ジャパン・メイドへのこだわり
G-SHOCK最高峰のMR-Gシリーズは、山形カシオの工場で組み立てている。石坂氏は「MRG-B5000もジャパン・メイドを前面に強く打ち出すため、日本で開発された技術と素材を使うことにこだわった」と話している。
本機には3つの特種なメタル素材が使われた。ひとつはベゼルトップに採用する「COBARION(コバリオン)」。純チタンと比べて約4倍の硬度を備えるコバルトクロム合金だ。
元は医療用に開発されたメタル素材は、摩耗に強いことから人工骨などにも多く採用される。またプラチナと同等の輝きを放つ金属であることから、ジュエリーのパーツとしても重用される。磨き抜かれたMRG-B5000のベゼルトップは吸い込まれそうになるほど透明感が際立っている。実物を撮影したこの記事の写真も、ホンモノの迫力を伝え切れていないと思う。ぜひ東急プラザ銀座の「G-SHOCK STORE GINZA」などショップを訪れて、展示されている実機を直に目にしてもらいたい。
主にバンドに使われた「DAT55G(ダット55ジー)」も優れた耐久性を備える硬いチタン合金だ。その硬さは純チタンの約3倍にも及ぶという。石坂氏は「DAT55Gは元は加工しやすい硬度の金属ですが、後処理によって硬度が高くなります。この特徴を活かし、バンドのコマをつなぐピンの穴開けなどの微細な加工を施すことができました」と、この金属の特徴と採用したことにより生まれるメリットを説いている。ブラックモデルはすり傷等のダメージに強くなるよう、バンドの表面にDLCコーティングによる皮膜処理を施した。
ケースや裏蓋、ボタンには元から硬いチタン合金である「64チタン」を採用する。チタンは耐食性・軽量性にすぐれる金属である一方、ステンレスよりも柔らかく、傷付きやすいという課題もある。
「MRG-B5000は“極み”をテーマとするウォッチなので、一つ一つの面を美しく仕上げたいと考えました。そこでチタンよりもさらに硬く、表面を磨いてきれいに仕上げられる素材を選択した」のだと、石坂氏がそれぞれの素材に対するこだわりを熱く語った。
COBARIONやDAT55Gは、これまでに数多くのウォッチを開発してきたカシオにも扱いのノウハウが十分に蓄積されていなかったため、後処理も含めて使いこなしに時間をかけながらトライアル&エラーを繰り返してきた。
「一体成形ではないパーツを組み合わせて、なおかつ耐衝撃性能が確保できるのかが課題となりました。初期段階の構造案では、やはり組み立てた後に壊れてしまいましたので構造を考え直して、パーツの形状や構成をいろいろと変えた末に、20気圧防水を含むG-SHOCKシリーズの基準を満たすタフネスを実現しています」
石坂氏も、今回MRG-B5000が採用したこの「マルチガードストラクチャー」は伝統的なメタルウォッチの定石としては「普通ならば考えない手法」であると認めながら、オリジナルのG-SHOCKのデザインにこだわったことで、発想の転換により生まれたアプローチから「極み」に到達できたのだと自身に満ちた表情で語った。