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成功も挫折もあり、ひとり情シス協会とスプラッシュトップのセミナーで体験談を語る

“伝説のひとり情シス”たちは、コロナ禍のテレワークシフトをどう実現したか?

2022年02月14日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 “情シス”こと情報システム担当者が会社に自分1人しかいない、いわゆる「ひとり情シス」の人々にとって、企業における働き方が激変したコロナ禍は大きなチャレンジだったようだ。2022年2月10日、ひとり情シス協会とスプラッシュトップが共催した「ひとり情シスとテレワークの壁」では、3人のひとり情シスが、パンデミックで突然求められることになったテレワークへのシフトにどう対処したのかを語り合った。

後半に行われたパネルディスカッションの模様。左から清水氏(モデレーター)、増山氏、黒田氏、林田氏

PC調達、クラウド活用――多くの課題をどう解決したか

 まずセミナー前半では、書籍「『ひとり情シス』虎の巻」(日経BP社、筆名:成瀬雅光)の著者であり、“伝説のひとり情シス”と呼ばれる黒田光洋氏が講演を行った。

黒田光洋氏。中堅企業のひとり情シスとしてサーバ・システム構築運営からデータ活用、業務システム内製などの業務に従事

 黒田氏は、パンデミック発生を受けて自社が急きょフルリモートワークに移行することになった際の取り組みから、PC端末の確保、クラウド利用、ネットワーク負荷、セキュリティ対策の4つを説明した。

 PC端末の確保は、多くの企業が頭を悩ませた問題だ。黒田氏の場合、たまたまOSのサポート終了で社内から回収していたWindows 7搭載マシンが倉庫にあることに気づき、そこから使えそうな端末を再利用したという。

 ここで問題となったのが古いPCの性能だ。ほとんどが4GBのメモリしか搭載しておらず、Windows 10で起動すると「仕事をするにはつらい」レベルのパフォーマンスしか出ない。ここで内蔵ドライブをSSDに交換してみたところ「そこそこ使える」レベルまで改善することがわかったため、SSDを購入してしのいだ。

 「SSDにすることで(ソフトウェアのインストール作業などの)キッティング時間も大幅に短縮できた。短期間で大量のPCを調達できた」と黒田氏は振り返る。「いざというときは、中古PCもありなんだと勉強になった」(黒田氏)。

 また、黒田氏自身は「オンプレ大好き。クラウド利用には積極的ではなかった」というものの、フルリモートワークを実施することになり「クラウド利用が進んだ」という。具体的にはコミュニケーション系、ストレージ系、リモートデスクトップ系の大きく3つで利用が進んだと語る。

 中でもビジネスチャットについては「予想以外に使えた」そうだ。「LINEみたいなツールなので、導入や展開について心配はしていなかった」ものの、「仕事で使えるのか」「荒れないか」といった不安があったという。しかし、そうした不安は杞憂に終わり、気軽に使えるチャットを通じて「コミュニケーションが活性化した」「メールとの使い分けも進んでいる」と語る。さらに、別のメリットとして「複数の連絡手段があるということは、障害時に業務が止まりにくいということでもある」と指摘した。

 クラウドの活用手段のひとつとして「ちょい足し利用」なるものも紹介した。たとえば、オンプレミスに設置しているファイルサーバーの「重要なデータだけ」を、月数千円でクラウドにバックアップするといった使い方は有効ではないかと語る。

ひとり情シスは「中堅中小企業にとって理想的な運営では」

 ネットワークについては、黒田氏の会社でも「リモートからVPNにつながらない」といった声が上がり、対策に迫られた。もともとVPNは出張者用に用意していたにすぎず、フルリモートワークで全社員が一斉に使うようなことは想定していなかった。「当初はVPNのネットワークがパンクして、仕事がしづらいという状況だった」(黒田氏)。

 そこで、回線や設備の増強と並行して「輪番制でのVPN利用」「クラウドサービスの導入」などの負荷軽減策も講じたという。特にクラウドの導入と利用は効果が高かったという。「オンプレと違って早く導入でき、VPN回線の強化を待たずに負荷を下げられた」(黒田氏)。

 セキュリティ対策については、対策を強化すれば自由度や利便性が下がるため「どこまで追求すべきか悩ましいところ」だと語る。黒田氏の会社では、エンドポイントセキュリティ、操作ログ、PC起動時間の収集ツールなどを新たに導入したほか、「ファイルはPCに置かない」「(クラウドサービスなどの)アカウント共有は禁止する」といったポリシーも伝えた。黒田氏は「一番セキュリティリスクが高いのはヒューマンエラー」であり、それを防ぐにはこうしたポリシーを伝えて「あえて“監視されている感”を出すのも大事では」と、その狙いを語る。

 フルリモートワーク実現に向けた取り組みを総括して、黒田氏はひとり情シスだからこそのメリットもあったことを説明する。

 「(一人でやらなければならないからこそ)全体としての合理性や費用対効果を判断しやすい立場でもある。あまりコストをかけられない中堅中小企業にとって、IT活用とコストを両立する唯一で、理想的な運営ではないか」「ただし、企業はBCP(事業継続計画)にひとり情シスも入れて考えなければ、いざという時に機能しないだろう」(黒田氏)

「ひとり情シスこそテレワークを実施すべき」その理由

 最後に黒田氏は「ひとり情シスこそ段階的にテレワークを実施すべき」だと提言した。黒田氏自身も、自宅に仕事スペースを作って環境を整備し、勤務時間についても4時間勤務+4時間休憩+4時間勤務という“4・4・4”方式の有効性を検証してみるなど、工夫と実験を重ねているという。

 この“4・4・4”という勤務時間は「テレワークで不要になった通勤の時間を昼休みにつなげる」という発想で、実践してみると「仕事のメリハリがつき、夕方の4時間を気持ちよく作業できる」という。さらに現在は休憩時間を7時間に延長した“4・7・4”も検証中だと述べた。「真ん中(昼の時間)が空いていても、朝早くから夜まで連絡が取れるため情シスとしては都合がいいと、上司からも好評だった」(黒田氏)。

 情シスが自らテレワークを実践することで、業務環境のデジタル化も進む。さらに、会社にとって“ITの守護神”である情シス担当だからこそ、いざというときにリスク回避のテレワークができるように備えておくべきだとも語る。

 「テレワークを本気でやると、結果的にデジタル化が進む。やってみて不都合なことを解決すると、それがデジタル化だった」「まずは、週1日の無理のないテレワークから始めることをおすすめしたい」(黒田氏)

 自身の体験をこのように振り返りながら、黒田氏は以下のアドバイスをした。

 ・孤独との戦い。仲間づくりをする
 ・上司とのコミュニケーションを密にして上司を安心させる
 ・在宅時は自分だけで完結する仕事を持ち帰る
 ・マンネリ化しないように変化を自分で作る
 ・「在宅勤務は将来の選択肢につながる」と考えて行動する

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