スマートシティ/スマートコミュニティの取り組みを加速、観光集客における課題と対策を議論
来年の大河「どうする家康」で注目の岡崎市、携帯ビッグデータ活用で取り組む「3つの課題」
岡崎市が携帯ビッグデータ活用で取り組む「3つの課題」
同実証実験事業では今年度(令和3年度)、「集客規模の推計」「交通渋滞の緩和」「波及効果の創出」という3つの課題に取り組んでいる。
まずは「集客規模の推計」だ。観光イベントなどの開催前には「○○万人の来場を予想」などと発表されるが、ほとんどの場合そうした予測は過去の経験と勘に頼ったものであり、エビデンス(データ)に基づく検討は行われていない。今回はここで携帯ビッグデータを使い、より正確な推計、根拠のある推計を目指した取り組みを行っている。
具体的には、近年に大河ドラマの舞台となって大河ドラマ館を設置し、なおかつ地方都市としての性格も似た2つの都市(岐阜県岐阜市、静岡県浜松市)のデータを用いた。平常時からの来訪件数の増加率、また集客エリアの拡大について、携帯ビッグデータの分析から明らかにする。それと同時に、2市の担当者にインタビューを行い、データだけではわからない変化や対策効果なども深掘りを行った。こうした他都市での分析結果を岡崎市に当てはめて、大河ドラマ館の設置後に考えられる変化を推計するわけだ。
この集客規模の推計に基づいて、残る2つの課題「交通渋滞の緩和」「波及効果創出」についての仮説検証を行う。前述したとおり岡崎公園には隣接する駐車場(以下P1)があり、カーナビなどで岡崎公園を指定するとこのP1に案内されることが多いため、人気が高い駐車場だという。ただし、ここには150台ぶんのスペースしかなく、満車となった場合は国道1号線に渋滞を引き起こすおそれがある。
実は、大河ドラマ館へのアクセスが良い駐車場群(P2、数百台ぶん)は別のエリアにあり、遠方からの来訪者をP1ではなくP2に誘導できれば渋滞緩和が期待できる。しかも、P2のあるエリアは市街地の商店街にも近く、商業への波及効果も高いことが予想される。
そこで今年度はまず、「P2に誘導することで、交通渋滞緩和と波及効果創出の対策になる」という仮説を立て、これを検証して次年度に行う対策(現地への看板設置やデジタルソリューション導入など)の検討に生かすことになった。
交通渋滞の緩和については、携帯ビッグデータと国土交通省のETC 2.0、トラフィックカウンター(車両感知器)データ、周辺駐車場の満空情報(満車/空車)を組み合わせて、自動車の速度低下が発生する日時や場所を特定可能にする。
「こうしたデータに基づき、大河ドラマ館がオープンしたらどのような状況になるのかを予測し、渋滞対策として電子クーポン配布やナビアプリ連携アンケートなどを試行して、どの程度の効果があるのかを検討していく」(鈴木氏)
波及効果については、携帯ビッグデータとGPSビーコン、人流カメラ、サイネージカメラのデータを組み合わせて、各駐車場から市街地にどの程度の人が移動するのかを把握していく。特に、携帯ビッグデータやサイネージカメラからは人数だけでなく属性(性別や年齢層)も取得できるので、期待できる波及効果がより具体的に検討できるメリットもあるという。
ここまで説明した携帯ビッグデータ活用の実証事業とは別に、岡崎市では混雑地以外のフリンジパーキング(市街周縁部の駐車場)への分散誘導についても実証実験に取り組む予定だ。岡崎市を訪れる前に情報提供を行い、フリンジパーキングから目的地(岡崎公園)までの輸送を担うスマートモビリティや観光船を事前予約できるという対策、またリアルタイムに交通情報を取得、発信して誘導を行う対策について、実証事業を行う計画だ。
* * *
「大規模中核都市は“解決すべき課題のデパート”だ」。同協議会の次年度(令和4年度)事業の方向性を説明するなかで、鈴木氏はそのように表現した。本稿で紹介した市中心部(乙川リバーフロントエリア)の都市再生だけでなく、周辺部にも山間部にも取り組むべき課題はある。これらの課題を、「スマートシティ」「ビッグデータ」の文脈だけでなく「ゼロカーボン」「デジタル/DX」など幅広い文脈でとらえ、解決に向けた議論と実証を続けていく必要がある。
先行するモデル都市の岡崎市で課題解決が実証されれば、それが形を変えながら全国に横展開されていくことになる。将来的な地方都市のあり方を見通すうえでも、岡崎市の今後の取り組みに注目しておきたい。
(取材協力:岡崎市)
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