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異分野コラボから生まれた世界初の研究成果がガン患者を救う 動くガン細胞を観察できるマイクロ・ナノ基盤

世の中を変えるためのあの手この手 〜大学発研究開発型スタートアップの挑戦〜 | NoMaps Conference 2021

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専門分野の融合と努力からイノベーションが生まれる

 マイクロ・ナノ基盤の発明は、繁富氏が手掛ける半導体加工技術を応用したマイクロナノテクノロジーという工学分野の研究と、宮武氏が専門とする顕微鏡で細胞を観察する病理学という異分野の融合から生まれた。

 幼いころは宇宙飛行士なりたかったという繁富氏は、ソーラーパネルの研究から折り紙を応用した折り畳みの研究へと進み、その応用で小さく畳んだものを体内に入れる技術を開発していた。欧米では折り紙エンジニアと呼ばれる人材が、何十億もの予算が付く中で研究開発を10年前から進めているが、折り紙の本場といえる日本では残念ながらそうした発想は無かった。新たに折り紙で世界を救うことを目指して取り組んだのが、ナノバイオや再生医療にも関わる、立体的に折りたためる細胞を作る技術だった。

 一方の宮武氏は、短大生の時に父親を膵癌で無くし、治療薬を開発するため大学院を目指したという異色の経歴を持つ。ようやく研究者になった時に目指した研究が中断していたことから、ウイルス感染症の研究をしながら膵癌の細胞研究を独自に行ってきた。1個のガン細胞が大きく、強くなって治療抵抗性を獲得する研究をしていたところ、北大の関係者を通じて繁富氏を紹介された。分野は異なるが、患者を救い人に役立つ研究をしたいという共通の思いを持つ2人はすぐに意気投合したという。

 そこで、繁富氏が開発していたマイクロナノテクノロジーで細胞を育てる研究装置を使い、同じ実験を宮武氏が行うことになった。細胞を作る実験方法はレシピと呼ばれ、同じ手順を踏めば同じ結果になるはずが、なぜかまったく異なる結果が出た。結果が変わった原因を調べたところ、それがマイクロ・ナノ基盤の発明につながった。

 「普通なら失敗で終わることを世界的な発明につなげたのは、偶然を引き寄せるだけの努力をこれまでしていたからで、これこそがセレンディピティだと思います」と重富氏は言う。奇跡のような偶然の出会いをきっかけに繁富氏と宮武氏は起業することを決め、HSFCに応募して採択された。

 藤江氏は「努力した人たちが出会うと偶然がイノベーションにつながるのではないか」とコメント。研究成果の実装をサポートすることを主な業務とする千脇氏も、研究の成果を社会実装しようと起業を意識する研究者が増え、意識も変わりつつあると言う。これまでの経験から大学内では学際研究や医工連携は以前からあるが、最近は異分野が融合が増えていそうした人の出会いを作る機会をもっと増やしていきたいと述べた。

起業は研究開発を社会実装するための手段の一つ

 藤江氏は、世界ではバイオベンチャーの創業が増え、国内ではペプチドリームやユーグレナ、スパイバーなどが登場しているが、研究成果を社会実装する方法として、企業との協業ではなくなぜスタートアップを選んだのか、繁富氏と宮武氏にその理由を聞いた。

 2人は起業を研究成果を世に出すため必要なビジネスプラン、資金調達、マーケットなどの方法を知る手段の一つであるとしている、事業にすることで産学連携でマイクロ・ナノ基盤の製品化を進めたり、海外のメガファーマと話す機会を持つことができた。また、薬の治験は動物実験の後に人で行うが、種の違いから成功率が下がることからそのギャップからを埋める技術としてマイクロ・ナノ基盤を応用し、動物実験を止めることにもつなげたいと話す。

 さらに2人は共通ミッションである、困っている人たちの命を救うために、教育や研究をしながら新たなロールモデルを北海道から作ろうとしている。「研究開発で起業するのは海外で特別ではないので、日本でもそういう人たちが増えれば状況は変わるでしょうし、常にパッション持ちながら起業のチャンスもつかみたい」と繁富氏は言い、宮武氏も「重富先生とコラボできたことで、研究をパワーに世界を変えていく可能性を感じた」と述べ、今後は研究開発と起業の両方に力を入れていく決意を新たにしていた。

 千脇氏は「大学を基点に企業を巻き込みながらサポートする人材をそろえようとしている。面白い研究ができて起業するなら北海道と言われるよう、国内外でネットワークを構築していきたい」と述べた。藤江氏は「HSFCでは他にも12件の採択案件があり、来年2月に開催されるデモデイでは北海道のポテンシャルをお見せできると思うので期待してほしい」と言い、カンファレンスを締め括った。

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