1歳児と5歳児の保護者をしてます盛田諒ですこんにちは。「人間は時速1000kmで走るんだよ」などと適当な数字を口にしている5歳児ですが、先日初めて自分で100円玉を出してポケモンの風船を買い、4円のおつりをもらう経験をしました。とてもうれしかったようで4円をうやうやしく宝石箱にしまい、保育園では「うち、おつり4円あるから!」と大声で言っています。そんな自慢ある?
そんな5歳児も来年はついに小学生。国語・算数・理科・社会を学ぶわけです。うおーまじかー。家を買うならいまのうちということで物件探しに忙しい昨今ですが、もうひとつ忙しいのがランドセル探し、通称「ラン活」。4〜5月にかけてメーカーからカタログを取り寄せたり直営店に実物を見に行きました。結果親子ともに好きなものが見つかってよかったのですが、保活(保育園探し)じゃないんだし、フツーの親はやることみたいに言わないでほしいという気持ちにもなりました。
●4月から始まってしまったランドセル探し
保育園の保護者LINEに「ラン活してきました」というメッセージが来たのが3月ごろ。(なんだラン活って、早朝ランニングのことか?)というくらいだったんですが、「最近ランドセルは1月から売りはじめていて、いいモデルは夏までに売り切れてしまうのだ」という話を聞いてお買い物好きの血が騒ぎ、ランドセル探しを始めることになりました。ラン活ラン活ランランランです。
ランドセルを探しはじめてすぐに分かったのはとにかくメーカーと製品数が多いこと。パソコンやスマホ以上に何が違うのかまったくわからず、ググるとウェブマーケティング系の企業が作っている比較サイトが大量に出てくる理由もよくわかりました。
サイトを読んでいってみると、大手メーカーを指す「メーカー系」、中小メーカーを指す「工房系」の2つに分かれ、最近人気になっているのは後者の工房系であるということがわかりました。さらにざっくり分けると、メーカー系は機能性、工房系は質感が売り。工房系は価格も高めで、売り方として子どものほうを向いているか、大人のほうを向いているかという違いもありました。
その上で機能やデザインを比較して、メーカー系でセイバンとフィットちゃん、工房系で鞄工房山本と土屋鞄製造所の4社まで絞り込み。カタログを取り寄せてカラーやシリーズなどを検討し、連休初日に直営店の予約を入れました。妻が。こういうとき妻のパワーはすごいです。
まず訪ねたのは工房系の鞄工房山本。
鞄工房山本はいかにも鞄の店という雰囲気でしゃれたデザインが目立ちます。色々なランドセルを背負わせては写真を撮っている親の姿もよく見ました。店内が混み合っていたこともあって接客は控えめ。5歳児は自動的に閉じる留め金を「魔法」と呼び、パチパチ魔法を試しまくっていました。
次に訪れたセイバンは、「光る!」「ドラゴン!」という感じで完全に子ども目線のランドセルが並んでいました。反射板がどう光るか見せるなど接客もキッズ目線です。
負担を軽減する背カン、左右連動して肩ベルトが動くギミックなどの説明や、「それが好きだったらこっちも背負ってみる?」といった誘導も大変巧み。機能で分けたラインナップも上手にできています。おむつ替え台やキッズスペースも店内に完備していて、これが大手のパワーかと震えました。
ということで2軒行ってみた感想は「全然違うわこれ」。カタログを見ていた時点では「まあ別にどれでもいいな、壊れてもいいやつ買おう」と思っていたのですが、実物ってのは怖いもんです。同じ人工皮革でもデザイン次第でまったく別物なんですよね。「ここで買ったランドセルは毎日のように見ることになるんだな」と思うとつい質感とデザインを求めてしまう自分がいます。5歳児くん許してくれ、お父さんもお母さんも買い物好きなのだよ。
というわけで後日あらためて行ってみたのが工房系の代表格、土屋鞄製造所。鞄工房山本同様の本格的な店構え。デザインは全体にシックで、高級シリーズはまるで大人のバッグです。ジェンダーフリーで上品な色味のRECOシリーズや、ミナペルホネンの布地を内装にあしらったアトリエシリーズなど、大人に目配せしてくるプレミアムなシリーズにしびれました。
店内には一部のシリーズを除いて、製造本数に達したモデルから完売となりますという掲示もありました。人気なんですねえ。
(でもやっぱり子どもには光るランドセルとかがいいのかなあ……)などと思っていたところ、5歳児はお上品な緑色のランドセルを指して「これがいい」と即決しました。
まじかよ、むちゃくちゃいいご趣味じゃないですか。
確かにもともと5歳児は「緑色がいい」と言っていたので本命とも言うべきもの。妻が「本当にいい?光るのとかじゃなくていいの?」と念を押しても「これがいい」と決意は変わらず、ランドセル探しは3軒目にして終わりを迎えました。
