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第12回衛星放送協会オリジナル番組アワード 番組部門「ドラマ」最優秀賞「連続ドラマW 東野圭吾『さまよう刃』」

竹野内豊の圧倒的な芝居に手を引かれながら「さまよう」重厚な人間ドラマ

2022年07月13日 10時00分更新

文● 原田健

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 6月13日に「第12回衛星放送協会オリジナル番組アワード」の最優秀賞が発表され、番組部門「ドラマ」ジャンルでは「連続ドラマW 東野圭吾『さまよう刃』」(WOWOWプライム)が受賞した。

 同番組は、東野圭吾による少年犯罪を題材にした同名小説を連続ドラマ化したもので、少年法を改正する法律が成立した2021年の社会情勢を反映させて制作された。2009年に公開された映画版で刑事・織部を演じた竹野内豊が主人公である長峰を演じている。

 長峰(竹野内)は早くに妻を亡くし、男手一つで育ててきたまな娘・絵摩(河合優実)を残虐な方法で殺害される。悲しみに暮れる中、犯人の名と居場所を告げる密告電話が入り、尻込みの末、電話で言われたアパートへ向かう。留守宅へ上がり込み部屋を物色すると、複数のDVDを見つける。そこには絵摩が犯人2人に凌辱されている映像が写っていた。偶然帰宅した犯人の一人・伴崎敦也(名村辰)を惨殺した長峰は、虫の息の伴崎からもう一人の犯人・菅野快児(市川理矩)の潜伏場所を聞き出し追う、というストーリー。

 惨殺されたまな娘の死にもがき苦しみながら、「法で裁けない加害者に鉄ついを下す」という決断をして復讐しようとする父親の姿を描いた本作。昨今の地上波では取り扱いづらいテーマを手掛けるという衛星放送ならではの強みを生かした意欲作だ。また、原作が発行されたのが2004年、映画版が公開されたのが2009年という中で、あえて2021年という少年法を改正する法律が成立した年に扱うところにメディアとしての誇りが感じられる。さらに、“2021年”をきちんと重視して、令和の社会情勢を反映させて制作しているところに並々ならぬチャレンジ精神が伝わってくる。

 正直、観ていて楽しいものではなく、最初から最後までずっと苦しい。だが、いや、だからこそ観る者に強烈なメッセージと問題提起が成されている。特に、連続ドラマであるため映画版に比べて、より登場人物について掘り下げられており、それぞれの背景が深く描かれているからこそ成立する人間ドラマとなっているため、どの登場人物にも感情移入や共感しやすくなっているところが作品の持つ“強烈さ”を助長しているといえよう。

 きめ細やかに“人間”が描かれているため、登場人物ごとにそれぞれの立場や状況と人間としてのあるべき姿、個人としての感情や考えなどが入り混じり、葛藤し悩み抜いた上で行動する様子が、WOWOWならではの重厚な作品に昇華させている。

 そんな中で、役者陣の演技が制作側のチャレンジングな姿勢に大いに応えており、人間ドラマをより色濃い物にしている。特に、主演の竹野内の芝居は圧巻だ。一人娘を何よりも大事に育ててきた娘思いの良き父親が、一瞬にして奈落の底に突き落とされて自我を忘れてしまう様子や、娘の復讐を果たすことを決断しながらも、犯人を追いながら常に葛藤している部分まで、せりふでも動きでもない表現方法で、キャラクターの深層心理を描き出している。

 犯人宅でDVDの映像を観て“修羅”になりながらも、闇に落ち切れず“人”と“修羅”の間をさまよい続ける姿は、タイトルに秘められた『犯人を捜してさまよう姿』と『人と修羅の間で精神的にさまよう姿』の2つの『さまよう姿』をしっかりと表しており、その不安定な様子が観る者の感情をざわつかせ続ける。

 また、ラストでは、石田ゆり子演じる木島和佳子の最後のせりふに、思わずドキリとさせられる“大きな問い掛け”があるのだが、それ以外にも多方面で考えさせられるテーマが含まれているところも触れずにはいられないポイントだ。

 少年犯罪の温床となっている社会的な問題や、本当の正義のあらまし、法律の理想と現実、青少年の不安定な精神、「警察とは?」など、触れている多くのテーマの中でも、さまよい続けた長峰が最後に選んだ終着点は、この作品が提示する“一つの答え”として考えさせられるものとなっており、“修羅”でも“人”でもなく、“父親”として立つ長峰を表現する竹野内の芝居は筆舌に尽くしがたい。見終えた後も、後遺症のようにずっと切なさが続くほどのインパクトだ。

 チャレンジ精神あふれる制作姿勢、多くのテーマを含んで描かれる人間ドラマ、作品に深みを与える役者陣の芝居など、多くの見どころあふれる重厚なドラマの世界の中を、竹野内の圧倒的な芝居に手を引かれながら“さまよって”みてはいかがだろうか。

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