このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

成功も挫折もあり、ひとり情シス協会とスプラッシュトップのセミナーで体験談を語る

“伝説のひとり情シス”たちは、コロナ禍のテレワークシフトをどう実現したか?

2022年02月14日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

たったの2日でテレワーク体制構築! しかし……

 セミナー後半ではパネルディスカッションとして、黒田氏に加えて増山大輔氏、林田悠基氏が加わった。増山氏は17年、林田氏は8年の“ひとり情シス歴”を持つベテランだ。モデレーターはひとり情シス協会 事務局の清水博氏が務めた。

 増山氏は、社員数が約110人という中小製造業に勤務している。パンデミックの発生後も工場勤務者はテレワークに移行できず、社内のテレワーク対象者は4人だけだった。社長の理解を得て進めることになったが、たったの2日でテレワークの準備ができたという。

増山大輔氏。中小企業製造業の現役ひとり情シス(ひとり情シス歴17年)

 テレワーク対象者の4人は自宅にインターネット環境も私物PCもあったため、リモートデスクトップのソフトウェアを導入してテレワークを実施することにした。1日目にはソフトウェアの配布と動作確認、聞き取り調査、個別の操作説明、マニュアル作成などを行い、対象者は夜間に自宅からのアクセスを試した。

 2日目、すべての対象者から「問題なくアクセスできた」という報告をもらえたため、テレワークのルールを大まかに決めて、準備完了となった。具体的には、対象者が1日おきに交代でテレワークを行い、誰かが必ずオフィスに出社するようにした。またテレワークの日は、業務開始と終了を上司にメール報告するというルールも設けた。

 このルールに基づいて、1回目の緊急事態宣言が出た2020年4月~6月と2021年1月~10月にテレワークを実施したが、その後は“尻すぼみ”になり、最終的には以前のとおり出社するかたちに戻すことにしたという。テレワークを行った社員からは「快適」「通常どおり仕事ができて問題ない」と好評を得たが、ほかの部署から「何をやっているのか見えない」「実績が伴っているのかわからない」といった指摘を受けたためだ。

 「テレワークを指揮する人は、定量的もしくは具体的に業務指示を出して、実績をわかりやすくしたほうがよい。また報告する側も具体的に、細かい頻度で報告を行うべき」「製造業なので、本当はテレワークがしたい社員にも出社してもらうしかなかった。会社として、テレワークしたくてもできない社員とのバランスをどうとるのか」(増山氏)

 まとめとして増山氏は「リモートデスクトップは有用。簡単に準備ができ、手離れもいいのでひとり情シスにはおすすめ」と述べた。なお、PC端末の調達に関しては「秋葉原のショップなどからは、Core i3(搭載PC)は売れ残るので価格も安いと聞いている。そこまで高いスペックが不要な場合は、あえて(端末のスペックを)落としてもいいかもしれない」とアドバイスした。

対面重視、紙の業務、自宅環境という“3つの壁”

 一方、大手企業のグループ会社に務める林田氏は、およそ1カ月ほどでテレワーク移行の準備を整えたという。まず、テレワークに切り替えるための要件やルールを検討に2週間をかけ、残りの2週間でクラウド環境の整備と周知、アプリの配布などを進めた。その間に並行して、モバイルPC端末など必要なモノの準備も進めたという。

林田悠基氏。大手企業のグループ会社でのひとり情シス経験者(ひとり情シス歴8年)

 林田氏の会社では、テレワークへの移行は比較的順調に進んだ。その背景としては「普段の業務から、SaaS、PaaS、IaaSを活用していた」「トップダウンの決定だった」「日頃からPC管理ができていた」といったことが挙げられる。中でも最大の成功要因は「『できるところ』から始め、その時点での最適解を選んで進めたこと」だと振り返る。

 もっとも、テレワーク移行を阻む“3つの壁”も見えたという。――「対面という“絶対神”」「紙を扱う業務」「在宅勤務環境」だ。

 「会議も相談も絶対に対面で行うべき」という考え方に対しては、社内勉強会を開催してオンラインコミュニケーションツールなどの使い方を展開し、「情シスから『まずはやってみませんか』という雰囲気を積極的に作っていった」。契約処理や経費精算といった紙を扱う業務については、予算も時間もなかったため新たなツールの導入は断念し、既存のチャットツールで簡単な承認フローを作り、押印は後日行うというルールに変更した。在宅勤務環境では、小さな子どもがいるなど「ライフステージや住宅環境により、在宅勤務が難しい現実もあると改めて実感した」と、未解決の問題もある実情を語る。

 それでも「一度起こった変化には追従するしかないので、コロナ前の状態に戻ることはない」(林田氏)。そのように考えて「攻めのテレワーク環境整備に取り組んでいく」と決意を語る。

経営層やエンドユーザーとの付き合い方

 全社的なテレワークの導入においては「業務管理ができない」という課題が指摘されることが多い。林田氏も「部下が何をしているのか見えない、というのは事実としてある」と認めながらも「管理しすぎてはよくない」と続ける。「人は見られている、管理されているという意識が働くと、余計に緊張してパフォーマンスが出なくなる」(林田氏)。そこで週1回定例で業務の進捗を確認しながら、次はこういう風にやってみようなどとアドバイス的に話をして、「リモートでも業務ができる」と自信をつけてもらうことを心がけているという。

 黒田氏は「自分にジョブディスクリプションがないから、『来た仕事は全部やらなければ』という雰囲気になる」と話す。黒田氏の会社には目標管理制度があり、上司との意識合わせはしているものの、「ついでにこれもやって」と押し込まれる場面が出てきてしまうそうだ。「『自己管理』をして(自分の役割は)ここまで、という線引きを持っていないと、どんどん仕事をしないといけなくなってしまう」と課題を指摘する。

 また社内ユーザーとのコミュニケーションについては、「こういうことをしたい」というユーザーのニーズをかなえることで「貸し」を作っておけば、自分が本当に困ったときに助けてもらえると語る。

 増山氏は、トラブルの報告を受けたときに「『どうして困っているの?』『何があったの?』『どうしてほしいの?』など、しつこいぐらいに聞いている」という。それだけでなく、ふだんの電話などでも「最近どう?」といった具合に、積極的に話しかけていると明かした。

 テレワーク環境ではさまざまなツールを利用しなければならないが、世代的に使いこなしが難しい人もいる。黒田氏は「あまりこっちが手を出しすぎるとやってくれると思われるので、これぐらいのことはやってよ、自分で調べてよ、というスタンスを取ることも大事」と語る。増川氏は「クリックしても大丈夫。何かあったら私がどうにかします」と積極的に声がけをして、安心してもらうことに努めている。林田氏は勉強会を開催したり、操作説明の動画を作成して見てもらうような啓蒙活動を展開したと述べた。

* * *

 なおひとり情シス協会では、2021年12月に実施した「ひとり情シス実態調査」の結果も発表している。

 同調査では、ひとり情シス企業がテレワークを導入する際には「テレワーク導入前の障壁」「週3日以上導入までの障壁」「全日実施に至るまでの障壁」と3つの壁があること、満足度では週1日テレワーク実施が最も満足度が高いことなどが明らかになっている。

テレワークの導入日数と導入に至る課題

テレワーク導入数別満足度

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード