東京・羽田空港の近くにある天空橋駅に直結する複合施設 羽田イノベーションシティにて、PROTOTYPE Inc.の体験型展覧会「SFプロトタイピング展」が4月30日まで開催中だ。このイベントは、同社が運営するデジタルスタジオ兼ギャラリー“HANGER-B”の移転オープンを記念して行われているものだ。
“Sci-fiからバックキャストした実践的プロトタイピングの体験型展覧会”となにやら小難しいカタカナ用語が並んでいるが、その実は同社が手掛けるプロダクトの数々を、実際に見て触って体験できるという内容。SF的発想から導き出されたプロダクトの数々を“実際の現物”として手に取れるのは、未来のテクノロジーに憧れる気持ちを存分に沸き立たせるものだ。
そもそも面白いのが、PROTOTYPE Inc.という会社の成り立ちだ。少しゲームに詳しい方ならご存知だろうが、2002年にカプコンより発売された「鉄騎」というゲームがある。40個以上ものボタンが並ぶ横幅88センチもの巨大コントローラーを使って巨大ロボット・VTを操縦して戦うXbox用タイトル(ジャンルも操縦!)だ。
その大胆すぎる試みに衝撃を受けた同社代表取締役の渡辺光章氏は、当時はいちサラリーマンでもあったに関わらずカプコンに「鉄騎の専用コックピットを作りたい」と直訴。個人との取引では難しいと一度は断られたものの「ならば会社を作ろう」と立ち上げたPROTOTYPE Inc.で、見事にコックピットを完成させるに至ったというワケだ。嘘から出た真みたいなエピソードだが、そうした情熱を持った人が代表だということが同社のカラーを示している。
そして展示会には、その鉄騎コントローラー&コックピットをモチーフにしたプロダクト“TYPE00R”も展示されているのがまた熱い。
「もし鉄騎を2022年に蘇らせたなら」というコンセプトで制作されたプロダクトは、なんと実際に搭乗した上でコックピットそのものがMR空間(グリーンバック)内を自走するという仰天仕様……だったらロマンがあるのだが、現物はタイヤがあるのみ。それでも、VT(鉄騎の主役メカ)のスライドステップ挙動を再現するために全方向に動けるメカナムホイールを用意していたり、2本のスティックやスロットル&フットペダルなど、見る人が見れば「わかるわかる!」という仕様がてんこ盛りとなっている。
また、TYPE00Rの制作にも関わっているという造形作家の池内啓人氏がデザインしたヘッドセット作品群も展示されている。ややもすれば野暮ったさを感じるデコレーティブなデザインは、“あの時代”を体験してきた人たちには刺さるハズだ。
展示会には同社の旗艦事業である、モータースポーツ関連のプロダクトも展示されている。ひと際目を引くのが、二輪型MRシミュレータ“GODSPEED XR”。バイクのシートにまたがってXRヘッドセットを装着すれば、目の前には米・ソルトレイクが広がり、そこをトップスピードで爆走する感覚が味わえるというもの。本物と同様に、右手でアクセルをひねり車体を傾けて曲がるという操縦体験は、バーチャルでありつつもスリリングなものであった。
ライディングシミュレーター“MOTOLATOR”は、YAMAHA(ヤマハ発動機)のバイク開発で実際に使われているモノ。バイクやスクーターといったモーターサイクル全般の開発で想定すべき多種多様なライディング環境を再現するために、ハンドルやシートのポジションを細かくセッティングできるため、様々なテストに有効活用されているものだという。会場では“バーチャルとリアルが融合するガレージ”というコンセプトで、株式会社アイ・ティー・ケーが製作した「ハンドロイド®」などと一緒の展示がなされている。
“MOTOROiD”は、人とマシンが共響するパーソナルモビリティをめざして制作された概念検証実験のためのコンセプトEV。2017年のモーターショーで公開されたのを目にした人もいるだろう。搭載されたAIでユーザーを認識し、自走しながらついてくる動作は、飼い主と大型犬の関係を思わせるような生き物っぽさすら感じられるものだ。
さらに未来のソリューションとして展示されていたのが“FUTURE RACE”。今よりもデジタル化が進んだモータースポーツはどうなるだろうという想像から、ライダーと伴走するドローンがレースをサポートするという発想が誕生。環境にやさしい軽量EVバイクでジェンダー・フリーで楽しめ、なおかつドローンからのライブ映像でライダーと観客が一体となって楽しめる……というヴィジョンが描かれている。
開幕前日に行われたプレオープンイベントでは、渡辺光章氏と、YAMAHAのデザイナー前園哲平氏と渡辺政樹氏、そして鉄騎でディレクターを務めた河野一二三氏によるトークショーも行われた。
第一部はMOTOLATOR、MOTOROiDの開発時のエピソードやそこから得られた知見、そしてバイクの魅力とはが語られた。また、MOTOROiDのデモンストレーションも行われ、ドライバーがいずとも自立して走る様子や、ユーザーのジェスチャーによって前進後退をする姿を見ることができた。仮面ライダーBLACKのバトルホッパーみたい!
第二部の河野氏とのトークでは鉄騎誕生から完成までの道のり、そして2022年版とも言えるTYPE00Rがどうして生まれたのかというエピソードを披露。「まだ誰も見たことがないモノを作る」というイノベーティブさが両者の共通点であるとし、今後は「モニター越しなバーチャル世界が増えているからこそ、手触りのあるリアルが引き立つだろう」と予見して、両者はトークを結んだ。なお、河野氏は「今は自分の周辺がダイナミックに動いている。数年後にその成果を見せることができれば」とも語っていたので、河野作品のファンは期待しよう。
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