量子ドット技術とは何か
量子ドット技術は「量子力学を応用した波長変換技術」と説明される。
量子力学は大きさがナノメートル以下の単位になる「分子」「原子」レベルでのみ通用する物理学だ。手に持ったリンゴを離すとリンゴは地面に落ちる(万有引力)が、こういった現象を目で見たり触れたりすることが難しい分野だ。詳しく説明するほど理解できない人が増える領域のため、おおざっぱな説明にならざるを得ないし、業界のトレンドとして、Mini LED+量子ドットのセットで採用されることが多く、関心がMini LEDのほうに向かいやすいという理由もある。通常のLEDよりも極小なLEDを従来よりもたくさん使用しているMini LEDは実物を見られるぶん、新技術としての凄さがわかりやすく、受け入れられやすい。
ただ、両者はまったく異なる目的で使用されている。
Mini LEDは小さなLEDをたくさん敷き詰めてバックライト光源にする。この明るさを細かく制御する分割駆動でコントラストを高める。エリア分割数を増やすことで、暗い部分と明るい部分の差を作りやすくなり、高コントラスト化が実現できる。これまでのLEDバックライトでは、真っ黒な空に星が光るような映像の表現が苦手だった。星のまわりがぼやっと光ってしまい、コントラスト感を出しにくかった。Mini LEDであれば、この現象を低減できる。こうした黒の締まりを向上できるのがMini LED技術だ。
一方、量子ドットは上述の波長変換技術で、純度の高い三原色を生成するために用いる。つまり、色再現性が高まり、表現できる色の範囲を広くする技術となる。しかし、一般にはMini LEDを搭載していれば、コントラストだけでなく色再現性も優れたパネルになると思われてしまいがちだ。
もともと量子力学の世界では、極少の量子ドット(半導体微粒子が集まったもの)の粒の大きさによって、光源の色が変化する現象が起こることはよく知られていた。量子力学はSFのガジェット的で便利な未来道具で使われるものと思いがちだが、実は半導体も量子力学の産物だ。今普通に使っている物で量子力学の研究の結果生まれたものは案外多い。
量子ドットの理論は昔からあったが、半導体微粒子のサイズを均一に揃えること、緑と赤の光と正しく取り出すこと、量産しても安定した性能を得ることが難しかった。日本メーカーも過去に取り組んでいたし、国内ではほとんど話題にならなかったが、2010年代のうちに量子ドット技術を採用した海外メーカーの液晶テレビが採用していた。生産が難しく、正しい特性を実現できていなかったし、画作りとして仕上げることも難しかった。これが2021年に入って実用に足る品質のパネルが登場し、国内メーカーもこぞって採用する状況が生まれている。