●ラン活は商戦期の前倒しとともにやってきた
それにしてもラン活って何なんでしょう。
調べてみるとラン活という表現が使われはじめたのは2015年。年末からお盆へ早まってきた商戦期がついにGWに移ったころで、子どもが年長さんに上がるやいなや商戦に巻き込まれるという異常な状況を指していたのでしょう。
商戦期の前倒しに合わせてランドセルの平均価格も上がっていました。
ランドセル工業会によれば、2007年から2014年までの7年間でランドセルの平均価格は3万2000円から4万2400円に値上がりしています。直近の2022年は5万6425円、購入したランドセルの購入金額帯では6万5000円以上が最多という結果となっていました。
私たちが選んだ土屋鞄は2008年時点で最高級のコードバンが5万8000円でしたが、今は人工皮革でも6万円台から。最高級モデルは14万円になります。恐ろしいほどのインフレ率です。メーカー系大手セイバンも人気モデルは6万円台で、平均価格の上昇に寄与していました。
原価高の影響も大きいのだろうとは思いますが、シンプルに高いですね。
ラン活について、業界では「子どもの個性を尊重する親の気持ちのあらわれ」などと語られることがあります。メーカーによっては「ラン活とは?」という解説をカタログに入れているところもありました。確かに性別によらない色選びとか、ランドセル自体の多様化という側面もあるとは思いますが、発売時期の前倒しや平均価格の上昇はほぼほぼ業界の都合ではないかと思います。
少子高齢化でランドセルの数が売れなくなっている中、業界が目をつけたのが祖父母世代の財布。祖父母世代が来店できるときに高級ランドセルを売っていきたいとか、何度も店に足を運んでほしいという業界の願いが、マーケティングワードとしてのラン活を後押ししたのではないでしょうか。
しかし当然ながら急がなければランドセルが買えないなんてことはなく、安いランドセルも探せば色々見つかります(たとえばニトリのランドセルは2万9900円から)。人気のメーカーでも型落ちやアウトレットなら安めに買えます。わざわざ早めに買おうというのはあくまで趣味の領域です。大体が祖父母世代もそんな高級品をポンポン買えるお金持ちばっかりじゃないでしょう。
●恵方巻きみたいなもんじゃないでしょうか
加えて、いまやランドセルを買わなきゃいけない理由も少なくなっています。ランドセルは教材を持ち歩くためのバッグなわけですが、文科省は2018年の「児童生徒の携行品に係る配慮について」という事務連絡を通じて、学校に教材を置いてくる「置き勉」を認めています。近所では登校用リュックを背負っている子の姿もよく見かけるし、学校によっては不便はないはずだと感じます。京都出身の副編集長は当時から登校カバンは自由で、ランドセルはむしろレアだったと話していました。
登校用リュックについて言えば、ランドセルと比べて安めで買い替えやすいのもいいですよね。1年生と6年生では体型も趣味も変わってくるはずで、低学年と高学年で買い替えを前提としているメーカーもあります。10万円クラスの高級ランドセルを買ったとして、数年後に「やっぱこの色やだ」などと言われても「ぜいたく言うなや」としか言えません。
これについて面白かったのが、Twitterのフォロアーさんが「これだけ多様性の時代になっているなら買い替え前提のランドセルがあってもいいですよね」と言っていたこと。ランドセルが多色展開されるようになった原点はユニクロのフリースにならったものらしいので、たとえばユニクロがカラフルでかっこいい登校用リュックを作ってくれたら破壊的解決になるのかもしれません。ユニクロさん、3WAYスマートバッグのラインでご検討いかがでしょうか。
そういうわけで長くなりましたが、ラン活はあくまで買い物好きのためのマーケティングイベントでした。私たちのような浪費家夫婦が乗っかるとそれなりに楽しめるけれども、乗っからなくてもまったく問題がない、子どもの行事に便乗した恵方巻きみたいなお祭りイベントなのではないかというのが私個人の解釈です。そもそも自分自身の経験からしても、子どもはランドセルなんてぶん投げるものとしか思ってませんからね。それではご唱和ください、ラン活ラン活ランランラン。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。4歳児と0歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。
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