現行機種も含め、各機種を比較試聴
デノン試聴室でその音を体験した。時間の都合でSACDプレーヤー(2ch)で再生する音をアナログ入力して「802 D4」でステレオ再生するデモが中心となった。デノンのAVアンプはアナログ再生を音決めの基本に置いている。さらに各チャンネルのアンプモジュールは同一のものとなっているため、基本的な傾向を把握する意味では有益だろう。
まずは現行の「AVR-X2700H」から。透明感が高く、音の輪郭表現がシャープだ。広がり感がありつつも、低域には芯があり、再現性の高さを感じさせる音だ。
X2800Hの機能は、下位のX1700Hとほぼ同じだが、より上の音を目指した“高音質モデル”という位置づけになっている。ただ、冒頭でも書いた通り、X1700Hは初期段階からサウンドマスターの山内氏が開発に関わった、戦略的な機種である。実は「価格とクオリティのバランスが少しおかしいのではないか」というぐらいの完成度の機種である。デノンとしても上位機としての差をしっかりと出せるかはチャレンジだったようだ。
X2700HとX2800Hを聴き比べてすぐわかったのが、空間表現に確実な進化がある点だ。表現としては難しいが、湿度の高い部屋とそうでない部屋の再生音の違いと言ってもいいかもしれない。同じ機器で再生しても、夏の湿度が高い部屋では、どこかモヤがかかったような、音の動きが鈍いような……そんな不明瞭感を感じることがある。X2800Hは、秋や冬のやや乾燥した部屋で聴く音のように、スッキリと明瞭な音の伝わり方で、距離感や音色などの情報がよく把握できる。
まるで場を満たす空気の質が少し変わったようだ。これは再生する部屋の空気だけでなく、録音した場の空気が冴えたような感覚にも思えた。ピアノ伴奏とボーカルを中心としたシンプルな録音、Freya Ridingsの『Lost Without You』では、声の質感が向上。付帯音が減ってより滑らかな表現となる。X2700Hも解像感が高いのだが、比べるとリップノイズなどがやや目立ちすぎる感じがする。X2800Hでは低域と中域のつながり感も良くなり、ボーカルなどの中音域はシルキーな質感。両者が自然にマッチする。
最近のデノンの製品は全体にクールで高域が立った表現で、楽器の音色感や距離感などが把握しやすいが、冷たくなりすぎず、少しぬくもり感を残しているのが特徴だ。こういった特徴を山内氏はプレゼンスや広がりといった言葉で表現する。解像感の高さは感じさせつつも、完全にニュートラルというよりは、少しニュアンスや華やかさを残した音楽的な表現である。