AI

2022年10月06日 16時00分更新

文● 新清士 編集● ASCII

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image2imageでラフや写真が画像になる

 Stable Diffusionの強みは画像から画像を生成する「image2image」が使えること。たとえば私の近影を使って「巨乳」「美少女」「サイバーパンク」などのプロンプトを入れて処理すると、こんな画像が生成されます。冗談のようですが、それでもメガネや着ている黒い服の影響が残り続けているのがわかると思います。

 ソフト上でマスクもかけられるので、「flower」などのプロンプトを使って前景に花を配置するといったこともできるようになっています。

 Stable Diffusionと同時期に話題を作った画像生成AI「Midjourney」にも同機能は搭載されているのですが、いま最もきれいな画像を出すにはテスト機能であるプロンプト「--test」の使用が必須です。ところがimage2imageとこのテスト機能は10月5日時点で共用できず、より複雑な画像を追求できません。今後のアップデートスケジュールも明確に示されていない状態です。アート的には優れたものが出ますが、一旦image2imageに慣れると物足りなくなってしまいます。

 一方、画像生成AIにはまだ複雑なポーズが苦手という課題が残っているようです。描きたいポーズを指定してimage2imageで画像にしている人もいますが、やや不自然です。何度も生成していると、腕が何本も発生したり、指も何本も生まれたりということが起きる傾向があります。これらをどうすれば発生させないようにできるのかは、今後の技術発展の着目点だと言ってもいいでしょう。

 実際に、そうした弱点を克服しようという企業も出てきています。10月3日に商用サービスとして発表されたNovel AI Diffusionは、腕が自然になるようにアルゴリズム的な工夫をしているようです。指はまだ不自然なようですが、それでも他の学習パッケージより改善されてるように見えます。特定のキャラクターの再生産に対応できるようで、まだサービス開始直後で多くのユーザーが模索をしているところですが、遠からず画像生成AIだけで漫画が描けるようになってしまうかもしれません。

世界はこの数ヵ月で変わってしまった

 image2imageを使っていて思うのは、画像生成AIをめぐる著作権の扱いがどんどん難しくなりそうだということです。重みづけを変えて出力していくと、生成される画像は元絵とどんどん類似性がなくなっていくわけですが、そのときに生成された画像の著作権はどう判断されるのか。写真でも同じことが起きるんですが、たとえばアイドルの写真をもとに画像を生成した場合、その権利はどうなってしまうのかというのは、今後の課題だと思います。重み付けが低いうちは元の写真だと判断がつくのですが、ある一定の線を超えると、もう元の写真が何であるのかはまったくわからなくなってしまいます。

 いずれにしても、これだけのことがわずかこの数ヵ月で起きてしまうというのが本当におそろしいですね。深津貴之さんが「世界変革の前夜は思ったより静か」と書いていましたが、本当に想像以上にすさまじい変革が起きています。

 今起きていることは、絵画史のなかで、19世紀後半に写真が一般の人にも手に入るようになり、急激に普及が起きた時期に近い歴史的な転換点に当たると思います。肖像画という存在が写真に取って代わられる時期です。しかし、それにより印象派などの新しい絵画表現方法の登場が促されることになります。画像生成AIは人類にとって、それが登場する以前と以後とで大きく時代に差をつけるものであることは間違いありません。しかし、だからといって絵を描くという営みが消えることはないでしょう。むしろ、人間の創造性の幅を広げる可能性が高いと私は考えています。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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