このページの本文へ

NECフィールディングの保守部品配送業務に適用

NEC、疑似量子アニーリング活用の配送計画立案システムを本格導入

2022年09月12日 12時30分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 NECとNECフィールディングは2022年9月9日、NECが量子コンピューティング技術を活用して開発した保守部品の配送計画立案システムを、NECフィールディングにおいて本格導入すると発表した。NECとして、本番環境でシミュレーテッドアニーリング(疑似量子アニーリング)を利用するのは初めてとなる。

 同システムでは、大規模な組み合わせ問題の超高速処理を実現するシミュレーテッドアニーリングサービス「NEC Vector Annealingサービス」を活用。NECフィールディングがICT機器などの保守、修理を行う際に、CE(カスタマエンジニア)の出動計画に沿った保守部品の配送計画を立案する。

 2022年2月から行ってきた実証実験の結果を踏まえて、2022年10月から、東京23区内の保守部品配送を対象に導入。毎日2時間かけて行っていた翌日分の保守部品の配送計画立案作業を10分の1となる12分にまで短縮するほか、配送車の削減や距離の短縮化などを実現することで、配送効率を30%向上できると見込んでいる。

 今後、適用範囲を拡大することで配送コストの大幅な削減を目指す。また、将来的には配送計画立案システムをパッケージ化して販売することも視野に入れている。

NECフィールディングが本格導入する保守部品の配送計画立案システムの概要

NECフィールディング 取締役執行役員常務の山崎正史氏、NEC 量子コンピューティング事業統括部 ディレクターの百瀬真太郎氏

複雑なパーツの配送計画作成、ベテランと同等水準で自動生成が可能に

 NECフィールディングは、ICT機器の保守サービスを提供するNECの100%子会社だ。NEC製や他社製の法人向けICT機器のほか、医療機器や業務用洗濯機、業務用冷蔵庫などの非ICT機器などに故障が発生した場合に、CE(カスタマーエンジニア)が現場に出向いて保守、修理サービスを行っている。

 首都圏で保守/修理を行うCEは、公共交通機関を利用して顧客先を移動する。23区内をカバーエリアとして、CEが顧客先に到着するタイミングに合わせて保守修理作業に必要な部品類を届けるのが東京パーツセンターだ。

 東京パーツセンターは都内南部に約6000平方メートルの倉庫を構え、およそ15万点の保守部品を保有している。30台の軽車両と8台のバイクを使い、24時間365日体制で1日あたり数百カ所に部品を配送している。

 この配送作業においては、配送コストを最小化するために複数の案件の保守部品をまとめて配送している。CEの現場到着時間を基に作成した出動計画に沿って、交通事情も加味しながら現場に部品を配送する。

 ただし、緊急対応や定期保守、顧客からの時間指定への対応など、出動計画に影響を与えるさまざまな事象が日々発生する。また配送効率を最適化するためには、配送先エリア、部品の種類、サイズの違い、配送手段(軽車両かバイクか)といった複雑な選択肢を組み合わせる必要があり、効率的な配送計画を立案できる人材はベテラン作業者に限られていた。ちなみに、その組み合わせ数は「10の753乗」にも達するという。

 この出動計画を自動生成するのが今回の配送計画立案システムである。NECフィールディング 取締役執行役員常務の山崎正史氏は、実証実験の結果「ベテランの人手による計画と同等水準の計画が自動生成でき、さらにベテランでも気がつかないような計画提案が可能になった」と語る。「また、ベテラン作業者のノウハウを形式知化でき、ベテラン作業者の知識を別の領域で生かすことができるようになった」(山崎氏)。

量子コンピューティング技術活用の配送計画立案システムを採用した背景

 また現在、緊急対応のための当日受付による配送が全体の5~6割に達しているが、これまでは配送計画の修正が間に合わず「そのためにトラック1台を出すこともあった」という。今後、当日受付の緊急配送に今回のシステムを適用する予定で、短時間での計画修正が可能になるため、配送効率のさらなる向上、コスト削減やCO2削減、属人化解消などが期待できるという。

