生物多様性の保全をビジネスとして成立させたバイオーム

文●石井英男 写真●バイオーム提供 編集●ASCII

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もうからないから起業した

──いまなぜ生物多様性の保全が叫ばれなくてはいけないのか、あらためて藤木さんが考える理由を教えてください。

:基本的には人類の生存に関わる問題だと思っています。大きくは「食」「健康」「災害」の3つです。

 まず、地球の生物が絶滅して生態系がくずれると、食料生産に影響が出ます。農業は自然のシステムに依存しています。たとえば、昆虫が受粉しなかったら食料がガクンと減りますよね。それだけではなく水が汚くなるなどといった問題も複雑に絡みますが、それが食についての問題です。

 健康について言えば、生物や植物は薬の原料になるという重要な役割を持っています。生態系がくずれることでいろんな病気が流行ることも予測されますし、害虫が大量発生するなど、様々な形で人類の健康を害する状態が起きることが考えられます。

 そして災害は、たとえば森がないと洪水が起こりやすいとか。災害は、かなりの部分を生態系が防いでいるんです。

 生物多様性は人類が生存していくにあたって大きな貢献をしてきましたが、当たり前のものとしてありがたみを感じられていない、失ってはじめてありがたみに気付くものなんです。100年以内に50%の生物が絶滅するとも言われていて、今後100年は失った時代になりかねません。でも、そうなってからでは遅い。絶滅した生物は絶対に戻ってこないという不可逆性があるんです。

──石油などエネルギーは枯渇が分かりやすいですが、生物種が枯渇するということの危機感があまり伝わっていないですよね。定量化が始まったということで、危機感がようやく共有されはじめたというイメージでしょうか。

:そうですね、TNFDはまさにそのあらわれだと思います。

──いまでこそTNFDという形で注目されはじめましたが、ビジネスにするにはむずかしい分野だと思います。

:そもそもこの会社を始めたのは、「生物多様性保全ってもうからない、ビジネスにならない、ビジネスとは反対の概念だ」ととらえられるような社会の中、それを変えるようなカウンターを作らないといけないと思ったからなんです。つまり、「もうからないから始めた」というめずらしいベンチャーの始め方でした。なので、立ち上げはむちゃくちゃ苦労しました。ほぼお金が入ってこなくて、給料も出せずに気合いだけでやっていました。でもこの領域でもうかる仕組みを作らないとどうにもならない、うちがモデルケースになって、まねをする企業があらわれるくらいじゃないとダメだと思ってやっていました。

──バイオームのアプリは学習にも便利というか、小中学生の夏休みの自由研究に使ったり、旅行に行った先で新しい生物を見つけて自分のコレクションを増やしたりと、楽しいアプリになっています。「mikan」などもそうですが、レベルが上がったり、ソーシャルゲームのような楽しさがありますね。

:ありがとうございます。

:イノラボでも「藤木庄五郎さんと話した」とメンバーに話をしたところ「バイオームのアプリを使っている」という人がいました。どんな使い方か教えてもらったところ、休みの日に子どもと一緒に公園に行ってコレクションして楽しんでいるというんですね。昔、親子で虫を採りに行くことはありましたが、デジタルをうまく融合させる形で、コレクターだけでなくファミリー層までユーザーを広げて、ビックデータを構築しているのは素晴らしいなと思います。

アプリ使用シーン

──アプリ以外ではどんな活動をされるんでしょうか。

:やはりTNFDに注目しています。企業が生物多様性に関する取り組みをしようとしても、今すぐには難しい状況にあると思います。数値化・定量化ができていないことが原因の一つです。なので、自然環境に対する情報開示のお手伝いとして、目標を決めるツールを作ったり、サポートをしたりという企業向け活動を強化していきたいと思っています。

──生物多様性への取り組みの開示に対するコンサルのような?

:コンサルというよりは、ツール提供とかプラットホーム提供のイメージですかね。増えた需要がしぼまないように、ちゃんとサポートしないといけないと思っています。

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