前回の続きとなるNVIDIAの話は来週まわしにさせていただいて、今回は連載616回で説明した電源規格ATX12VOに関する新しい話が出てきたのでこちらを紹介したい。
12Vで600W供給が可能な電源配線12VHPWR
3月23日、インテルはATX 3.0 Revision 2.0とATX12VO 2.0という新しい電源に関する規格を発表した。ATXは広く使われている電源規格であり、一方ATX12VOは連載616回で説明した「供給電圧を12Vに限ることで低コスト化を図った」新規格である。この両方の規格に新しい仕様を追加した、というのが今回の発表である。
ではなにを追加したのか? という話であるが、細かいアップデートはいろいろあるものの、最大のものは、下にあるPCIe 5.0の拡張カード向けの2つだ。
- 12Vで最大600W供給の電源配線を追加した
- 48V供給の600W供給の電源配線について言及した
(まだ仕様化されていない)
この600W配線、仕様では12VHPWR(12V High Power)ないし48VHPWR(48V High Power)となっているが、ただし48VHPWRに関してはどちらの仕様書にも“48VHPWRコネクターは本書とは関係ないため、これ以上説明しない。これらは今後言及する予定である”とあって、今後のリビジョンで仕様がもう少し明確になるものと思われる。とりあえず当面は、12Vで600W供給が可能となる12VHPWRが新たに追加された電源配線ということになる。
この600Wの規格を定めたのは他でもなくPCI-SIGである。PCI-SIGは2019年5月にPCI Express 5.0のBase Specificationを発表したものの、CEM(Card Electrical Mechanical)Specificationのリリースは少し遅れた2021年6月となった。
ただこの間は、従来のPCI Express 4.0 CEM Specificationがそのまま使えたし、2021年6月にリリースされたPCI Express 5.0 CEM Specificationでも信号速度の高速化にともなう配線タイミングの見直しと、これにともなうReTimer周りの仕様変更以外はおおむね変わらなかった。少なくともこの時点ではAIC(Add-In Card)への最大供給電力は300Wに抑えられていた。
これが変わったのは、2021年12月のことである。CEM WG(CEM Working Group)より“Power Excursion Limits for 300-600 W PCIe AICs ECN”という、AICに最大600W供給を許すECN(Engineering Change Notice:仕様変更の通知)が発行され、これにより最大600W(厳密に言えば全部では675Wになりそうな気もするが、CEMを確認できていないので断言できない)の電力供給が可能になった。
このECNの理由は明白である。一時期は300Wの枠をなんとか保ってきたAICであるが、ここ数年は平気で300Wの枠を超える製品が現実問題として市場に出てきている(例:GeForce RTX 3090)。加えて言えば、NVIDIAのA100/H100やAMDのRadeon Instinct MI250シリーズのように、OAM(OCP Accelerator Module)フォームファクターを使い、消費電力700Wという製品も市場に出てきている現状では、PCIeのAICももう少し消費電力を供給できる必要がある。
その結果として12Vレーンのまま、最大600Wというのは正直驚いた。つまり12Vで50Aを流すわけで、これはけっこう危険である。OAMの場合でも、700Wが可能なのは48V供給(つまり電流そのものは15A弱)の場合であり、12V供給では350W(30A弱)に抑えられているからだ。
このあたりはどういう議論があったのか不明だが、最終的には50Aを供給することで決着がついたようだ。ちなみに50Aというのは連続供給電力で、ピーク時には最大55Aが供給できることになっている。ちなみに12VHPWR以外にも、互換性維持のために従来の2×3と2×4のコネクターは引き続き残る、としている。
その新しい12VHPWRコネクターであるが、下の画像のように12+4pinで合計16pinのケーブルとなる。
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