 また、NECフィールディングは全国15カ所にパーツセンター、44カ所にパーツブランチを配置しており、年間400万件、560万点の部品の入出庫実績があるという。今後は首都圏での成果をもとに、同システムのカバーエリアを広げていく方針だ。

 「ロジスティクスのサービスレベルを維持する上では、ドライバー不足や燃料の高騰によるコスト悪化、属人化と後継者育成などの課題を解決する必要がある。量子コンピューティングは、これらの課題解決にもつながると期待している。また、どの倉庫に、どの部品を、どれぐらい在庫しておけば、欠品や過剰在庫にならず、在庫の最適化ができるかといったことにも応用できるかもしれない」(山崎氏)

 なおNECではこれまでにも、製造拠点を展開する子会社のNECプラットフォームズにおいて、電子部品の基板実装装置の生産計画立案にシミュレーテッドアニーリングを採用。熟練工が1時間かかけていた計画立案を、数秒で実現。さらに熟練工よりも、功利的で無駄がない製造プロセスを算出して、計画内容に反映させることができた実績がある。現在、一部領域で実験的に導入している段階であり、今後適用範囲の拡大などを進め、本番環境に向けた導入の検討を進めている。

NECプラットフォームズの生産計画立案においてもシミュレーテッドアニーリングの採用実績がある

「月額25万円から」NEC Vector Annealingサービスを強化

 NECは、量子コンピュータのコアである「量子ビット」の製造に世界で初めて成功した企業としても知られる。今回の配送計画立案システムにおいては、スーパーコンピュータで量子アニーリングを擬似的に再現し、組み合わせ最適化問題を解くシミュレーテッドアニーリング技術を活用しているが、超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発にも取り組んでおり、2023年までの実用化を目指している。さらに、量子ゲート方式のコンピュータについても研究開発を進めているという。

NECにおける量子コンピューティングの取り組み

 量子コンピューティングビジネスにも着手している。2020年に「量子コンピューティング推進室」を設置。2022年4月からは量子コンピューティング事業統括部を新設し、量子コンヒューティングを事業化。D-Waveとの協業による「Leap Quantum Cloud Service」のほか、企業や大学による量子コンピューティングの利活用の推進に向けて、量子コンピューティング適用サービスや教育サービスも提供している。

 今回の配送計画立案システムで活用されているNEC Vector Annealingサービスは、大容量の高速メモリと高速行列計算を可能とするベクトルコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」と、許容解の存在範囲を高速検索するシミュレーテッドアニーリングエンジンを組み合わせて、大規模処理と高速処理が可能なシミュレーテッドアニーリングプラットフォームとして提供している。

 先月(2022年8月)には同サービスの機能強化も発表した。9月からオンプレミス型ソフトウェアライセンス提供を開始するほか、11月からは「国内業界最安値」(同社)となる月額25万円からのスタンダードプラン、月額125万円からのプロフェッショナルプランという2つのクラウドサービスも提供開始予定だ。

 NEC 量子コンピューティング事業統括部 ディレクターの百瀬真太郎氏は、「従来のサービスと比べて最大30倍となる求解性能の高速化と、30万ビット規模を実現している」と説明する。このサービスを活用することで、企業が新たな量子コンピューティングの技術を時間制限や利用制限なしで利用し、さまざまなチャレンジができるようになるとして「市場全体を広げていくきっかけにしたい」と意気込みを述べた。

 「量子アニーリングマシンでは、人員スケジューリングの最適化のほか、配車スケジュール、配送ルート、荷積み、生産計画、金融ポートフォリオの最適化など、これまでのコンピュータでは現実的な時間で解くことが難しかった問題の求解での利用が期待されている。NECでは、SMBCグループや日本総合研究所とのパートナーシップを進めており、これらの取り組みを通じて、量子アニーリングマシンの実用化の領域がいよいよ見えてきた」(百瀬氏)

量子コンピューティング適用領域の広がり

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード