L3キャッシュは通常の3倍、しかしOCには非対応
Ryzen 7 5800X3Dのスペックは以下の通りだ。既存モデルと最も異なる点は、L3キャッシュの容量であり、Ryzen 7 5800X3Dは実に96MBに到達している。Ryzen 7 5800Xに元々あった32MBのL3キャッシュの上に、さらに64MBを積み重ねて一体化したもの、と考えればよいだろう。L3キャッシュを平面構造のまま増量すればダイ(CCD:Core Compex Die)のみならず、ダイとその下の基板とのインターフェースも再設計する必要がある。
しかし、AMDはダイ設計と基板の互換性を維持し、キャッシュメモリーを積層するというアプローチを採用した。手持ちの成果を上手く利用しつつ、そこに最新技術を乗せてもう一段性能をブーストするというコンセプトであるといえる。
「CPU-Z」を使ってRyzen 7 5800X3Dの情報をチェック。L3キャッシュが96MBとなっている点に注目。つまり上積みされた64MB分のL3キャッシュは元々の32MB分と分離されておらず、透過的に扱われていることを示している
CPUのコア数や対応メモリーといったスペックはRyzen 7 5800X3DとRyzen 7 5800Xで共通だが、動作クロックはRyzen 7 5800X3Dの方がやや低く、かつ倍率アンロックによるOCが不可となっている。この理由はいくつか考えられるが、一番大きいのは発熱の問題だと推測している。
Ryzen 7 5800Xは既に検証結果(廉価版Ryzenレビュー記事:https://ascii.jp/elem/000/004/088/4088293/4/)にある通り、8コアCPUとしては非常に熱密度と発熱量が大きい(むしろコア数の多いRyzen 9 5900Xや5950Xの方が扱いやすい)。
Ryzen 7 5800X3DのTDPはRyzen 7 5800Xと同じTDP 105W設計なので、発熱量も相応に高く、CCDの上に増築された構造物の分だけ冷却に制限があると考えるのが自然だ。
そしてCCDと64MBの追加L3キャッシュの接続に使われる配線技術(ハイブリッドボンディングと呼ばれる)は密度が極めて高く、端子間の間隔はわずか9µmとなっている。最下部のCCDと増築されたL3キャッシュの間で温度差が発生すると熱膨張率も差異が出てくるが、9µという極小間隔の配線ではこの膨張率の違いが構造的に良くないため、Ryzen 7 5800X3Dではクロックを下げ、さらにはOCも封じたのではないかと推測している。
ちなみに、Ryzen 7 5800X3DではOCが封じられているのでPBO(Precision Boost Overdrive)/PBO2のOCもできない。ただしメモリーのOCやそれにともなるInfinity FabricのOCはできるため、高クロックメモリーでさらに上の性能を狙うことは可能だ。
Zen 3世代のCCDの面積は81平方ミリメートルで、その上に41平方ミリメートルのL3キャッシュを増築する。コアと増築されたL3キャッシュの高さを合わせるためのシム(ゲタ)はヒートスプレッダーへ熱を伝える役目も担っている
CCDとL3キャッシュダイを連結するためのハイブリッドボンディングのための電極は広帯域でありながら省電力でなければならない。電極間の間隔を9µmとすることで、インテルのマイクロバンプを使った積層技術(中央)と比べ15倍の密度、信号当たりの消費電力を3分の1に抑えることに成功した、とAMDは謳っている
3D V-Cacheを利用したCCDは従来のCCDとインターフェースが共通であるため、製品の展開がしやすい。図はCCDが8つあるのでEPYCのダイ配置を示していると思われるが、同じことがRyzenにも適用できる
最後にこのRyzen 7 5800X3Dを使うための条件だが、既存のSocket AM4用マザーにAGESA 1206B以降のBIOSへ更新する必要がある。X370等の旧世代チップセット搭載マザーでも最新のRyzen 7 5800X3Dを利用できるのがSocket AM4エコシステムの強みだが、対応BIOSの存在を確認してから導入するようにしたい。

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